
2週間ほど前、ニッポンの暑い夏でのセーリングを忙しく楽しんでいる頃、ラッセル・クーツから久し振りにメールが来た。

「第34回アメリカスカップに参加を検討しているチームのために、専任担当者を任命してホットラインを設けた。とにかく、取り敢えず、すぐに彼に電話せよ」。
そのホットライン専任担当者は、これまでプラダチームなどでもコミュニケーションマネージャーを務めたこともあるニュージーランド人。
ラッセルから知らされた彼のオフィスの住所や電話番号も、ニュージーランド南島のクライストチャーチだ。
訳が分からないまま、言われた通りに取りあえず、彼に連絡してみると、
「9月13日に向けての第34回アメリカスカップのプロトコール発表前に、参加可能性のあるチームにその内容について大至急検討してもらいたいのです」、
とのことで、資料がごっそりと送られてきた。
ぼくが勝手に返事する立場にはないので、これまでの3度の日本のアメリカスカップチャレンジの中心人物だった重鎮お二人に、事の経緯を御説明し、「お二人のお考えを先方に伝えるので、」とお話して、送られてきたすべての資料をお渡しした。
来週9月13日に、スペインのバレンシアで発表されるプロトコールには、第34回アメリカスカップの開催時期と、レースで使われる艇の細目が盛り込まれることになっている。

クライストチャーチから送られてきた資料によると、すべての資料に、開催時期は2014年、と記されている。
どうも、第34回アメリカスカップは、2014年に開催される方向で煮詰まっているようだ。
気になる第34回アメリカスカップに使われるレース艇は、モノハルなのか、マルチハルなのか。
送られてきた「挑戦のための予算試算ガイダンス」と、「2011年から2014年の本戦までのレーススケジュール案」は、マルチハルの場合のバージョンの資料しかなかった。
文脈からすると、モノハルの場合の同じ種類の資料があるようなのだけれど、そちらは送られてこなかった。
ということは、暗に、「マルチハルを採用することになりそうだよ」、と仄めかしてくれているのか?
マルチハルになる場合の、艇のデザインファクターも相当細部まで煮詰めているようで、かなり精密なスケッチが何種類も添えられている。
それらのスケッチによると、第34回アメリカスカップ・マルチハルバージョン艇は、第33回アメリカスカップで敗退した防衛艇、アリンギ5によく似た構造のカタマランだ。

第34回アメリカスカップ制式艇マルチハルバージョンの主要目は、
全長 22.0メーター
幅 15.5メーター
重量 7200kg
セール面積 700㎡
となっている。
3つのウインチドラムと3つのコーヒーグラインダーがそれぞれの舷に装備されている。
メインセールは、フラップ機構付きのハードウイングだ。
レースフォーマットは、2011年から2013年まで防衛チームと挑戦チームの全チームが参加して世界ツアーを行なう。その際の艇の移動費は、すべてレース主催者持ち。レース主催者が全チームの艇とコンテナをまとめて積める貨物船をチャーターするか、あるいは買い取るようだ。
またその世界ツアーの間の各地でのコンパウンドは、分解してポータブルな持ち運び可能なものとし、セールロフト、選手食堂などの施設は全チームでシェアして、各チームの出費をできるだけ抑える努力をする。
2014年の本戦で開催地に拠点を定めてからも、共有できる施設はできるだけ共有するようにする。
因みに、開催地でのレースビレッジのCGの背景は、サンフランシスコを思わせた。
これも因みに、だけど、サンフランシスコ市は先月に、アメリカズカップビレッジとして開発する市内の3つの候補地を発表している。
また、これらの資料には、第34回アメリカスカップに挑戦する場合の(そしてそれがマルチハル艇で行なわれた場合の)、2011年から2014年までの総予算の試算も添えられている。
それによると、現在のユーロ為替で、支出を切り詰めたエコノミー挑戦の場合で、約68億円。
スタンダード挑戦の場合は、約89億円だという試算だ。
この中には、約1億7000万円のエントリー費も含まれている。
また、エコノミー挑戦、スタンダード挑戦の両バージョンとも、艇を1隻、ハードウイングを2枚作る場合の試算になっている。
つまり、そういう数制限のあるクラスルールを作りつつあると思われる。
これらの資料を見ていただいた、これまでの日本のアメリカスカップ挑戦を推進してきた重鎮の方々は、
「厳しい経済状況とは言え、若い世代の日本人リーダーによるチャレンジを期待したい」
とおっしゃっています。