本日も張琪氏の腎不全医案を紹介します。
患者:?某 58歳 女性
主訴:乏力6年間
病歴:
1999年に乏力出現。感冒後に肉眼的血尿が生じ、尿蛋白(4+)、尿潜血(3+)、急性糸球体腎炎と診断され、抗生物質を投与されたが、尿蛋白は2+~3+、2002年乏力加重、ハルピン医科大学付属病院で検査を受ける。腎機能:Cre120~150μmol/L(1.36~1.70mg/dl);2005年6月患者は感冒後に全身乏力、Cre235μmol/L(2.66mg/dl)、氏の外来を受診することになった。
初診時所見:
乏力、腰酸痛、口苦時に悪心、納差、便干、舌質淡紫、苔白膩。尿検査:蛋白(2+)RBC20~25/HP、WBC0~1/HP。Cre221.9μmol/L(2.5mg/dl)、BUN7.5mmol/L(45mg/dl)。
中医弁証:湿濁化熱、胃熱陰虚
西医診断:慢性腎炎、慢性腎不全(失代償期)
治法:清胃熱 養胃陰 化湿濁
方薬:甘露飲加減:
生地黄20g 茵陳蒿20g 黄芩15g 枳殻20g 枇杷葉20g 石斛20g 麦門冬20g 大黄10g 草果仁15g 紫蘇20g 砂仁15g 芦根30g 何首烏20g 胡芦巴20g 桃仁20g 赤芍20g 川芎20g 土茯苓50g
14剤 水煎服用 1日1剤 二回に分けて服用
二診:
服薬後まだ乏力あり、腰酸痛、口苦、悪心、納差、舌淡紫、舌苔白膩、脈滑。弁証はまだ濁毒内蘊、治法は祛邪を主とする。
方薬:甘露飲加減
生地黄20g 茵陳蒿20g 黄芩15g 枳殻20g 石斛20g 麦門冬15g 枸杞子15g 甘草15g 大黄10g 連翹20g 草果仁15g 砂仁15g 陳皮15g 麦芽15g 神曲15g 山楂15g 桃仁20g 丹参15g 葛根20g
14剤 水煎服用 1日1剤 二回に分けて服用
三診:
患者の乏力、腰酸痛、口苦、悪心は好転、なお納差あり。舌淡紫、苔白やや膩、脈滑、尿検査、尿蛋白2+、RBC15~20/HP、ヘモグロビン9.8g/dl、弁証同然。
方薬:甘露飲加減
生地黄20g 茵陳蒿15g 黄芩15g 枳殻15g 枇杷葉15g石斛20g 麦門冬20g 甘草15g 草果仁15g 紫蘇15g 葛根20g 大黄10g 麦芽30g 神曲15g 山楂15g 砂仁15g 半夏20g 甘松(行気開胃醒脾)15g 公丁香10g 当帰20g 黄耆30g 太子参15g
14剤 水煎服用 1日1剤 二回に分けて服用
経過:
服薬後、Cre176.5μmol/L(1.99mg/dl)、尿蛋白2+、ヘモグロビン10.1g/dl、病情は好転し、中薬治療を継続した。
ドクター康仁の印象
嘔吐は無いのですが、口苦、時に悪心、納差、苔白膩から胃中湿熱の証と判断し、甘露飲加減をしたものと思います。大黄は通腑泄濁で一貫して用いられています。桃仁 赤芍 川芎 丹参 葛根などの活血化瘀剤は二診まで使用されていますが、瘀血の証が明確でないために、三診では除かれています。(葛根のみ三診に残されています)張琪氏は慢性腎不全の弁病から活血化瘀薬を使用していますが、使用量、種類、投与期間はそれぞれの症例に合わせて処方しているのでしょう。目を引くのは何首烏と胡芦巴です。何首烏は補腎養血かつ不滋膩ですので、以前にも申し上げたように熟地黄より使い易いと思います。胡芦巴は温腎陽、逐寒湿、寒湿を伴う腎陽不足に適している薬剤ですが、一方では湿熱陰虚と弁証しながらも、腎不全の弁病論として祛寒湿という考えをお持ちなのかもしれません。湿熱と寒湿は寒熱から言えば、性質が反対です。しかし、補陰清熱(治標)と補腎陽祛寒湿(治本)という一見矛盾する方法は張琪氏の真骨頂なのでしょう。初診時の舌質の淡紫と腎不全のデータから、腎気陽虚が本に存在し、(寒)湿が化熱した状態で受診したと氏は瞬時に判断して、標本兼治の治本目的で胡芦巴を使用したのかもしれません。これはあくまで私の推測です。清熱解毒剤の土茯苓(菝葜、山帰来)の大量50gの投与も、その薬性が平であることから脾胃を障害しないという氏の経験があるのでしょう。氏が愛用する温薬である砂仁(化湿行気和中)草果仁(温中燥湿)15g 白豆蔲(行気温中化湿消痞)15g 甘松(行気開胃醒脾)15gの組み合わせは嘔気に対応するもので、湿(濁)を嫌う脾の性質から化湿濁作用のある生薬群となっています。覚えておくと役に立ちますね。麦芽30g 神曲15g 山楂15gは消化剤群です。最終的に益気健脾として黄耆、太子参が配伍されていますが、前案のような心不全は有りませんので、紅参を使用せず太子参となっています。
2013年11月29日(金) 記
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