超級龍熱

香港功夫映画と共に

邵氏日本人導演的日活時代② “電光石火の男”リングに立つ!赤木圭一郎主演『打倒(ノックダウン)』

2012-07-04 10:05:40 | その他
最近台湾と韓国の聯合特撮怪獣映画『龍王三太子』(77)の韓国バージョンのオリジナルVHSを入手したんですが、これって確か台湾バージョンはジュディ・リーこと嘉凌、韓国バージョンは金正蘭が主演でしたね。この『龍王三太子』で特に興味深いのが台湾バージョンで高飛が演じていたキャラを韓国バージョンではあの林正英が香港から参加(他にも韓国遠征常連組の楊威も出演)して演じている事でしょう。それにしてもこの映画に唐突に出て来る赤毛の巨大怪獣と巨大白猿の対決シーンは結構迫力ありますねえ!参考までに『龍王三太子』の台湾&韓国2つのバージョンの詳細データを下記に貼っておきますのでご覧になってみて下さい↓

http://hkmdb.com/db/movies/view.mhtml?id=10261&display_set=eng (台湾バージョン)

http://www.kmdb.or.kr/eng/md_basic.asp?nation=K&p_dataid=03162 (韓国バージョン)

またこの『龍王三太子』韓国バージョンに林正英が出演している事を私が知る限り過去に唯一紹介&検証していたのが、さくらさんが管理人を務めるこちらのサイトでした。
本当に良く調べてらっしゃると感服しました→ http://sakuraoyajimovie.web.fc2.com/oyajimovie2/2007/pdking.htm
でもこの『龍王三太子』韓国バージョンのVHSジャケットって映画とは全く無関係の王虎の写真が使用されてて、これってこのVHSを買った人はてっきり王虎主演作品だと思ってVHSを再生したら思い切り怪獣映画!状態で大ショックだったかもねえ(苦笑)。

さて、「邵氏日本人導演的日活時代」の第2回は麥志保こと松尾昭典監督、そして“和製ジェームス・ディーン”こと赤木圭一郎主演によるボクシング映画『打倒(ノックダウン)』(60)でいきたいと思います。
往年の“日活ダイヤモンドライン”の一角を担った赤木圭一郎の代表作といえば、何と言っても銃アクションの傑作“拳銃無頼帖”シリーズですが、今回は敢えて日活の男優ならば必ず一度は通る道と言われたこの本格的ボクシング映画でいきたいと思います。
ボクシングジム会長の野中修一(大阪志郎)は、大学で趣味でボクシングをやるという強烈なパンチ力を持つ青年高野昭(赤木圭一郎)に出会うと、自分が現役時代にあと少しで届かなかった世界チャンピオンの夢を昭に託そうと熱心に昭をボクシングの世界に勧誘します。しかし昭は亡き父の遺志を継いで兄の高野雄介(二谷英明)と共に電子工学の道に進みたいと野中の誘いを断ります。
ところが、昭は雄介が会社で新しい設計が盗作だという理由で会社をクビ同然で追われ、さらには暴漢に襲われ重症を負い入院した事を知ると、兄の生活費を稼ぐために野中の許でボクサーの道に進むことを決意します。
そんな昭を慕う従妹の美和子(稲垣美穂子)は昭に「私、本当は昭さんにはボクシングじゃなくて、平凡でもいいから街の小さな電気屋さんになって欲しかったんだけどなぁ」と自分の淡い恋心を昭に伝えるのでした。その昭と同じ大学に通う自由奔放なひろ子(和田悦子)は美和子の目の前で盛んに昭に迫り、純真な美和子の心は激しく傷つき、美和子は昭を諦めようと悩み苦しむのでした。そして昭はデビュー戦からその強烈なパンチ力で連戦連勝!やがて昭は20連勝を達成し、ついには東洋ウェルター級チャンピオンの白坂辰巳(滋野定夫)に挑戦する日がやって来ます。
この白坂辰巳vs高野昭のタイトルマッチは激しい打撃戦となり、昭も目を負傷しながらも必死に白坂を追い詰め、試合終盤ではセコンドが投げ入れたタオルさえも蹴り返し(!)試合を続行、まさにタイトルマッチは死闘のリングとなります!
そして運命の第10ラウンド、ここで昭は白坂に対して突如自分の両腕のガードをブラリと解く“ノーガード戦法(!)”で白坂を慌てさせ、そこに昭が勝負を懸けた連打を浴びせると白坂はマットに強く頭を打ちダウン!何とか起き上がった白坂ですが、次の第11ラウンドを続行不可能となり、昭は激闘の果てに東洋ウェルター級王座を奪取します!!と、ここまでが『打倒』の終盤までの物語なのですが、実はここから映画は意外かつ衝撃的な展開へと移行していきます。
昭は控え室で自分の果たせなかった夢を昭が果たしてくれた事に感無量の野中、そして雄介や美和子、ひろ子たちと勝利を喜び合いますが、そこに前王者の白坂が脳内出血で命が危ういとの知らせが届き、昭はすぐに白坂の控え室に向かおうとしますが、野中に止められます。

昭「会長、何故・・・何故止めるんですか!?」
野中「白坂の所には俺が行って来る。これはボクシングの世界では避けられない事だ。正々堂々と白坂と闘って勝ったお前が行く事はない!」
昭「だからこそ、だからこそ僕は行くんです!」

昭が野中の制止を振り切り白坂の控え室に駈け付けると、そこには意識朦朧と死の床に横たわる白坂に悲しげに寄り添う白坂の妻と幼い子供の姿がありました。前王者の妻は涙を流しながらも健気に昭に挨拶をすると「高野さん、主人は何時も貴方を倒す事ばかり考えていました。でも相手を倒す事ばかり考えている人間は何時かは自分が倒される・・・貴方に負けてやっと・・・やっとこれでリングを下りてくれると思ったのに・・・うううわあああああ!」
昭は呆然としながらも次第に意識が薄れつつある白坂に歩み寄ると、その耳元で絞り出すような声で話しかけます。

昭「白坂さん!僕です!高野です!聞こえますか?白坂さん!」
白坂「ああ・・・高野君か・・いい試合だったよ」
昭「白坂さん!・・・・」

昭はその白坂の言葉を聞くと、静かに白坂の控え室を出ます。そして既にその時、昭はボクシングを辞める決意をしていたのでした。
そして昭は会場の出口で自分を待っていたひろ子の車に乗り込みますが、すぐに車を降り何事かをひろ子に呟くと1人その場を立ち去ります。そのひろ子の許に後から昭を追って来た雄介と美和子が駆け寄ると、ひろ子は2人に向かって寂しげにこう呟くのでした。

ひろ子「あ~あ、昭君ったら“街の小さな電気屋さん”になるんだって!」
美和子「えっ!?昭さん・・・昭さん!」

その言葉を聞いた美和子は優しく自分の背中を押す雄介に見送られ、きっとこの道の先で自分を待っているであろう昭の許に駆け出します!その昭を求めて走り出す美和子の後姿、そして青春という名の闘いに傷ついた若者たちの新たな旅立ちをまるで後押しするかのような山本直純の勇壮かつ軽快な旋律が高らかに鳴り響き『打倒』は劇終となります。

石原裕次郎、小林旭に続いて、日活アクション“第3の男”として売り出された赤木圭一郎は、その寂しげで愁いを帯びた佇まいとハリウッド俳優トニー・カーチスを思わせる風貌から“トニー”の愛称で多くの女性ファンを獲得しました。
実は前回取り上げました中平康監督、石原裕次郎主演『紅の翼』(58)に赤木が群衆の1人として出演していて、これが赤木の事実上のスクリーン・デビューでした。
また今回の『打倒』は、そのボクシング・シーンの完成度では同じくボクシングをテーマとした井上梅次監督、石原裕次郎主演『勝利者』(57)の精密でリアルなファイト・シーンに比べるとやや荒削りではあるものの、そのクライマックスのノーガードの“両腕ブラリ戦法”や、壮絶な闘いの後に対戦相手が死に至るという衝撃的な展開は、あの梶原一騎&ちばてつやによる伝説のボクシング漫画「あしたのジョー」の矢吹丈vs力石徹戦を彷彿させ大変興味深いですね。
そんな赤木圭一郎は、本作の後も“日活ダイヤモンドライン”の1人として数々の作品に主演しますが、1961年2月14日に『激流に生きる男』撮影の最中、日活撮影所内で昼休みにゴーカートを運転中に咄嗟に乗用車とは逆の位置にあるブレーキとアクセルを踏み違え60km/h以上のスピードで大道具倉庫の鉄扉に激突!赤木はすぐに慈恵医大病院に緊急搬送され一時は意識が戻ったものの、1週間後の2月21日、前頭骨亀裂骨折に伴う硬膜下出血のため死去しました。まだ21歳の若さでした。
この赤木圭一郎の衝撃的にして悲劇的な事故死が後の日活衰退の原因の1つだったとも言われていますし、神奈川県鎌倉市の長勝寺に建てられた赤木の記念碑には赤木の死後50年以上たった今も訪れる人たちが多く、その献花が絶える事がないそうです。
最後にこの『打倒』の監督である松尾昭典ですが、松尾は邵氏公司では以前にも当ブログで取り上げた何莉莉主演のアクション映画『女殺手』(71)でも、そのモダン感覚に溢れテンポの良い演出の冴えを見せていましたが、松尾は邵氏公司ではもう1本邵氏と日活の合作映画を撮っています。
それが我らが“天皇巨星”ジミー・ウォングこと王羽&朝丘ルリ子主演『亜洲秘密警探』(67)で、以前に私がジミーにインタビューした際にも、ジミーにこの邵氏バージョン『亜洲秘密警探』と日活バージョンで二谷英明主演『アジア秘密警察』の事を訊くと、ジミーは「ああ、確か日活版はニタニヒデアキさんが主演だったよな!」と日本語を交えて懐かしそうに答えてくれたのが印象的でした。
コメント (2)
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