1月10日、朝日新聞に載った「イエスの言葉 ケセン語訳」の書評↑
本書は三陸の巨人、山浦玄嗣医師のベストエッセイである。
昨年大船渡市は巨大津波に襲われ、山浦医院も大きな被害を受けた。
冷たい雪とまっ黒な泥におおわれた見わたす限りの瓦礫の野を前にして呆然と立ちつくすばかりだった。
その時心に響いてきたのは故郷の言葉ケセン語で語りかけてくるイエスさまの御言葉であったという。
御言葉は、市販の聖書には例えばこのように記されている。
「わたしは復活であり、命である。わたしを信じる者は、死んでも生きる」(新共同訳)
しかし、気仙衆の耳には次のように聞こえてくるという。
この俺(おれ)にァ、人(ひと)ォ立(た)ぢ上(あ)がらせる力(ちから)ァある。活(い)ぎ(・)活(い)ぎ(・)ど人(ひと)ォ生(い)が(・)す力(ちから)ァある。この俺(おれ)ァ語(かだ)っ事(こど)ォ本気(ほんき)で受(う)げ(・)止(ど)め、その身(み)も心(こゴろ)も委(ゆだ)ねる者(もの)ァ、仮令(たどえ)死(し)んでも生(い)ぎ(・)るんだ。(ケセン語訳/ヨハネ一一・二五)
ケセン語の聖書によってどれだけの人が生きる勇気を与えられただろうか。
山浦さんは、村でただ一軒のキリスト教の家に育った。彼の夢はケセン語で大好きなイエスさまの言葉を友人に伝えることだった。
その夢を果たすべく開業医生活と翻訳研究に没頭してきた。
まずケセン語を整理し文法を確立する必要に迫られた。
25年を費やしその集大成「ケセン語大辞典」を完成したのは60才。
それからギリシャ語を学びケセン語訳聖書を上梓した。
ギリシャ語からケセン語に翻訳する過程で学ばされることがどれだけ多いことか。
本書にはそのプロセスが綴られている。