元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

還暦をずっと前に迎えた(元)社労士の新たな挑戦!ボチボチとせこせこせず確実に、人生の価値を見出そうとするものです。

「舞いあがれ」求人サイトの募集は労働契約申込の誘因⇒労働契約は「指揮下労働」「賃金支払」「その合意」があれば成立(賃金額の決定は不必要)

2023-02-11 10:33:26 | 社会保険労務士

 労働契約成立と具体的な労働条件決定は別でトラブル防止のため書面確認・内容の明示義務(労働契約法・基準法)

 朝ドラ「舞い上がれ」(91回・2/10). 社長のめぐみの所へ舞が決裁文書をもってやって来た。めぐみはパソコンを覗いている。

(・舞);メール来ました?    (・めぐみ);全然来てへん。                               (・山田);何のメールですか。 (・めぐみ);求人サイトにIWAKURAの情報を載せたおってな。それを見た人から問い合わせがきてへんかなって、待ってんやけど。                                                         (・山田);そもそも工場で働きたいという人自体が少ないですからね。私も、よう要らん心配されますもん。何で工場なんかで働いているのかとか。仕事きついし、危ないのとちゃうのか。なんかそういうイメージ持たれていますね。  (・めぐみ);なんとかせな、いつまで立っても人手不足やわ。

 IWAKURAの求人サイトの募集は、あくまでも、労働契約の申し込みの「誘因」であって「勧誘的なもの」である。それを見た人(労働者になるべき者)からの「問い合わせ」があって、その人が労働契約の内容詳細を理解することになる。そこで、労働契約が成立するためには、改めて労働者の申し込み(場合によってはIWAKURAからの申し込み)があり、そしてIWAKURAの承諾(場合によっては労働者の承諾)となり、このことにより労働契約内容の合意となって、初めて労働契約の成立に至ることになるのである。だから、求人サイトに上げただけでは、労働契約締結までは、段階的には、まだまだの感がある。労働契約の成立となって、初めて、企業は働いてもらい、労働者は労働して賃金を得ることができるのである。   ※※以下、 労働契約・雇用契約どちらの表現もあるが、ここでは同じ意味と理解してもらってよい。

 さて、商品の売買においては、いくらで買うかという値段は、契約の重要な条件(=法的には「要件」)であり、これが決まっていないと一般的には売買契約は成立しないといっていいのであるが、雇用契約の場合はどうなのか。雇用契約の場合は、これは「賃金」の額に他ならないのであるが、賃金の額が決まらない限り、雇用契約は成立しないのであろうか。             

 労働契約法では、労働契約の成立要件として「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。」とある(労働契約法6条)。これは、労働契約の成立は、①、労働者が使用者に使用されて労働すること(指揮監督下の労働) ②、使用者がこれに対し賃金を支払うこと(労働に対し賃金を支払うこと) ③、①②のことで労働者と使用者が合意すること(意思表示の合致)の3つが要件となるとしているのである。

 これに加え、さらに、例えば、具体的な賃金額の合意が必要になるかについては、有名な最高裁判決がある。これは「内定」が雇用契約の成立にあたるのかという争いであったが、いわゆる、この「大日本印刷事件」では、会社側が「採用内定の段階では賃金(額等)、労働時間、勤務場所等の労働条件が明らかになっていないため雇用契約が成立していない」と主張したが、裁判所側は、具体的条件が決定されていない「採用内定」での労働契約の成立を認めたのである。すなわち、①②③の要件が認められれば、当事者間に労働契約が成立しているとされたのである。

 また、荒木・菅野・山川氏の「詳説労働契約法」では、次のように述べている。『労働契約法(6条)は、労働契約の成立に関するこのような多様な現実(すでに契約内容が具体的に詳細に決定しているものやそうでないものもある。)の中で、労働契約の共通の成立要件としては、・・抽象的な労働提供と賃金支払いの合意で足り、従事すべき労働の具体的内容や労働時間等の詳細まで合意されることは必要がなく、同様に賃金の額、決定方法、支払い時期が具体的に合意される必要もない、としたものと解される。』 要するに、使用者が労働の内容、賃金支払いの具体的内容を明示していなくとも、たとえ、これらを後から決定したとしても、労働契約そのものは成立するとの立場をとったものである。また、関連する規則や規程、労使慣行、従前の労働条件等に照らし、その雇用契約を解釈することによって、補充的に決められる場合も多いからでもあると考えられる。        

    ただし、これはどこで契約が成立しているかの判断であって、具体的な労働の内容、賃金額等について、決定されていないことでよいということではなく、その後の継続的な労働関係にある労働者と使用者にあっては、むしろこの契約は事細かに決定されることが必要です。これらが決定されていないことは、後々の労働トラブルの原因となります。そのため、労働契約法では、労働者の理解を深めるため、できるだけ契約内容を書面で確認されるべき旨を規定し、また、労働基準法では、使用者に対して、契約の内容について書面による明示義務を課しているのである。 

 なお、労働契約は諾成契約であり、口頭でも成立するというのは法律的な考え方であるが、上記の通り、労働契約法・労働基準法では、「書面」確認・明示を規定しているのである。

 (参考) 詳解労働法第2版 水町勇一郎著 p457~459  

     労働法      菅野和夫著  p153~154                                                                                               

 

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