元気があれば、復興もできる。元プロレスラーのアントニオ猪木(68)が5日、東日本大震災で多大な被害が出た福島県いわき市と宮城県東松島市の避難所4か所を慰問。ミネラルウオーター3万リットル、真っ赤な闘魂タオル5,000本、ダウンジャケット500着、女性用あったか肌着(相当量)などの支援物資を送った。さらに希望した被災者約30人に、ビンタを見舞って復興へ立ち向かう闘魂を注入した。僕も同行した現場からのレポートです。
一行はいわき市の小名浜近くにある江名中学校の避難所に向かったが、海が見えてくると、誰もが言葉を失った。つぶれ、傾いた家々。水につかった家財道具が無残に陽光を浴び、橋が落ち、川には転落した車が放置されている。墓石は倒れ、道路は陥没し、信号は消え、自衛隊員が交通を整理している。蝶野が「市街地から突然、違う光景になった」と驚き、澤田が「映画の世界ですね」とつぶやく。今は陽光にきらめく穏やかな海面を見つめた宮戸優光GMは「静かな海なのに、想像もつかない」と絶句した。東松島市の大曲浜地区での被害はさらに甚大だった。行けども行けども全壊した家や建物、ひっくり返った船舶や車、がれきが交ざり合い、海水もまだ引いていない。4日までに判明した同市の死者は848人で、案内した渥美巌県議は「東松島の人間は誰もが身内を亡くしている」という。
震災から25日目の光景に、猪木は「(被災者の)現実はもっと悲惨だろう。がれきの山を見たら言葉がなくなってしまった」とうめいた。それでも、蝶野が「皆さん、次の行動を起こされている」と感じたように、被災者は明るく一行を歓迎した。猪木が「きょうは『元気ですかーっ!?』って言っていいのか悪いのか」とためらうと「元気です!」と答え、猪木に「水戸黄門様のようです」と声をかける女性も。
「元気ですかーッ」。いわき市立江名中学校の体育館で猪木が絶叫すると、避難生活を送る約90人の被災者から拍手が巻き起こった。「足りないものはありませんか」「困っていることはないですか」と声をかけ、握手しながら回った。
闘魂注入ビンタに、被災者への愛情と復興への思いやりを込めた。津波で自宅が半壊し、通学する同校で避難所生活を続ける高久麻衣さん(14)の前に仁王立ちした猪木は「願いごとを思い浮かべて。行くぞ!!」とピシャリ。感極まった高久さんは、泣き崩れて「衝撃で何も頭に浮かびませんでしたが、これで元気に始業式を迎えられそう」と話した。東松島市の災害対策本部では自衛官にも闘魂を注入した。
慰問には、新日本プロレスの後輩、蝶野正洋(47)やIGF所属の猪木門下レスラー4人も帯同。東松島市では“ご当地レスラー”のザ・グレート・サスケも参加した。飲料水などを運び込む屈強な男たちが、被災者を勇気づけたのは間違いない。いわき市立藤原小で猪木に闘魂タオルを首にかけてもらった60代の女性は「前に進む元気をもらいました」と感激。闘魂注入を受けた整体師の松崎仁美さん(20)は「放射能で避難していますが、やっと気持ちがスッキリしました」と話した。
いわき市など被災した東北の都市の多くは、猪木が若手時代から何度も巡業で訪れている。家屋が倒壊する浜通り地方を目にした猪木は、心を痛めつつも「思った以上に皆さんは元気で、逆に元気を頂いた。今はどんなに苦しくても、悲しくても立ち上がってほしい」と話した。
猪木は自粛ムードが続き、経済が停滞することを危惧。被災者一人ひとりに「元気があれば復興はできる」と声を掛けた。最後は、布団に入っていた高齢者も起き上がり、一緒に「1、2、3、ダーッ」で復興を誓い合った。