冬の木枯らしが吹き始めた頃・・・・。
もう狭い海には棲み飽きたとばかりに、ヒトデは有明海から六角川を経て、その支流の武雄川を伝い
ここの駐車場へ辿りつきました。
往き交う人々は皆等しく優しそうで、街には温泉もあって、ビートルズの音楽もどこからか聞こえていました。
「こりゃーヨカとこに来たバイ・・・。」
ヒトデはしみじみと自分の選択の確かさにほくそえみながら、星のような体を折り曲げて喜んでおりました。
ビートルズの音楽と温泉が大好きだったので、我が意を得たりとばかりにご満悦でありました。
そんな時、ヒューッと北風が口笛を吹きました。
するとどこから来たのか、隣に自分によく似た生物が並んで一緒に空を眺めておりました。
「こんにちは、よーし一緒に歌でも唄おうよ・・・。」
ヒトデは仲間が出来たのを知って、また喜びました。
体を折り曲げて、得意のでんぐり返りで親愛の表現をしてみせたりもしました。
すると反対側にも自分とよく似た生物が並んで空を見上げておりました。
「うわーっ、コーラスも出来るかもねぇ・・・。」
もうヒトデは有頂天になってビートルズの歌を口ずさみました。
♪ Lucy in the sky with diamonds・・・・・・♪
だって自分とまったくうりふたつの仲間が近くに居てくれたのですから、海からの長い旅の疲れも吹き飛ぼうというもの。
上機嫌の時にご披露する斜め折れ曲りの秘技もやって見せました。それほど嬉しかったのです。
すると、今度は後にもまるで体の色までもが自分と見間違うようなステキな生物がいるではありませんか・・・。
狂喜乱舞とはこのこと・・・・。
「ビートルズのコピーバンドが作れるバイ・・・・。」
ヒトデはさっそく三人の仲間に音楽の話を始めました。
よく似た生物は、どんなに話しかけても、ただ「カサカサ」と淋しそうな囁きを繰り返すばかりでありました。
やがて墨汁を流し込んだような夜が訪れました。
ヒトデはどんなに話しかけても反応がない、よく似た生物に愛想をつかし、夜空を見上げました。
そこには無数の自分によく似た生物が、キラキラと光りを放ちながら唄っておりました。そこでやっとにっこり微笑んだヒトデはうっとり聞き惚れながら、一緒に体を揺すりました。
しかし、大変なことに、ヒトデは海の中でしか生きれないことに気がついていませんでした。
、思わぬ冬の寒さに震えながら、段々と遠くなる意識の中でかすれた声を振り絞り、歌を唄いました。
♪ Lucy in the sky with diamonds・・・・・・♪ 空の上のよく似た生物達も一緒に唄ってくれました。 やがて、こと切れたヒトデは、フワリと木枯らしの案内で空へと昇っていきました。 実はこっそり教えるけど、 夕方、一番に光りだす赤い星がそのヒトデなんです。 大阪にいる孫のために・・・お話を創りました。