Nov. 12 2005 冒険者たち

2005年11月12日 | 風の旅人日乗
11月12日 土曜日
朝6時。
この時期この地方の日の出は朝8時過ぎなので、
外はまだ真っ暗だ。

今日午後2時、
VOLVO OCEAN RACE 05-06 世界一周レースの第1レグ
(スペイン・ヴィゴ → 南アフリカ・ケープタウン)
がスタートする。

ホテルの部屋の窓から、
参加艇が舫われているハーバーを見下ろすと、
優勝候補のひとつMOVISTARのショア・クルーたちが、
最後の積み込みをしているのが見える。

昨夜
ホテルのエレベーターホールで会ったERICSSONのディンゴ
(本名はデイビッド・ロルフだが、
オーストラリアに生息する野生犬Dingoに顔が似ているので、
そういうニックネームで呼ばれている)
は、「今日はもうこれから寝て、
明日もゆっくり起きさせてもらう」
って言っていたから、まだベッドの中だろう。

この先、ケープタウンに着くまでの2週間以上、
慢性的な睡眠不足が続くうえに、
横になるのは濡れて狭くて臭い、
反対ワッチの人間と共有のパイプバースだ。
ホテルの、
糊がきいたシーツと柔らかな毛布に包まれた
ベッドから起きるのは
なるべく先延ばしにしたいことだろう。

夜の間に雨が降ったのだろうか、
桟橋と参加艇のデッキが濡れて、
蛍光灯の照明に艶々と輝いている。

日が昇り、明るくなってくると、
港には観客が集まり始め、
あっという間にすごい混雑になる。

POLICIAという文字の入った制服を着た
スペインの警察官が
とてもたくさん動員されていて、
物々しく警備に当たっている。

9時半、ハーバーに向かう。
ハーバーの入り口には
空港の手荷物検査場と同じようなゲートが
設置されていて、
手荷物の入念なチェックを受ける。

午前11時には、スペイン国王が
レース参加クルーたちを直々に
激励に来ることになっている。
テロリストによる鉄道大惨事が
記憶に新しいスペインだから、
これくらいの警備は当然かもしれない。

BLACK PEARLに乗る
TEAMパイレーツ・オブ・カリビアンの
クルーたちも手荷物検査を受けている。

元ニッチャレで一緒だったロドニー・アーダン、
ZANAで一緒だったジャスティン、クレイグ、
もう古い仲になったアール・ウイリアムス
と話す。
皆、海賊(パイレーツ)のユニフォームに
身を固めている。

午前11時、スペイン国王が桟橋に到着。
各艇のクルー一人一人と握手をしたり
ハグしたりして激励している。セーリングとは、ヨーロッパではこういう位置づけのスポーツなのだ。

午後0時。群集の大歓声の中、参加艇が1隻ずつ桟橋を離れて出航していく。
スタートラインは港のすぐ前に設置され、岸壁には2千人分くらいの観客席が設置され、一般の市民がそれらの椅子に座ってスタートを観戦できるようになっている。

サンセンソでこの日の朝やっと計測が終わり、晴れてVOLVO OPEN 70クラスとして認められたSUNENERGYが、なんとかスタート時刻に間に合ったようで、VIGO湾のスタート海面に姿を見せた。
ボートを近づけていくと、オーナー/スキッパーのグラントが嬉しそうに「ハイ、KAZU」と手を挙げる。昨年のシドニー~ホバートで、ファーストホーム争いをしていながら、お互いに船を壊してリタイアしてしまい、虚しくホバートで慰めあって以来だ。

ナヴィゲーターのキャンベル、ヘルムスのジェフ・スコットも、まだ忙しそうにデッキの上で右往左往している。
フォアデッキでは、まだジェネカーのヤーンをしている(毛糸でジェネカーを縛り、挙げている途中で開いてしまわないようにする)始末だ。他の仕事に忙しく、セールのパッキングなどをする時間などなかったのだろう。

午後2時。200年以上前に中国との貿易に使われていたスウェーデンの帆船を復元したヨーテボリ号が、スタートラインのアウター側に錨泊して、スタートの号砲を鳴らす。

まずは湾の奥に向かってスタートし、橋の手前にあるブイを回航してから、再びスタートラインを通過して、岸壁で見守る大観衆の前を通って大西洋に出て行く、というコース。

ポール・ケアード操るBLACK PEARLが風上側のいいポジションからジャストスタート。
弱かった風が、レース艇が第1マークを回ってスタートエリアに戻ってくる頃になると強くなり始める。

VOLVO OPEN 70クラスの性能は聞きしに勝る。風よりも速い。10ノットほどの風で12ノット以上は出ている。素晴らしいスピードで大西洋に走り去っていった。