日本では『雪山賛歌』として愛唱され、また、有名な映画『荒野の決闘』の挿入歌としても広く親しまれている歌が「いとしのクレメンタイン」です。
元々はカリフォルニアのゴールドラッシュに集まってきた男達の間に流行した歌です。1849年、ロスアンゼルス近郊で金の鉱脈が発見され、全米から荒くれ男が集まってゴールドラッシュが始まりました。彼らはフォーティナイナー(49er’s)と呼ばれ、その中の一人の鉱山主の娘クレメンタインは、これら荒くれの憧れの的になります。そして有名なフォークソング”My darling Clementine”が生まれました。NFLのアメフトのチーム名もここから来ています。ちなみにこのゴールドラッシュで財を成した人は大勢いましたが、いづれも砂金を掘った人々ではなく、その地にホテル、酒場、賭博場、女性によるサービスなどの店をオープンした人々、そして郵便会社、駅馬車や鉄道会社であったのは皮肉だったとしか言えません。
さてこの西部の名曲"My Darling Clementine"は、作者不明のアメリカ民謡と思っていたのですが、実は調べて見るとPercy Montroseという人物が作詞・作曲したもので、1884年発行の詩と楽譜が残っていることが分かりました。さらに、Montroseがこの曲を作るに当たって少なくとも歌詞については、1863年に公表された、H.S.Thompsonの"Down the River"を下敷きにしている事も分かりました。1884年のMontroseの発表の後、歌詞の若干異なるバージョンがある事も分かりました。歌詞については、歌が広まっていく間に、恐らく色々な言葉が付け加えられて変わって行ったであろうことが、容易に想像出来ます。それだけ愛された曲だと言うことなのでしょう。
これまで調べて来て分かったことは、大きく分けて4つの"My Darling Clementine"が存在するということです。その4つをご紹介したいと思います。4つ全てに共通することは、歌の内容、つまり歌われている物語の内容です。その内容は、「クレメンタインという娘がアヒルを飼っていて、それを川に連れて行った時、木切れに足を引っ掛け川に落っこちてしまう。しかし彼(恋人であったり、父親であったりする)は、泳げなかったので彼女を救う事ができず、彼女は死んでしまう。」というものです。
さてあなたが知っている"My Darling Clementine"は次のどのバージョンだったのでしょうか?
1. H.S.Thompson:"Down the River", 1863
~クレメンタインは川のほとりに1人で住んでいた。彼はクレメンタインにライ・ウイスキ-を飲ませ、酔わせてしまう。クレメンタインのアヒルが川に逃げ出す。クレメンタインはアヒルを連れ戻そうとした時、切り株につま先を引っ掛け川に落ちてしまう。しかし、彼は泳げない。クレメンタインを救うことが出来ない。クレメンタインは絶命する。「アヒル-川に落ちる-泳げないので救えない-絶命」というパタ-ンの原型です。~
*尚、歌詞の1番から3番までは通常の英語ですが、4番からはひどい訛りとなる。The→De、Wether→Wedderは分かったが、 River→Riber、Ever→Eberなどのvがbの変化、ましてJesus Christ→Kersliverなどは、勘弁してよ~と思ったものです。(笑)
Down by the River there lived a maiden,
In a cottage built just seven by nine,
And all around this lubly bower,
The beauteous sunflower blossom twine.
CHORUS [sung after each verse]
Oh! my Clema, Oh! my Clema,
Oh! my darling Clementine,
Now you are gone and lost forever,
I'm dreadful sorry Clementine.
Her lips were like luscious beefsteaks
Dipp'd in tomato souse and brine,
And like the cashmere goatess covering
Was the fine wool of Clementine.
Her foot, Oh! Golly! Twas a beauty,
Her shoes were made of Dig-by pine,
Two herring boxes without tops on
Just made the sandals of Clementine.
One day de wind was blowing awful,
I took her down some old rye wine,
And listened to de sweetest cooings,
Oh my sweet sunflower Clementine.
De ducks had gone done to de riber,
To drive dem back she did incline,
She stubb'd her toe and
Oh! Kersliver.
She fell into the foamy brine.
I see'd her lips above de waters,
A blowing bubbles bery fine,
But 'turnt no use I want no swimmer,
And so I lost my Clementine.
Now ebry night down by the riber,
Her ghostess walks long half past nine
I know tis her a kase I tracked her,
And by de smell tis Clementine.
Now all young men by me warning,
Don't gib your ladies too much rye wine,
Kase like as not is this wet wedder,
Dey'll share de fate ob Clementine.
川に沿って下って行った所に
娘が住んでいた
間口7尺、奥行9尺の小さな小屋に
この無骨なあずまやの周りには
美しいひまわりの花が咲いていた
コ-ラス [各節の後に歌われる]
ああ!私のクレマ、ああ!私のクレマ
ああ!私の愛しいクレメンタイン
君は死んじゃってもう永遠に戻って来ない
ひどく後悔しているよ クレメンタイン
彼女の唇はトマトソ-スと塩水に
漬けた美味しいビ-フステ-キのようで
クレメンタインの素晴らしい髪の毛は
カシミヤ雌山羊のおおいのようだった
彼女の足はというとこれは、とても美しくて
彼女の靴は松の木製の
ニシンの箱のふたを取った物
それがクレメンタインのサンダルだった
ある日、風さ強く吹いとっただ
彼女にライ・ウイスキ-を飲ませて
彼女の甘い甘いささやきを聞いとった
ああ、俺さの愛するひまわり クレメンタイン
あひるが川に逃げて行っちまった
やつらを戻そうとして、彼女はよろけちまった
足のつま先を切り株にぶっつけちまった
ああイエス・キリスト様!
彼女は泡立つ水の中に落っこちまった
唇が水面に浮かぶ彼女を見た
吹き流れる泡はとても細かだった
でも俺は泳げねえ、どうにもなんねえ
んで 俺のクレメンタインを亡くしちまった
毎晩9時半に川に沿って
彼女の幽霊が歩くんだ
俺、後を付けてったから彼女だって分った
それに匂いでもクレメンタインだって分った
若い衆よ、俺の忠告聞きなよ
あんたらの彼女にウイスキ-を飲ませすぎちゃあいけねえ
こんな雨の日じゃなくたって(事故は)起こったんだから
(飲ませすぎると)あんたらの彼女たちもクレメンタインと同じ運命になるよ
2.P.Montrose:"My Darling Clementine", 1884 (歌詞は3番まで)
~Down the Riberの発表から20年余経て、同じボストンのOliver Diston社から発表されたものである。ここでクレメンタインは、1849年のゴ-ルド・ラッシュに集まった鉱山師の娘となる。原詩出典資料では3番までしかない。作詞・作曲はMontrose、1883年、ボストン市でvaudeville(寄席?)が始まった頃から広く知られるようになった曲と紹介されている。これが今日のこの曲の原型です。~
In a cabin, in a canon,
An excavating for a mine;
Dwelt a miner, a forty-niner,
And his daughter Clementine.
Chorus:
Oh my darling, Oh my darling,
Oh! my darling Clementine,
You are lost and gone forever,
Drefful sorry, Clementine.
She drove her ducklets, to the river,
Every morning just at nine;
She stubbed her toe, against a sliver,
And fell in to the foaming brine.
I saw her lips above the water,
Blowing bubbles soft and fine;
Alas for me, I was no swimmer,
And so I lost my Clementine.
とある峡谷の小さな木の家に
鉱石を採掘する
一人の49年野郎の鉱山師が
彼の娘クレメンタインと住んでいた
コ-ラス:
ああ私の愛しい、ああ私の愛しい
ああ私の愛しいクレメンタイン
お前は死んじゃってもう永遠に戻って来ない
ひどく後悔しているよ クレメンタイン
彼女は毎朝9時きっかりに
彼女のあひるのヒナ達を川に連れて行った
彼女は片方の足のつま先を切り株にひっかけて
泡立つ川の水に落っこちてしまった
俺は水面に彼女の唇を見た
風に流れる泡は柔らかく細かった
ああ俺は何とした事か 泳げないんだ
そして俺のクレメンタインを失ってしまった
3. B.Bradford:"Clementine", 1885
~Montroseの発表から1年後に発表。あるいは、Montroseの発表以前に多くのクレメンタインが世間に流布していたことを示す証拠の1つかも知れない。このBradford版では、「鉱山師の娘-アヒル-川に落ちる-泳げないので救えない-絶命」のパタ-ンは、Montroseのものと同じであるが、鉱山師と言っても親方。クレメンタインはその幼い娘である。父親の娘に対する想い、娘を亡くした時の悲しみが胸をうつ。英語はここに取り上げた4種のクレメンタインの中で最も詩的であり、原型の原型版の4番以降の南部訛りの英語と対照的です。~
In the centre of a golden valley
Dwelt a maiden all divine,
A pretty creature a miner's daughter
And her name was Clementine.
Refrain:
Oh my darling, Oh my darling,
My darling Clementine,
You are lost for me forever,
Dreadful sorry, Clementine.
Her noble father was the foreman
Of ev'ry valued mine,
And ev'ry miner and ranchman
Was a brother to Clementine.
The foreman miner, an old forty niner
In dreams and thought sublime,
Lived in comfort with his daughter,
His pretty child Clementine.
When far away, he would often pray
That in his sunny clime
No harm might overtake her,
His favorite nugget, Clementine.
When the day was done and the setting sun,
Its rays they ceased to shine,
Homeward came the brawney miner
To caress his Clementine
None was nearer, none was dearer,
Since the days of forty-nine
When, in youth, he had another
Who was then his Clementine.
She led her ducks down to the river,
The weather it was fine,
Stubbed her toe against a sliver,
Fell into the raging brine.
He heard her calling : father,
Her voice was like a chime,
But alas he was no swimmer,
So he lost his Clementine.
金の取れる谷の真ん中に
とても素敵な女の子がすんでいた
可愛いその子は鉱山師の娘で
名前はクレメンタインだった
コーラス:
ああ私の愛しい、ああ私の愛しい
ああ私の愛しいクレメンタイン
お前は死んじゃってもう永遠に戻って来ない
何て可愛そうな、クレメンタイン
彼女の素晴らしいお父さんは、価値のある
金鉱堀ではいつも親方だった
そして鉱山師や牧童はみんな
クレメンタインのお兄さんだった
親方である鉱山師は年取った49年者で
夢と思慮の昇華の中
彼の娘、彼の可愛い子供、クレメンタインと
快適に暮らしていた
遠くに居る時 お日様一杯の中で
彼はしばしば祈った
彼の金の塊、クレメンタインに
危害が及びませんようにと
その日が終り陽が傾きかけていた
お日様の光も輝きを止めようとしていた
筋骨逞しい鉱山師はクレメンタインを
抱っこして帰宅する時間が来た
49年(のゴ-ルド・ラッシュ)の日以来
彼には身近な人も、愛する人も居なかった
しかし青年の時、身近な愛する対象を得た
それが彼のクレメンタインだった
クレメンタインは彼女のアヒルを川に連れて行った
その時、お天気は良かった
彼女はつま先を切り株に引っ掛け
激流の川に落ちてしまった
彼は彼女が叫ぶのを聞いた、「お父さん」
その声は鈴のようだった
しかし、何とした事か、彼は泳げなかった
それで彼はクレメンタインを失った
4.Oh My Darling Clementine (Current Version)
* 曲はMontroseのまま、歌詞は11番まで。
~原型版の2番の歌詞がここでは4番。つまり、この現行版の2、3番は後から追加されたものだと思われる。同様に、5番以降も、「それでどうした」、「それでね」、「それでね」、と、話を発展させていったものと思われる。尚、現行版にも幾つかのテキストがあり、これに掲載したのは、その内の1つです。~
In a cavern, in a canyon,
Excavating for a mine;
Dwelt a miner, forty-niner,
And his daughter Clementine.
Refrain:
Oh my darling, Oh my darling,
Oh! my darling Clementine,
You are lost and gone forever,
Dreadful sorry, Clementine.
Light she was,and like a fairy,
And her shoes were number nine,
Herring boxes without topses ,
Sandals were for Clementine
Walking lightly as a fairy,
Though her shoes were number nine,
Sometimes tripping,lightly skipping,
Lovely girl my Clementine.
Drove she duckling to the water,
Ev'ry morning just at nine,
Hit her foot against a splinter,
Fell into the forming brine.
Ruby lips above the water,
Blowing bubbles soft and fine,
But alas , I was no swimmer,
Neither was my Clementine.
In a churchyard near the canyon,
Where the myrtle doth entwine,
There grow rosies and some posies,
Fertilized by Clementine.
Then,the miner,forty-niner,
Soon began to fret and pine,
Thought he oughter join his daughter,
So he's now with Clementine.
I'm so lonely,lost without her,
Wish I'd had a fishing line,
Which I might have cast about her,
Might have saved my Clementine.
In my dreams she still doth haunt me,
Robed in garments soaked with brine,
Then she rises from the water,
And I kiss my Clementine.
Listen fellers,heed the warning,
Of this tragic tale of mine,
Artificial respiration
Could have saved my Clementine.
How I missed her,how I missed her,
How I missed my Clementine,
Till I kissed her little sister,
And I forgot my Clementine.
とある峡谷の とある洞窟に
鉱石を採掘する
一人の49年野郎の鉱山師が
彼の娘クレメンタインと住んでいた
コーラス:
ああ私の愛しい、ああ私の愛しい
ああ私の愛しいクレメンタイン
お前は死んじまってもう永遠に戻って来ない
ひどく後悔しているよ クレメンタイン
彼女は軽やかで、妖精のよう
彼女の靴サイズは9番(27cm)で
ニシン箱の蓋を取ったものが
クレメンタインのサンダルだった
軽やかに妖精のように歩き
彼女の靴はサイズ9番だったけど
時には踊るように軽やかにスキップして
愛らしい乙女、私のクレメンタイン
彼女は毎朝9時きっかりに
あひるのヒナ達を川に連れて行った
彼女は片方の足のつま先を切り株にひっかけて
泡立つ川の水に落っこちてしまった
紅色の唇が水面の上に
風に流れる泡は柔らかく細かかった
ああ何としたことか、俺は泳げなかったんだ
俺のクレメンタインも泳げなかったんだ
その渓谷のとある教会の
つるにち草がからみあう庭に
バラと幾つかの花が育っていた
埋葬されたクレメンタンが土を肥沃にした
やがて、49年野郎の鉱山師は
くよくよして やつれ始めた
彼は娘と一緒にいるのが当然だと思い
今 彼はクレメンタインと一緒に眠っている
俺は淋しく 彼女を失い当惑していた
もし釣竿を持っていたならば
釣り糸を投げて
クレメンタインを救えたかも知れないのに
俺の夢の中に 今でも彼女は出て来る
水に濡れたガウンをまとって
彼女は水の中から起き上がる
そして俺は 俺のクレメンタインにキスをする
みんな 警告を聞きな
鉱山の悲劇の話の警告を
人工呼吸で
クレメンタインを救えただろうか?
俺は彼女が居なくてどんなにどんなに 淋しかったことか
俺は俺のクレメンタインが居なくてとても淋しかった
でも 俺は彼女の妹にキスして
俺はクレメンタインのことを忘れた