人参養栄湯は十全大補湯「八珍湯(四物湯+四君子湯)+黄耆 肉桂」から川芎を除き遠志 五味子 と陳皮を加えたものである。組成は
人参 茯苓 白朮 炙甘草 当帰 熟地黄 白芍 黄耆 肉桂 遠志
五味子 陳皮 である。
赤は温薬、グリーンは平薬、ブルーは涼薬であり、全体として温の性質を持つ。
補益方剤の最も大枠に位置するものと考えてよい。5大補剤として、補気剤の四君子湯、養血剤の四物湯、四君子湯と四物湯をあわせた八珍湯、八珍湯に黄耆と肉桂を加えた十全大補湯、そして人参養栄湯があげられる。
某漢方薬メイカーのパンフレットを見ると、効能または効果、使用上の注意は2方剤ともにまったく同じである。組成の異なる方剤の効能、効果、使用上の注意がまったく同じなのはいささかお粗末ではある。
効能又は効果として
病後の体力低下 疲労倦怠 食欲不振 寝汗 手足の冷え 貧血
に2方剤ともにまったく同じ内容となっている。
経験上どのように使い分けるか といえば、陳皮は理気健脾に働き、五味子は斂肺慈胃に働き、遠志は寧神安神に働くことからして、十全大補湯証に胃腸の不快症状や精神不安定症状などが加わった場合に人参養栄湯を処方するということになる。
生理痛や生理が遅れる(月経後期)の一部の症例に人参養栄湯が有効な場合がある。
気血虚弱による生理痛
生来胃腸が弱い体質(脾気虚)、出産時に出血が多かった場合、慢性病を持っている場合など様々な原因があるが、気血虚弱による生理痛の特徴は、整理中、生理後の長引く鈍痛、手でさすると痛みが緩和し、生理の量は一般的に少なく、色は淡く、倦怠感を伴うことが多く、顔色にも艶が無く、舌診では舌質の色が淡く、脈は細弱であることが多い。一般的に脾気虚による軟便傾向がある。
中国有名方剤加減
聖癒湯(せいゆとう)加減
黄耆 人参 当帰 熟地黄 白芍 川芎 香附子 延胡索 竜眼肉 炙甘草
赤は温薬 ブルーは涼薬 グリーンは平薬である。
黄耆(おうぎ)人参は補気薬の代表であり、四物湯の当帰 熟地黄 白芍 川芎 が配合され、婦人科の要薬である香附子は理気止痛に、延胡索は活血止痛に働く。白芍と甘草は止痛剤である芍薬甘草湯として有名です。
日本ではエキス剤がないので、「十全大補湯」に「芍薬甘草湯」などを合方する。
聞きなれない竜眼肉には補気作用と補血作用があり、帰経は心と脾であり、補心作用は不眠症に対して養心安神に働き、補脾作用は消化不良、軟便などの脾気虚に有効とされる。
中国婦人科学では、産前宜清(妊娠中は涼性の薬剤)、産後宜温(産後は温性の薬剤)の原則がある。竜眼肉を妊娠中に多量に食すると出血、口内炎、など流産の恐れがあるとも言われています。竜眼肉の養心安神作用が利用されている有名方剤に帰脾湯(きひとう)がある。
気虚が著しくなると気の固摂作用が低下して、だらだらと生理が続く経期延長になる場合もあります。この場合も聖癒湯は有効です。この場合には阿膠や艾葉を加味する。
脾気虚による内臓下垂(胃下垂や少腹部、陰部の下垂感)が合併している場合は、柴胡や升麻を加味し、エキス剤であれば十全大補湯と補中益気湯を合方します。
動悸 不眠などの心血虚証がある場合には、酸棗仁 大棗 鶏血藤などの養心安神剤を加味し、エキス剤であれば帰脾湯、あるいは「人参養栄湯」を用いる。
腰痛や下肢の無力感があるような場合は、桑寄生、続断、杜仲などを加味します。経験では、軟便や冷えを伴った場合は補骨脂(ほこつし)などの補腎、温脾止瀉の生薬を配合すると効果がある。
注意しなければならないことは遠志を煎じ薬で処方する場合、過量になると胃の不快感が生じることだ。