gooブログはじめました!

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

十全大補湯の正しい使い方

2006-11-18 16:21:29 | うんちく・小ネタ

十全大補湯とは

補気剤の四君子湯(しくんしとう)人参 茯苓 ? 炙甘草の4生薬、養血剤の四物湯(しもつとう)熟地黄 当帰 白芍 芎の4生薬、さらに、黄耆(おうぎ)と肉桂(にっけい)を加えた10剤からなる方剤である。薬効は気血双補(きけつそうほ)といい、気虚と血虚を改善する補剤(ほざい)です。

赤は温薬緑は平薬青は涼薬です。 温薬 : 涼薬=7:1 になります。

補剤(ほざい)と潟剤(しゃざい)を使い分けるには?

 虚症(きょしょう)と実症(じつしょう)の鑑別をしなくてはならないのです。

虚症には原則として補剤を使用し、実症に対しては瀉剤を使用するのが、中国医学での基本中の基本です。従って十全大補湯は完全な虚症に使用される方剤です。悲しむべきことですが、虚実の診断も、寒熱の診断もはっきりさせずに、ある意味「いい加減な処方」が目立つのが、日本の医療現場の実情です。中国医学には基本的な八綱弁証(はっこうべんしょう)という診断方法があります。現代風に言えば基礎内科診断学ともいえるもので、日本での医学部3年生が始めて読み始める基礎診断学入門書とでもいえるものです。

八綱弁証とは?

病態を、寒熱、虚実、表裏、陰陽の8つの観点から診断するものです。従って、単純な組み合わせで考えれば2の4乗=16の診断が生じるはずです。しかし、実際の診断では、見かけ上、実症であっても、その病態を起こす原因は虚症であるなどの本虚表実(ほんきょひょうじつ)や、上半身は熱症、下半身は寒症などの上熱下寒(じょうねつかかん)など複雑な病態が存在しますから、八綱弁証だけでも多数の診断が生じます。

それに加えて、気血津液弁証、病因弁証、臓腑弁証、衛気営血弁証、三焦弁証六経弁証、経絡弁証を組み合わせて診断します。もちろん現代の中国では、西洋医学的な検査や治療を中医病院でも行うのは当たり前のことです。

十全大補湯は温薬の性質を持つ方剤です。

十全大補湯の組成は八珍湯(はっちんとう){四君子湯+四物湯}に黄耆、肉桂を加えたものです。再び色分けすると以下のようになります。
八珍湯(人参 茯苓 
? 炙甘草 熟地黄 当帰 白芍 )+黄耆 肉

八珍湯自体が温薬の配合が多い上、そこに黄耆、肉桂の2つの温薬が配合されています。人参と黄耆を一緒に使えば補気作用が増強されます。「気」の作用のひとつである温煦(おんく)作用とは体を温める作用なのです。さらに黄耆には温腎助陽(おんじんじょよう)といい、陽気(寒熱で言えば熱を意味します)を助長させる働きがあります。肉桂は温里薬(おんりやく)といい体を内部から温める薬剤の代表です。従って、温薬の配合が圧倒的に多い十全大補湯は原則的に熱症には使いません。この場合の熱症は実熱症(じつねつしょう)です。 

使ってはいけない場合の実熱症とは?

難解な中国医学の用語を使わずに、現代医学的に説明すれば、細菌やビールスなどの感染症や直接な熱源(暖房、日光、火を扱う職場)に肉体を長期においた場合などです。顔面が赤くなり、発熱し、口が渇いて、冷たい飲み物を飲みたがります。患者によっては便秘が生じます。

診察してみると、舌が赤く、やや腫れていることもあります。苔(こけ)は黄色身を帯びていることが多く、脱水症があれば、舌が乾燥しています。肺炎や肺化膿症などで発熱している場合は、特に舌の先端部の赤みが増します。ガン患者さんで、発熱が無くても、舌が赤い場合があります。この場合は、中国医学で言う「陰虚(いんきょ)」「血(おけつ)」の証が観察されます。

 感染症を伴う腸閉塞などの発熱の際には、レントゲン検査で診断は容易ですが、よく観察してみると、ショックを起こして血圧が低下しない限り、顔面が赤く、舌が赤く、苔が黄色みがかっていて、発汗があり、口渇があり、尿の色も肉眼的に黄色みが増します。

 これらの実熱証の場合は、脈はほとんどの症例で90毎分ぐらいになり、頻脈傾向が出現します。ガンの術後の感染性発熱も実熱に属します。

このような実熱証には十全大補湯は使いません。炎症を悪化させる可能性が大きいからです。中国ではこのような誤った補気養血剤の使い方を「閉門留寇(へいもんりゅうこう)」といいます。寇(こう)とは賊(ぞく)の意味で、生体にとっては邪気(じゃき)を意味します。邪(きょじゃ)(邪気を生体から追い出す意味)すべき治療法、瀉剤を使うべきところを、間違えて補剤を使えば、門を閉じて邪気を生体の中に留め助長させるという意味です。

中医学の臨床現場だったら主任教授にこう言われる

A研修医

「実熱証に十全大補湯を使います。」、、と研修医が意見を述べたら、、

主任教授 

君の熱意は理解できる。しかし、この症例は実熱の熱なんだよ。熱意の熱じゃない。氷枕(こおりまくら)で冷やさなきゃならないのに、君は湯たんぽを乗せて、風呂に入れと言うのかね。 国に帰ったほうがいい。」と。