「湿疹や、皮膚炎が悪化することがある」と使用上の注意に記載がある。同じく十全大補湯にも同じ記載がある。湿熱(しつねつ)や血熱(けつねつ)が原因の皮膚病片(一般に赤く、じくじくしている)がある場合には注意して使用すべきであろうという趣旨と理解している。
人参養栄湯は温薬が7つ、涼薬が1つ、平薬が2つからなる。
十全大補湯は温薬が7つ、涼薬が1つであるので、人参養栄湯と同じく、全体的に温~熱性の性質を持つ。特に人参と黄耆を一緒に使えば補気作用が増強される。「気」の作用のひとつである温煦(おんく)作用とは体を温める作用なのである。肉桂は温里薬(おんりやく)といい体を内部から温める薬剤の代表である。
したがって、清熱祛湿が原則として必要な「赤い湿疹や皮膚病」の際には、使用しにくいわけである。また、手術後に炎症が持続して、排膿(はいのう)(膿が傷口やカテーテルから排出すること)が止まらず、発熱が続いている場合に漫然と十全大補湯や人参養栄湯を服用させてはならないことになる。炎症で発熱している患者に風呂に入って温まらせるに等しい。水枕すべきところを湯たんぽをのせるようなものだ。体力の回復と免疫力の亢進を目的に使用する心情は理解できる。
古来より感染症には清熱解毒薬が第一選択であり、補気養血剤(人参養栄湯や十全大補湯など)は、実熱があるうちには使わないのが原則である。
おすすめのアレンジは
補気養血と活血(血液の凝固を防ぐ)を目的に、
人参は西洋参に、炙甘草は生甘草に、熟地黄は生地黄に、当帰 川芎 は丹参に変更し、黄耆は使うとしても、理血薬である郁金、清熱解毒薬である牛黄、黄連や清熱養陰剤である栝楼根などを併用する。
1例を挙げれば、
西洋参 茯苓 白? 生甘草 生地黄 丹参 白芍 黄耆 郁金 牛黄 黄連
栝楼根などの組み合わせになる。
色分けして明らかなように、全体として涼~寒の性質を持つので、実熱に適しているし、補気養血活血の本来の十全大補湯などの方意も失われていないし、さらに清熱解毒薬、理気薬を配合することにより、炎症の早期改善にも役に立つ。
古来からの注意事項として潰後熱毒尚盛 不宜使用黄耆 と記載がある。
膿瘍が形成され、まだ発熱が激しい場合は、黄耆を使ってはならない という意味であるが、黄耆(おうぎ)を使いこなすことが漢方医の修行の一つである。