僕が初めて自転車を買ってもらったのは、小学校3年の時、中古自転車でした。周囲の友達は、背丈に見合った16インチくらいのサイズの新車を買ってもらっていました。(フラッシャーなどのサイクリング車を買ってもらう人が出てくる時代は、もう少し後でした。)僕のは、大人が仕事で使う自転車のサビだらけの中古。友達からは「運搬車」と呼ばれました。
父親がどこからか持って来た自転車・・。軽トラの荷台から地面に降ろした途端、地面に赤錆がバラバラと落ちました。それを父親と二人でサンドペーパーで磨いて、錆を落とすのです。金属そのものが無くなるのではないかと思うほど、錆は落ちました。「ペンキを塗ったら綺麗な銀色になるぞ」と言われたので、ワクワクしました。
新車の自転車のシルバーの金属部分は鏡のように、自分が映ります。それを期待していたのに、銀色のペンキを塗った自転車は、どちらかと言うと灰色(グレー)で、光沢も無ければ鏡のように自分の顔も映りません。絵具やマジックペンの金色、銀色を見るたびに、あれから50年は経った今でも、この時のことを思い出します。
サドルは皮製でひび割れていたし、荷台にはゴムチューブのようなロープが掛かっていました。二人乗りで子供が座るには幅が広すぎて股が痛くなるような、まさに荷物を運ぶための荷台でした。完全に大人用でサイズが大きいので、小学校3年の僕は止まるたびに足が左右どちらも地面に着かず、すぐにこけそうになっていました。それをまた笑われる。「自転車買ってもらったんだね。」とは近所のおばちゃんも言ってくれるのですが、あまりにも身体の大きさに合わない自転車のサイズを見てなのか「良かったね」とは、誰も言ってくれませんでした。
当時の子供用自転車がどれだけ高額だったのかは分かりません。中古がどれくらい安かったのかも知りません。ただ、せっかく手に入れても辛い思いをするものだけは、金輪際買わないと、僕はこの時誓いました。