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インフルエンザと漢方(4)

2009-06-07 10:07:32 | (大 小 調胃 増液)承気湯

温病学-衛気営血弁証 気分証について

衛分証から一歩病状が進んだ状態が気分証です。ですから熱の出方が問題になります。いわゆる呼吸器症状のみで重症感のない気分初期、やや呼吸器症状が悪化して呼吸促迫の傾向が出現してくる肺(胃)熱盛、高熱、激しい口渇、発汗が著しく、脈が洪大の特徴をもつ気分大熱、腹部症状が加わり、腹満、腹痛、便秘、圧痛、脱水症状の傾向が見られる熱結腸胃、発熱に起伏性があり、胸苦しさ、悪心、嘔吐、脱水傾向があり尿量も減少し、軟便や下痢があり、かつ舌苔が白あるいは黄の?苔をしめす湿熱留恋三焦、湿熱が腸胃に蘊結し、いやな臭のある下痢が生じ、舌苔が黄?である湿熱蘊結腸胃などが気分証の分類とでも言うべきものです。

温病はインフルエンザに限らず、発熱を伴う感染性の熱病をさします。したがって、上記の各気分証は、インフルエンザの進行でも起こりえるし、他病でも起こりえるわけです。しかし、確率論的にいえば、インフルエンザの場合、熱結腸胃や、湿熱留恋三焦、湿熱蘊結腸胃は現代医学の治療経緯の中では起きにくい証なのです。現代日本では、無治療で放置しておくインフルエンザは皆無に近いのですから、気分初期証、あるいは於肺熱盛のうちに診断がついて、治療が開始されるわけです。それで、治癒方向に向かうのが大半で、少数が次の営分証へと移行していくと考えられます。

     そう言ってしまえば、あまりに簡単に過ぎるので、

               先人に敬意を持ち、気分証の整理をして見ます。

気分証の病理は邪入気分と熱灼津傷です。診断の要点は、発熱、高熱、あるいは往来寒熱で、悪寒を伴わないことが多く、口渇 黄苔で脈は数有力で、湿を挟む場合もあるということでしょう。傷寒論の六経弁証での、少陽、陽明病に相当する裏熱の状態であるともいえます。気分証の往来寒熱は少陽病の往来寒熱と同位置と理解してもいいのです。三焦弁証と比較してみると、中焦脾胃病は気分証に相当します。

治療手法は、熱邪に対して清熱解毒、尿量減少に対しては生津と利尿、湿を挟む場合は利湿、気滞、便秘には理気および通便となります。こう言ってしまえば対症療法そのものですが、清熱泄熱通便、養陰生津、利尿泄熱、健脾化湿、芳香化湿、燥湿健脾、苦寒燥湿、風湿などそれぞれの生薬の特徴を生かした組み合わせをするのです。代表的な方剤を列記して検討を加えます。

梔子鼓湯(ししちとう 傷寒論):山梔子 淡豆鼓

温病条弁には「太陽病これを受けて二三日、舌微黄、寸脈盛、心煩懊悩し、起臥し安んぜず、嘔せんと欲して嘔を得ず、中焦証なきは梔子鼓湯これを主る」とあります。邪が気分に入った初期で、鬱熱の状況に用いるとあります(気分初期)。原典の傷寒論では、「傷寒五六日、大いに下して後、身熱去らず、心中結痛のもの」陽明病を下し「心中懊悩し、ただ頭汗出づるもの」「下痢の後、さらに煩し、これを按じ心下濡のものは、虚煩となすなり、梔子鼓湯に宜し」とあり、汗吐下の邪を行ったのに、胸を中心に鬱熱している状態に用いるとあり、陽明病から引き続く、気分初期の状態ではない場合も記載しています。温病学では陽明病は気分証に入れてあるわけですから、事の前後の細部にこだわる必要はなく、気分軽症に用いると私は考えています。淡豆鼓(たんどうち)は香鼓(こうし)或いは、豆鼓(とうち)とも称され、黒大豆の発酵食品です。 辛 甘 微苦 涼 あるいは微寒 あるいは微温と清書に記載されていますが、それは、桑葉 青蒿と一緒に発酵させると涼寒性に、麻黄 紫蘇と一緒に発酵させると微温の性質をもつといわれるからです。衛分証に用いられる銀翹散や気分証初期の梔子鼓湯に用いられます。衛分証に用いられる場合には疏風解表の効能が求められ、梔子鼓湯では、宣鬱除煩の効能が期待されているわけです。

麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう 傷寒論):麻黄 杏仁 甘草 石膏

配合生薬でもっとも重量比で多いのが石膏です。石膏は辛寒で清肺熱に働きます。

辛温の麻黄は平喘に作用し、杏仁は苦降の性質を持ち、宣肺作用と降気化痰を特徴

とし、あわせて宣肺降気平喘といいます。煎じる際の注意点は後下(こうしゃ)です。有効成分は熱により破壊されるので、他薬を煎じた後で加えなければなりません。傷寒論では、喘家桂枝湯を作り厚朴、杏子を加えて佳なりとあり、桂枝加厚朴杏仁湯の記載があります。これは温病学では衛分証に入るものです。杏仁には潤腸通便の作用もあり、蘇子もほぼ杏仁と同様の効果を持っています。麻杏甘石湯は、石膏の量から全体として辛涼の性質を持ち、表寒裏熱或いは表邪未解の肺熱咳喘証、衛気営血弁証での肺(胃)熱盛の気分証に用いられる方剤です。感冒やインフルエンザに限って言えば、呼吸数や、咳き込みも多くなり、痰の色も黄色味を帯び、発熱が続いているものの、比較的初期の場合に使用できるわけですが、現代医学では、混合感染を防止するために抗生物質の投与と、非ステロイド系抗炎症薬を投与するような場合に相当するでしょう。

白虎湯(びゃっことう 傷寒論):石膏 知母 生甘草 粳米(こうべい 中国語でジンミー)効能は清熱除煩養陰です。石膏は清熱瀉火 知母(ちも)は苦甘寒で、清熱瀉火作用に加え、甘寒の性質から滋陰潤燥の働きがあるために、白虎湯の養陰作用の由来となる生薬です。生甘草は清熱に作用し、粳米は補胃和中に働くとともに、石膏の清熱成分を十分に煎じ液中に留めると教えられました。肺胃実熱(上焦 肺、中焦 胃)の気分実熱に効果がありますが、滋陰潤燥の働きは、陰虚燥咳、陰虚盗汗、腎陰虚による骨蒸、消渇、虚火上炎による胃虚熱にも適応が広い生薬です。石膏が気分実熱症に用いられるのに比較して、知母は実熱、虚熱両者に用いられるのです。高熱による傷津を未然に防ぐ意味合いもあります。傷寒論では、

白虎湯証の4大証は大熱、大汗 大口渇 大煩であり、舌質紅、舌苔黄燥、脈洪大或いは滑数、四肢厥冷、不悪寒と続き、陽明病証である腹満、口不仁、譫語(せんご)、遺尿、喘などであり、いわゆる「陽明経燥熱実証」といわれるものです。六経弁証の陽明病について概略は、病機概要として、陽明経証は熱盛灼傷胃津に属すものであり、陽明腑証は胃腸実熱、食積、燥屎蘊結に属すものであるとなります。

身熱汗出、悪寒はなく悪熱し、煩燥、口渇引飲を主証とするものが、陽明経証に属し。潮熱、腹脹満、堅硬拒按、便秘、甚だしければ譫語を主証とするものが、陽明腑証に属します。治療原則は、陽明経証の場合に清熱瀉火。陽明腑証の場合に攻瀉実熱となります。主要な方剤が、清熱瀉火の場合に、白虎湯。攻瀉実熱の場合に、承気湯(じょうきとう 傷寒論)となるわけです。陽明経証の場合には、無形の邪熱が陽明経に侵入し散慢(満ちている)するが、腸管には燥糞内結がまだ無く無結であると考えます。この時期には発汗法は誤治であり、白虎湯あるいは白虎加人参湯で清熱、清熱生津するのです。陽明腑証に進展せず、治療後に余熱が上焦(胸膈)に鬱滞した場合(虚煩)は梔子湯にて治療することが傷寒論の要旨です。

白虎加人参湯は白虎湯に益気生津の人参を加えたものです。傷寒論に忠実に記載すれば、白虎加人参湯証は大熱、大汗、大煩渇、欲飲水数升、背微悪寒、舌質紅、舌苔乾燥白、或いは黄燥、脈洪大やや無力あるいは浮滑となります。八綱弁証で表現すれば、陽明経燥熱実症と気津損傷が加わった虚実挟雑症です。したがって、清熱生津、透表駆邪、益気養陰をはかるのです。

さて、話をインフルエンザに戻してみましょう。

現在では典型的な白虎湯あるいは白虎加人参湯の証を見ることは極々稀です。現代中医学では、清肺熱の代表方剤は麻杏甘石湯、白虎湯であるが、小児科領域では薬性の穏やかな散(しゃはくさん)を用いると説いています。

瀉白散(しゃはくさん 小児薬証直決)地骨皮 桑白皮 甘草 粳米

桑白皮は甘寒で入肺し、瀉肺鬱熱に地骨皮は清肺実熱退虚熱に作用します。

温病学からは離れますが、白虎湯の清熱作用は、熱証の著しい関節炎(熱痺)に

白虎加桂枝湯(びゃっこかけいしとう 金匱要略)加減として利用されています。

また、前のブログ瘧疾(ぎゃくしつ)中の温瘧(おんぎゃく)

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20090527

の治療方剤の基本として白虎加桂枝湯加味の手法があることを付記します。

承気湯(じょうきとう 傷寒論)

陽明熱盛:陽明裏実熱症(陽明腑実症)は熱性の便秘(熱秘)をもたらします。さて、傷寒論では陽明病の成因は3通りと理解でき、それぞれ熱秘の生成を見てみましょう。

①太陽陽明:太陽病の誤治により津液が著しく損傷され邪が化熱化燥し陽明に転入し、胃熱のために脾が津液を巡らすことができなくなる後述の脾約を発症することを指す。便秘はあるが腹満痛、潮熱、譫語は出現しない。太陽陽明の便秘の治療は麻子仁丸(ましにんがん 後述)で行う。

②正陽陽明:外邪が直接陽明に侵入し化熱化燥し、燥熱と糟粕が結合し燥屎を形成することを指す

③少陽陽明:津液損傷により少陽の邪が化熱し陽明に転入し、胃腸が乾燥し、心煩が出現し、大便難(便秘)を発生することを指す。

以上が陽明病の熱秘の生成過程です。

以下に傷寒論に基づき、大、小、調胃承気湯証を簡記します。以下の寒下承気湯方剤はいずれも陽明腑実証に用いられます。その理論は釜底抽薪(ふていちゅうしん)に例えられます。熱のたぎる釜をさますには燃えている薪(たきぎ)を通便により取り除くという意味です。寒下作用は 大承気湯>調胃承気湯>小承気湯の順になります。傷寒論に忠実に各承気湯の証を記載します。

大承気湯大黄 厚朴 枳実 芒硝)証:心下痞、腹満して少しも軽減しない、臍周囲痛、大便燥結、便秘、熱結傍流のため時に悪臭のある便を排出する、

潮熱、持続微汗、心煩懊悩、譫語 何かに取り付かれたように独り言を言う、意識混濁により人を識別できない、循衣模床、微喘直視、言語必乱、脈沈遅実大(脈証は典型的ではありませんが)、舌質紅、舌苔老燥、焦裂起刺と高熱による津液損傷が著しくなっています。この場合には、早く原因となっている熱秘を通便にて下して体温を下げ、熱結傍流も無くし、放置すれば必至の津液の喪失を防止しなければなりません。このような考えかたを通因通用といい、一刻も早く下して、津液(陰)を守るという意味で、急下存陰をはかると言います。大黄は苦寒で熱を泄し、乾結の便を攻下し、芒硝は咸寒潤燥、軟堅破結に働き、厚朴、枳実は破気導滞に作用します。熱が甚だしく、燥結がひどくない場合は、芒硝を取り除き、黄、山梔子、銀花を加え、腹痛が両脇まで響く場合は柴胡、鬱金を加えると現代中医学は説いています。明代には万病回春で大承気湯加方とも言うべき通導散(つうどうさん)が考案されました。過去ブログ以下URLを参照してください。


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