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インフルエンザと漢方(6)

2009-06-19 13:45:35 | SARS

営血分証の方剤に清瘟敗毒飲(せいうんはいどくいん 余霖 疫疹一得 清代)があります。組成は生石膏 生地 犀角 黄連 山梔子 桔梗 芩 知母 赤芍玄参 連翹 生甘草 牡丹皮 竹葉 であり、桔梗と甘草を除き、涼寒薬一辺倒の方剤です。白虎湯(傷寒論 後漢代)三黄瀉心湯(金匱要略 後漢代) 黄連解毒湯(外台秘要 唐代) 涼膈散(太平恵民和剤局方 北宋代) 清営湯 化斑湯犀角地黄湯(いずれも温病条弁の方剤 清代)の全ての成分を含むのです。主治は温疫熱毒 気血両燔証であり、温病の重症型です。

本稿にいたるまで気分証の方剤について述べてきましたが、引き続き気分証の方剤を述べるにあたって、逆向きに、邪入営血の清瘟敗毒飲の構成方剤を眺めていく手法をとりたいと思うのです。というのは、かつてSARSが流行した際に、北京の中日友好病院が熱毒期(発症5日から7日):高熱、呼吸苦、舌が紅く、舌苔が黄厚燥の時期に清温敗毒飲の内服と魚醒草(ぎょせいそう 十薬 ドクダミ)と丹参の点滴を推奨し、結果、救命率を向上させた経緯があるからです。鳥インフルエンザにせよ、豚インフルエンザにせよ、SARSにせよ温病の粋に入ります。したがって、温病学はインフルエンザの治療上の重要なヒントを与えてくれます。

三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう 金匱要略)黄連 黄芩 大黄

結論から言えば、温病気分証にも営血分証にも用いられます。

効能は清心瀉火 解毒 泄熱化湿であり、主治は心火 血熱妄行 三焦熱毒積滞 湿熱内瘟(熱重湿軽)です。

三黄瀉心湯の効能を知る上で欠かせない中医学の概念が「臓腑熱(ぞうふねつ)」で、臓腑の熱を清するという治療概念があります。臓腑熱の証は以下のようになります。

心熱(心火とほぼ同意です):不眠 焦燥感 多夢 顔面紅潮 心悸 口内炎 舌尖のしみる感じを伴う痛み(古典的中医学では舌は心の苗と例えられます) 著しい心火の場合には狂躁などの精神症状 舌尖が紅い 脈数 

肺熱:咳嗽 痰が黄色 咽頭痛 

胃熱:胃痛 嘔吐 口臭 歯痛 歯肉出血 

肝胆火熱:口苦 いらいら感 易怒 頭痛 耳鳴 胸脇痛 

腸熱:腹痛 下痢 裏急後重 

現代西洋医学の日本では臓器別専門化が顕著になりました。その環境下で育った西洋医にとって、臓腑熱という概念は比較的受け入れやすいものですが、心熱と口内炎、精神症状、不眠 多夢などは中医学独自の相関です。

使用薬剤と常用方剤をあげてみましょう。

心熱黄連 梔子 木通 通草 蓮心

聞きなれない蓮心は蓮の実の中の緑色の胚芽の部分で、苦寒で、清心瀉火 安神

に働き、煩躁 不眠 遺精に補助的に使用される薬剤です。清営湯(せいえいとう温病条弁 生地黄 玄参 蓮心 連翹 犀角 麦冬 竹葉心 丹参 黄連 金銀花)に配合されています。心と表裏関係をなすのは小腸です。中医学には心―小腸―膀胱という、西洋医学的には首をひねりかねない臓腑間の関係があり、心熱が小腸に移り、排尿痛などの泌尿器の症状がでるという病因論があります。現代医学的には検尿しても細菌の感染が確認できない無菌性膀胱尿道炎の場合に、よく効く方剤があります。導赤散(どうせきさん)です。

導赤散(どうせきさん 小児薬証直決):木通 現代では木通は通草 あるいは灯心草で代用します。両者ともに利水滲湿薬で、引熱下行し、熱を小便から排泄させる働きがあります。生地黄 生甘草 淡竹葉 が配合です。効能は清心瀉火 利水通淋であり、心経熱盛証(心胸煩熱、口渇面赤、渇欲冷水、口舌アフター)に尿混濁、排尿痛などの熱移小腸の証が加わったものに効果があります。

実はインフルエンザの際の異常行動について私は心熱熾盛が関係しているのではないかと疑っているのです。三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう 金匱要略)黄連 黄芩 大黄のような瀉心熱の方剤が今後見直されてくる可能性があると思っています。

肺熱 桑白皮 知母 石膏 地骨皮 腥草

地骨皮は枸杞の根あるいは根皮です。甘寒で帰経は肺肝腎、効能は退骨蒸 清瀉肺熱 清虚熱、清熱涼血、骨蒸とは陰虚の際の午後の定時発熱、盗汗を伴い、骨の蒸されるような熱感を表す漢方独自な用語です。軽い生津作用もあります。地骨皮は肺熱を清する作用は瀉白散に利用されています。

瀉白散(しゃはくさん 小児薬証直決)地骨皮 桑白皮 甘草 粳米

主薬である桑白皮は甘寒で入肺し、瀉肺鬱熱に地骨皮は清肺実熱退虚熱に作用します。https://app.blog.ocn.ne.jp/t/app/weblog/post?__mode=edit_entry&id=31646836&blog_id=141738

桑白皮は瀉肺鬱熱作用に加え、利水消腫の作用を併せ持ちます。

瀉肺鬱熱作用が強調される方剤としては、前述の瀉白散に加え五虎湯も挙げられます。五虎湯(ごことう 万病回春)は麻杏甘石湯に桑白皮を加えたものです。

五虎湯(ごことう 万病回春):麻黄 杏仁 甘草 石膏 桑白皮

痰熱壅肺に対して清肺化痰の効能をもつ桑白皮湯も紹介します。

桑白皮湯(そうはくひとう 景岳全書):効能:清熱化痰 止咳平喘

桑白皮  黄連 山梔子 蘇子 半夏 貝母 杏仁

桑白皮湯に比較して温薬が減り、平喘効果より痰熱の効能に偏した方剤が清金化痰湯です。知母には潤燥作用がありますし、萋には清肺化痰作用の他に潤肺作用もあり、養陰剤の麦冬が配合されていますから、肺陰の保護という治療概念が入ってきます。肺熱が長引き、やや傷津の傾向が出現した場合に適すると考えられます。

清金化痰湯(せいきんけたんとう 統旨方):

芩 山梔子 知母 桑白皮 貝母 麦門冬 萋仁 茯苓 陳皮 桔梗 甘草

清金(清肺熱)に作用するのは、黄 山梔子 知母 桑白皮 化痰に作用するのは貝母 萋仁です。麦冬は潤肺に 桔梗は痰除去に作用します。主治は内傷咳嗽、痰熱鬱肺です。温薬は陳皮のみです。

肺熱に対する方剤はインフルエンザに十分に応用が可能でしょう。当初は銀翹散を投与し、咳嗽が強くなり、痰が黄色くなってくるようであれば、適当な清肺熱の方剤を選択しても過誤ではありません。SARS治療剤で前述した魚腥草(ぎょせいそう)は、帰経は肺、清熱解毒 排膿に作用し、古くから肺化膿症(肺?)に用いられてきました。中国 貴州では魚腥草を常食にしていると聞いています。抗菌作用が判明し、注射薬は多用されています。生の魚腥草は独自の臭みがありますが乾燥品には臭気はありません。

肝胆火熱龍胆草 夏枯草 青黛

龍胆瀉肝湯(蘭室秘蔵)

龍胆草(近代は 山梔子を加えます)木通(近代では通草を用います


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