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インフルエンザと漢方(7)

2009-06-30 16:19:23 | インフルエンザ

五虎湯 桑白皮湯 清金化痰湯 清肺湯 清気化痰湯 辛夷清肺湯それぞれの相違点

直前の稿では、血分証の方剤である清瘟敗毒飲(せいうんはいどくいん 余霖 疫疹一得 清代)生石膏 生地 犀角 黄連 山梔子 桔梗  知母 赤芍  玄参 連翹 生甘草 牡丹皮 鮮竹葉 の解析から、三黄瀉心湯と黄連解毒湯について、その周辺を探ってきました。強調したのは、臓腑熱と血熱の概念です。そして、火熱熱毒が長引けば 気血が消耗される結果、耗気と耗血が生じること。大量の発汗は気随津脱によりさらに耗気を亢進させ、耗血は津血同源によりさらに傷津を悪化させること。気滞血、血熱血に十分に留意しなければならないことです。

さて、臨床上解熱がもたらされれば、一応は治療上成功と言えます。熱毒が消退されず肺の炎症が悪化していけば救命することは不可能です。同時に或いは解熱後に問題になるのは、主として肺の病理変化と咳嗽や熱痰に対する治療です。熱毒の再燃を抑えながら、臨床症状を軽快させ、かつ不可逆性の肺の組織変化を防止していかなくてはなりません。西洋医学的には、間質性の変化が出現してくる場合にはステロイドホルモンの治療が考慮される時期ですが、漢方を併用するとすれば、どの方剤、どの痰薬、どの止咳平喘薬を使用するのかという問題になります。

五虎湯 桑白皮湯 清金化痰湯 清肺湯 清気化痰湯 辛夷清肺湯のうちで、現代日本で保険適応があるのは五虎湯 清肺湯 辛夷清肺湯だけです。保険適応のある方剤と無い方剤の比較が必要です。五虎湯や清肺湯の位置づけを明確にしなければなりません。五虎湯 桑白皮湯 清金化痰湯 清肺湯は「温病学」の始まり以前の明代の方剤であり、清気化痰湯や辛夷清肺湯は温病学が出現した清代の方剤です。

五虎湯(ごことう 万病回春 1587?延賢 明代):麻黄 杏仁 甘草 石膏 桑白皮

五虎湯(ごことう 万病回春)は麻杏甘石湯(傷寒論)に桑白皮を加えたものです。五虎湯も清肺湯と同じ「万病回春」の方剤で保険適応があります。

麻黄(辛微苦)は宣肺平喘に作用し、杏仁(苦辛)は苦降の性質を持ち、麻黄の宣肺作用と杏仁の降気化痰を特徴とし、あわせて宣肺↑降気↓平喘といいます。宣肺↑の↑は、宣肺とは肺衛の表邪を疎散させることであり、感染(外邪)による肺気不宣が原因の呼気性の呼吸困難(喘)を改善させるという意味です。配合生薬でもっとも重量比で多い石膏は辛寒で清肺熱に働きます。

麻杏甘石湯は、石膏の量から全体として辛涼の性質を持ち、表寒裏熱或いは表邪未解の肺熱咳喘証、衛気営血弁証での肺熱盛の気分証に用いられる方剤です。感冒やインフルエンザに限って言えば、呼吸数や、ぜこぜことした咳き込みも多くなり、痰の色も黄色味を帯び、発熱が続いている比較的初期の場合に使用できるわけですが、現代医学では、混合感染を防止するために抗生物質の投与と、非ステロイド系抗炎症薬を投与するような場合に相当すると思います。桑白皮は甘寒で入肺し、瀉肺鬱熱作用と利水消腫の作用を持ちます。麻黄にも利水消腫があります。それで、五虎湯から受けるイメージはまず「喘」の改善ということであり、肺の炎症の進展を防止、改善するには力不足でです。

桑白皮湯(そうはくひとう 景岳全書 1624張景岳 明代):効能:清熱化痰 止咳平喘

桑白皮  黄連 山梔子 蘇子 半夏 貝母 杏仁

桑白皮は甘寒で入肺し、瀉肺鬱熱作用に加え、利水消腫の作用を併せ持ちます。治肺の観点からは瀉肺清肺の両作用がありますが瀉肺>清肺となるでしょう。アンダーライン部分は黄連解毒湯から黄柏を除いたと考えられます。趙博士によれば黄柏には斂陰の作用があるらしいのです。それで燥湿痰を目的にする場合には黄柏を除くらしいのです。そうなると、前4者で肺の鬱熱を除き、「痰湿」に傾いた肺を瀉肺と燥湿によって、痰濁を除くという意味があります。四川省の川貝母は苦甘微寒で清化熱痰止咳に作用します。前4者+貝母は熱痰に対する組み合わせです。残りの3つの温薬は基本的には寒痰に対する薬剤です。杏仁↓(苦辛)↓は肺気上逆つまりは咳を粛降作用によって抑えるとイメージしてください。傷寒論では、「喘家桂枝湯を作り厚朴、杏子を加えて佳なり」とあり、桂枝加厚朴杏仁湯の記載があります。これは温病学では衛分証に入るものです。しかし桂枝加厚朴杏仁湯は温薬偏重の方剤ですから、熱痰には適当ではありません。杏仁は苦降の性質を持ち、降気(下気)化痰平喘を特徴とします。蘇子(辛温)もほぼ杏仁と同様の効果を持っています。それでは半夏はどうでしょうか?半夏(辛温)の最も顕著な作用は鎮吐作用で、半夏厚朴湯(主治 梅核気)半夏心湯(寒熱挟雑)に使用されています。副作用は下痢で黄が拮抗します。この意味で桑白皮湯は半夏の副作用を軽減しています。  抗炎症作用が注目され、中医学的には「少陽病期」において用いられる重要な生薬です。温燥の性質からくる燥湿化痰作用は湿痰、寒痰によいとされます。脾経にはいるので 湿痰の要薬とよばれてもいます。ただし、辛温なので寒痰に適し、一方竹茹 萋 胆南星などの化痰薬は涼性なので熱痰に良いとされます。半夏を熱痰に用いる場合は清熱化痰薬と配合する。反対に燥痰には用いられないのです。貝母との合方により温燥の性質が緩和されていると言えるでしょう。再び趙博士の提言ですが治肺に燥肺の概念を入れたいとのことです。燥肺(半夏 天南星などの生薬)とは湿濁が肺に蓄積した場合に、肺の好む適当な潤の状態にまで戻すと言う意味であり、肺を燥にする意味ではありません。燥に過ぎてはなりません。肺は元来、燥をにくみ、燥に傾けば肺気上逆または喘息様の咳が出現するからです。こうして構成生薬を解析しますと、桑白皮湯は発熱期がやや落ち着いて、痰と咳嗽が出現してきた時期に用いられると私は考えます。肺の状態は依然として鬱熱があり、肺はウェットに過ぎており、肺気上逆が止まっていない病態です。

清金化痰湯(せいきんけたんとう 葉文齢 医学統旨 明代):

芩 山梔子 知母 桑白皮 貝母 麦門冬 萋仁 茯苓 陳皮 桔梗 甘草

桑白皮湯に配合される半夏 杏仁 蘇子の温薬が除かれています。温燥薬が除かれている理由は、湿痰が軽微になったのか?むしろ肺の嫌う燥の状態になったのか?杏仁の降気化痰平喘作用の「喘」の状態が無いのか?クエスチョンマークはどんどんと増えていきます。桑白皮湯に比較して温薬が減り、平喘効果より痰熱養肺陰の効能に偏した方剤が清金化痰湯です。知母の潤燥作用と、萋の清肺化痰作用と潤肺作用、さらに養陰剤の麦冬が配合されていますから、肺陰の保護という治療概念が入ってきているようです。肺熱が長引き、やや傷津の傾向が出現した場合に適するのか、あるいは傷津の予防なのかとも考えられます。桑白皮は甘寒で、治肺の観点からは瀉肺清肺の両作用がありますが瀉肺>清肺となり、甘淡平の茯苓の利水滲湿作用と相まって瀉肺効果を強めていると考えられます。それでは、瀉肺と養肺陰とは治療上矛盾しないのかという疑問があります。瀉肺は肺をウェットからよりドライ方向に持っていく概念ですし、養肺陰はドライからよりウェットの方向に向かう治療概念だからです。つまり逆向きだからです。切れにくい痰がからむ陰虚肺燥に麦冬などの養陰剤を使用すると痰が切れやすくなることは臨床的に確かめられています。無論そのような場合には瀉肺は誤治になります。したがって瀉肺しながら養陰するという治療は、清金化痰湯の場合には、芩 山梔子の清熱解毒燥湿作用にも鑑み、傷陰の防止という意味合いが強いのでしょう。そうなるといわゆる証として肺陰不足は無いと思うのです。転ばぬ先の杖として肺陰を保護しているのではないのかと思うのです。辛苦温の陳皮は茯苓と配合すると燥湿化痰効果が強化されますが、性質が温和で温燥に過ぎることは無く、陳皮一味の温薬の加味で清金化痰湯の痰熱養肺陰の効能に矛盾するものではないと考えます。清書によっては、陳皮は温燥に偏するので実熱、津虚に使用すべきでないとありますが、気にすることもなさそうです。圧倒的に他薬が涼寒薬だからです。

清肺湯(せいはいとう 万病回春 1587?延賢 明代)保険適応のある方剤

 桑白皮 山梔子 貝母 陳皮 桔梗 杏仁 五味子 茯苓 当帰 天門冬 麦冬 生姜 大棗 甘草(日本のエキス剤には竹茹が配合されています)

 山梔子 桑白皮は清肺熱、桑白皮は利水消腫にも働き利水滲湿の茯苓が協調して瀉肺にも働きます。竹茹は清化熱痰に、貝母は清化熱痰と潤肺に、杏仁は降気化痰平喘に、桔梗は宣肺痰止咳に作用します。陳皮は下気開痞消痰散結に作用し杏仁を補佐すると考えられます。ここまでの生薬の構成から証を考えれば、肺熱があり、痰がからみ肺の失宣降を起こし、咳嗽がある状態です。

甘寒の天門冬 麦冬は養肺陰に作用します。熱痰が肺を阻滞する状態が長引いて、傷肺陰の状態が出現し、かつ咳嗽が続いていると証を訂正してみましょう。熱痰ではあるが切れにくく肺陰虚の傾向があるということです。竹茹が加味されたのは

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