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四獣飲(しじゅういん)東醫寶鑑 許浚(ホ ジュン)

2009-05-27 19:14:59 | ホ ジュン

東醫寶鑑(1913年刊行 李氏朝鮮 光海君治世時に許浚が1910年に完成)の

25巻中雑病編11巻の第7巻に瘧(がいぎゃく)の治療方剤として記載されているものである。瘧とは現代中医学で瘧疾(ぎゃくしつ)と呼ばれるマラリアあるいは瘧(おこり)を主症状とする病症を指す。結論から言えば、四獣飲は瘧疾が治らなく慢性化した癆瘧(ろうぎゃく)の治療方剤である。古代中国で瘧(がいぎゃく)という疾患(病証)概念は黄帝内経に最初に出現する。

内経には

夏に暑気を受け秋になれば必ず瘧し、寒くなり後に発熱してくるものを寒瘧(かんぎゃく)と言い、先に発熱して後に寒くなるものを温瘧(おんぎゃく)と言うとある。
熱気があるだけで寒くはないものを
瘧(がいぎゃく)と言うとしている。さらに、
症状が一日に一回以上起こるものは治り易く、二~三日に一回起こるものは難治で、長引いて治らなければ癆
(癆瘧)になるとある。素問には詳細な論述がある。

実は瘧疾(ぎゃくしつ)に関しては上海留学時代に目にしていたのだが、瘧(がいぎゃく)という「単語」を忘れていたのであった。許浚が参考にしたのはほとんどが宋元明代の中国の医書であるから、はて、瘧疾は知っているが瘧とは初耳だと思い、調べ直したらなんと内経にあったのである。おのれの記憶力の無さにがっくりきたわけである。東醫寶鑑の四獣飲(人参 白朮 白茯苓 陳皮 半夏 草果 甘草 烏梅 生姜 大棗)の名も目にしたが、「マラリヤかぁ 現代漢方医が将来遭遇する確立はゼロにちかいなぁ」とサボり心が出たとたんに脳細胞が記憶を拒絶したようである。

四獣飲に接して感じたことといえば「えらい けったいな名前だな」だけであった。

        さて

現代中医学での寒瘧と温瘧の概念を簡記する。

寒瘧(かんぎゃく)の症状は

熱少寒多、或いは但寒不熱、口渇なし、胸脇痞悶、精神不振、倦怠無力、苔が白膩、脈が弦遅であり、寒湿内阻の状態である。したがって治療原則は辛温達邪となり、柴胡桂枝乾姜湯(傷寒論 張中景 後漢)加減が主方とされる。

柴胡桂枝乾姜湯は柴胡 桂枝 干姜 黄 萋根 牡蛎 炙甘草からなる方剤であり、柴胡は和解少陽、桂枝は疎散寒邪、乾姜は辛温強化として働く。

寒湿内盛、胸腹悶満の者には、檳榔、厚朴、青皮を加え、理気化湿をはかり、

痰涎が多い者には、附子、陳皮を加え、温散寒痰の効能を期するとある。

檳榔(びんろう)は苦 辛 で抗マラリヤ作用はあるのだが、、、

温瘧(おんぎゃく)の症状は

熱多寒少、或いは但熱不寒、汗出不暢、頭痛、骨節酸痛、口渇し水分を飲みたがり、便秘、尿赤、舌が紅、苔が黄、脈が弦数である。これは、夏傷暑邪、暑熱内薀、裏熱熾盛の証である。

治法は清熱解表で白虎加桂枝湯(金匱要略 張中景 後漢)加味であり、

白虎湯(傷寒論)で清熱生津、桂枝で疏風散寒、青藁、柴胡を加え和解邪の効能を求めるとよいと説く。熱邪が気と陰を損傷した場合には、それぞれ白虎加人参湯(傷寒論)で清熱益気、生地、麦冬、石斛、玉竹を加え、養陰生津をはかる。

熱邪日久になり、陰液不足の者には、さらに鼈甲 知母 丹皮を加え、養陰清熱を期し、湿熱内蘊の者には、黄連 黄 青藁 滑石を加え、清熱化湿を期するとある。

青蒿(せいこう)は苦 で、抽出した青蒿素(中国語でチンハオス)は現代でも有効な抗マラリア剤ではあるのだが、、、、

のだが、、、のだが、、、、と繰り返したのは、留学時代を思い返してみると、西洋医学オンリーで書物でしか知らなかったマラリアにはどうしても発熱の周期発作というイメージがついてまわっていて、寒瘧と温瘧を読み進めていくうちに、「こりゃ~、別にマラリヤに限った話じゃないなぁ」と読み進める気力を失いかけたからだ。発熱発作の周期は三日熱マラリア、卵形マラリアで48時間、四日熱マラリアで72時間である。熱帯熱マラリアには規則性に欠くのである。寒瘧と温瘧とは距離感を感じた。

  事実、現代中医学では「瘧疾」の弁証論治が役に立つ西洋医学的疾患として、

マラリアをはじめ、肝胆疾患、インフルエンザ、敗血症が寒熱往来の症状をみる場合としている清書もある。キイワードは寒熱往来である。従来私が抱いていたマラリアの周期性発熱発作に近い。現代中医学ではマラリアの周期性発熱発作と近似する正瘧(せいぎゃく)を寒瘧と温瘧に併記するか、或いは先記しているのである。

正瘧が最もよく見られると中医学の清書にある。

正瘧(せいぎゃく)

症状:悪寒戦慄と壮熱が定期的に発作する。あくびがでたり、身体の無力感あり、続いて寒慄が現れ、寒が終ると発熱する。頭痛、面赤、口渇で水分を飲みたがり、最終的に全身に発汗し、熱が退き、全身が涼しくなる。舌が紅、苔が薄白或いは黄膩、脈が弦である。これぞまさしくマラリアの周期的発熱発作を示している。

現代中医学者はもちろん病原体であるマラリア原虫についても、感染経路、発症メカニズム、西洋医学的治療、さらには予防対策まで熟知しているが、症状の発生病理を伝統的な中医学的表現を用いて記述すれば以下のようになる。

瘧邪が侵入し、半表半裏に伏する。瘧邪が営衛と争い、正邪相争をするため、瘧疾の症状が現れる。正邪相離、邪気伏蔵、相争停止すると寒熱は止む。瘧証初期、邪が初めて陰に入り、陽気が阻まれると、営衛気虚となり、あくび、無力感が現われる。邪気が陰に深く入ると、陰盛陽虚のため、寒慄が出現する。邪気が陽に入ると、陽盛陰虚のため、壮熱、発汗、口渇で水分を飲みたがるなどの症状が出る。最終的には、瘧邪が営衛と離れ、邪気が伏臓すると、寒熱が止む。初期には、苔が多く薄白であり、邪気が化熱すると、苔が黄膩になる。瘧脈は弦であり、弦緊は寒盛、弦数は熱盛を意味する。 この中医学的病理を現代西洋医学の病理と比較対照してみるのも一興であるが本稿の目的ではないので省かせていただくことにする。

正瘧の主方として名高いのが小柴胡湯(しょうさいことう)から発展させた柴胡截瘧飲(さいこさいぎゃくいん)(医宗金鑑 呉謙ら 清代)である。組成は柴胡 黄 半夏 生姜 人参 大棗 炙甘草 烏梅 常山 檳榔 桃仁である。

小柴胡湯(傷寒論 張仲景 後漢)は柴胡黄 半夏生姜 人参大棗炙甘草の7味からなる方剤で、方証として往来寒熱、胸脇苦満 黙々不欲飲食 心煩、喜嘔の少陽5主証、口苦、咽干、目眩の3掲綱、心下悸、小便不利、不渇、微熱、咳 舌質紅、舌苔薄白、脈弦細の或然証がある。興味のある方はさらに詳しく傷寒論中、方証と薬効を調べてみるのがいい。なにしろ、近年わが国日本で、漢方もろくに知らない医師が小柴胡湯をやたらに処方しまくった経緯があるからである。一口で効能を言えば、和解少陽 和胃降逆止嘔となる。

柴胡截瘧飲(さいこさいぎゃくいん)は小柴胡湯加烏梅 常山 檳榔 桃仁といえる。小柴胡湯は和解表裏、導邪外出に働き、常山 檳榔は邪截瘧(さいぎゃく=抗マラリア)に働き。烏梅は、生津和胃に作用するとともに、常山による嘔吐の副作用を緩和する効能がある。桃仁は活血 潤腸通便に働く。柴胡截瘧飲の臨床での使い方として、中医学の文献には、口渇が酷い者には、葛根、石斛を加え、生津止渇をはかり、胸痞満、苔が膩の者には、人参、大棗を取除き、蒼朮、厚朴、青皮を加えて理気化湿をはかり、少汗、悪寒厳重の者には、桂枝、防風、羌活を加え、袪風解表発汗、つまり震えを止め、発汗させて解熱させればよいとある。

許浚は柴胡截瘧飲を知っていたのか?その答えは限りなく否である。なぜなら、医宗金鑑は許浚の没後、中国が清代になってから刊行されたからである。

内経にいう熱気があるだけで寒くはない「瘧(がいぎゃく)」に相当するものは

現代中医学では熱瘴(ねつしょう)といい、瘴瘧(しょうぎゃく)のうち冷瘴(れいしょう)と対照をなす。瘴瘧は中国東南アジアの亜熱帯熱帯地方の山を散策していて、錯乱を起こしたり、マラリアの瘧(おこり)の発作を起こすことを指し、古来より山嵐瘴気(さんらんしょうき)という概念がある。二つの山が水を挟むところに多く、沼から立ち上る瘴気にその原因があると考えられた。

瘴瘧(しょうぎゃく)が独立した疾患概念かといえばそうではないだろう。そもそも中国伝統医学は「証」に基づき、発病した経緯を重んじる。山を歩き、沼の瘴気にあたって発病したマラリアを含めた熱性の病を瘴瘧と称したのであろう。私が、瘧疾の分類に絶えずすっきりしないものを感じるのはこのためだ。

中国医学は伝統と古典を重視する。内経のいう熱気があるだけで寒くはない「瘧(がいぎゃく)」の解釈として各時代にさまざまな概念が付与されていったのであり、現代中医学での分類に多少のオーバーラップがあっても不思議ではないと考えている。

ともかく「熱瘴(ねつしょう)」の記載を調べると、

 (症状)熱甚寒微、或いは壮熱不寒、肢体煩痛、面紅目赤、胸悶嘔吐、煩渇飲冷、大便秘結、小便熱赤、甚だしい場合は、神昏譫語が現れる。舌質は紅絳、苔が黄膩または垢黒、脈は洪数或いは弦数である。

(症候分析)瘴毒(瘴気)が侵入し、熱毒が内欝すると、熱が汗で発散できないため、熱甚寒微、或いは壮熱不寒、肢体煩痛が出現する。熱毒上衝のため、面紅目赤をみる。熱毒が中焦に内鬱するために、胸悶嘔吐をみる。熱毒亢盛、耗傷津液のため、煩渇飲冷をみる。熱毒下移のため、大便秘結、小便熱赤をみる。熱毒上蒙のため、神昏譫語が現れる。舌質が紅絳、苔が黄膩または垢黒、脈が洪数或いは弦数は熱毒内盛の症侯である。

 (治療原則)解毒除瘴(じょしょう)、清熱保津(ほしん)

(方薬)清瘴湯(験方)加減。

清瘴湯(せいしょうとう 験方):青蒿 常山 黄 黄連 知母 柴胡 竹茹 枳実 半夏 陳皮 茯苓 益元散

処方内容を分析すると、黄、黄連、知母、柴胡で清熱解毒、青藁、常山で邪除瘴、竹茹、枳実、半夏、陳皮、茯苓で袪湿化痰 清胆和胃となる。

壮熱不寒の者には、石膏を加え、清熱瀉火をはかり、熱盛傷津、口渇心煩、舌紅少津の者には、生地、玄参、石斛、玉竹を加え、養陰生津を期する。

神昏譫語の者には、紫雪丹或いは至宝丹で清心開竅をはかるとある。意識障害でも熱甚寒少のタイプであるから、開竅剤でも涼寒のものを使うのである。ちなみにそれらの組成は以下のようになる。

紫雪丹(しせつたん 太平恵民和剤局方):

滑石 石膏 寒水石 磁石 羚羊角 青木香 犀角 丁香

升麻 玄参 甘草 朴硝 朱砂 麝香 黄金 硝石

至宝丹(しほうたん 太平恵民和剤局方):

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