ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番 ~『のだめカンタービレ』第5話

2006-11-14 23:59:10 | 音楽の森


花束抱えて君の元へ・・・


 次から次へと流れてくるクラシック音楽に耳を傾けながら、「こんなに気持ちがいいなら、最初から見ればよかった~」と思った。ああ~、放送日を間違えて第1回目を見逃さなければ・・・のだめと同じ〈いじけ癖〉が恨めしい・・・あいや~~
(大丈夫、再放送があるさ! それに来年からアニメと、そして続編も?)

 実をいうと、私のクラシック体験は、子供の頃に両親が情操教育用に?買ってくれた2枚組×12巻のレコードが全てだった。確か、『子供のためのクラシック』とか、そんな題名がついていたと思う。第1巻がブラスバンドとアメリカ民謡、第2巻が小品名曲とシューベルトの歌曲といった具合に、一巻につき楽曲と声楽のレコードが1枚ずつ入っていた。また、楽器の種類やオケの編成、クラシック音楽の歴史や音楽家について、丁寧な解説書がついていて、重宝したものだった。愛聴していたのは第1巻のブラスバンド(好きだったのは、『アメリカン・パトロール』『軽騎兵序曲』『ラデッキー行進曲』)と第12巻の交響曲(ベートーヴェン『田園』『第九』、モーツァルト『交響曲第40番』)。あとは第7巻?の「室内楽とセレナーデ」から『弦楽セレナーデ』だったり、『くるみ割り人形』の「花のワルツ」や『アルルの女』の「メヌエット」、それに『口笛吹きと子犬』や『シンコペーション・クロック』や『愉快なかじ屋』といった小品だった。
 のだめのBGMは懐かしさを運んでくれる。二度と聴くことのできないこれらのレコードを聴いているような気分になれる。ほら、あのミツバチがぶんぶんいってるような曲は、なんて名前の曲だっけ? シューベルトの『魔王』が、ホラー映画のように子供心に怖ろしかったことまで、思い出してしまった。

 たった1週だったけれど、ちょうど今回が最初のパートの「まとめ」だったせいか、千秋(玉木宏)と、のだめ(上野樹里)と、シュトレーゼマン(竹中直人)のポジションをだいたい把握できた。来週からは新展開といった感じでもあり、それほど「遅れ」を感じずにドラマについていけそうだ。特に、ただのスケベ親父だと思っていたシュトレーゼマンに大ロマンスがあって、思い入れの曲がラフマニノフの「ピアノ協奏曲2番」だったとは・・・感無量です。

 『ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番』といえば、ジョーン・フォンティーンとジョセフ・コットン主演の映画『旅愁』(50)。特に、第2番第2楽章とクルト・ワイル作曲、ウォルター・ヒューストン唄の「September Song」が有名だが、ラフマニノフを意識するようになったのは、実はこの映画ではない。

 のだめとは違うけれど、クラシックおたくな女の子がいきなり「良かったら聴いてみてください」と貸してくれた3枚のCDの中に、ラフマニノフのピアノ協奏曲があった。  僕は、第1楽章が終わり第2楽章に入って、ピアノとフルートによる主旋律が流れてきたときの衝撃を今でもはっきり覚えている。心の奥底から音楽がじわじわと湧き上がってくる感じだった。そしてそれが体全体に広がっていくのと同時に、CDを貸してくれた彼女の顔が目の前に浮かびあがったのだ。こんな体験は生まれて初めてだった。

 CDを返したときに、特にラフマニノフの2番が良かったことを伝えたら、ひどく彼女は喜んだ。「このラフマニノフの2番は、自分が持っているラフマニノフの中で、一番お気に入りの演奏なんです」と言って、心底嬉しがった。今思うと、まるで〈のだめ〉のような表情で・・・
 それから、彼女は次々とCDを貸してくれた。どれもこれも素晴らしかった。ダンボール何箱も持っているCDの中から、とっておきの演奏を聞かせてくれていたので、当然といえば当然の話だが、そうして僕は、ロストロポーヴィッチやギドン・クレーメルを知り、ハインツ・ホリガーのオーボエや、今井信子のヴィオラを愛するようになった。彼女が最も好きだったのは、ウラジミール・ホロヴィッツのピアノと、ヘルマン・プライの『冬の旅』だった。ヘルマン・プライは、一緒に日本公演を聴きにいった。

 彼女は市民オケに入っていて、定期的に演奏会に出演した。フルートが彼女のパートだったが、第2ヴァイオリンやヴィオラを弾くこともあった。OGとして大学のマンドリン・オーケストラでマンドリンも弾いていた。一度だけ彼女のマンドリンと、僕がギターを弾くことを条件に、ビヴァルディの『四季』から「冬」を合奏した。それほど難しい曲じゃないので、練習すれば僕でも何とか主旋律を弾くことができた。それから僕の大好きなピアノ・・・ピアノは得意ではないと言っていたが、ショパンの『華麗なる大円舞曲』を聴かせてもらったときは、胸が高鳴った。
 彼女とは本当にいろいろなことを話したし、一緒に映画を見たり、音楽を聴きにいった。僕は彼女に手紙を100通書くことにした。99通目の手紙を投函したのは、10年以上も前になる。100通目の手紙は出していない。それを出したら、永遠にさよならを告げることになると思ったからだ。くもの糸ほど細かろうが、どこかで繋がっている想いを断ち切りたくない。

 彼女がフルートを吹いていた『チャイコフスキー交響曲第1番~冬の日の幻想』と、『シベリウス交響曲第1番』は、お手本として貸してもらったCDに匹敵する演奏を見つけることができたけれど、『ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番』だけは、未だにあのとき聴いた演奏を凌駕するものに出逢えない。思い出の中で昇華されてしまったならば、それを凌ぐのは至難の業だろうが、ツィマーマンが『2番』(指揮は小沢征爾)を演奏しているので、近日中に聴いてみようと思う。千秋が弾くラフマニノフは、テレビドラマといえどもかなりの感情が込められていたし、タクトを振るシュトレーゼマンからも気持ちをもらって、なかなか良い演奏だったんじゃないかな。何しろ、堤が切れたように、昔のことを一気に思い出してしまったのだから・・・こんなことを書いてしまったのは、皆、あのシュトレーゼマンを演じた竹中さんのせいだ!

 千秋&のだめ、そしてシュトレーゼマン。彼らはどこを目指してどこに向かっていくのか? どうやら、福士サンの黒木君が出演しなくても、目が離せなくなってしまった模様・・・
(眼をこらして予告編を見たのに、黒木君いませんでしたね・・・)


 左上は、黒木君(ホリガー)の『オーボエ協奏曲 K314、K313』。右上は、同じく『オーボエ四重奏曲 K370』と、『アダージョとロンド K617』 『オーボエ五重奏曲 K416』(以上モーツァルト)。下は、黒木君(ホリガー)と達彦さん(ブレンデル)による『オーボエとピアノのための3つのロマンス』その他、オーボエとピアノのための作品集(以上シューマン)。

PS.11月16日(木)に次週の予告が公式HP上にアップされるそうです。黒木君の動向がわかるかな~?