続 コーヒーカップの耳 62

『コーヒーカップの耳』（編集工房ノア刊）を上梓したのは2001年2月1日だった。

もう18年にもなる。
その後、続篇をあちこちに色んな形で書き溜めていた。
それを今、修正しながらボチボチと公表しているのだが、お気づきでしょうか？作品番号が飛び飛びなのを。
今、62作まで来ています。でもここに発表しなかったのも数多くあります。
将来（と言っても私の残り時間はそれほど長くはないでしょうが）、もしも一冊にして出版するというようなことがあった時に、
全部ここに発表してしまっていたら、このブログを見て下さっている人は、「それ、みんな知ってる」ということになり、楽しみが半減されてしまうのではないでしょうか。
ということで、このあとも作品番号は飛び飛びになるでしょうが、もう少しお付き合いのほどお願いいたします。



続　コーヒーカップの耳

62「子ども返り」

わたし糖尿の気（け）がありましてね　医師に勧められて　60歳過ぎてからジョギングを始めたんです。始めは１００メートルも走ると　フーフー言ってたんですけど　だんだん距離を延ばして　そのうち10キロ以上走っても大丈夫になり　やがて色んなマラソンに参加するようになりました。80歳になったらやめようと思ってたんですが　いまだに。
でも家内の調子が良くなくてね　医師から「だいぶ子どもさんに返ってきておられますね」と言われちゃいました。だけど　家の中に居るばかりではなんですから　毎日　スーパーに買い物に連れて出るようにしてるんです。腕を抱えて歩くんですが10メートルほど歩いては休み　また10メートルほど歩いては休みしながら　わたしも子どもに返ってね。嫌がる日もありますけど　「寝たきりになっちゃうよ」と言って連れ出すんです。そういえば今日は　家内の誕生日でした。これから帰って　風呂に入れてやります。

続 コーヒーカップの耳 60

続　コーヒーカップの耳

60「日本語」

ぼくの愛読書は『毛語録』。うそうそ　そんなことないよ。なぜ日本に来たかって？向こうで大学に行ってたけど　自分の人生　このままでは　なんか面白くないなあと思って　中退して。ちょっとした冒険心もあったかな？三人兄姉でね。姉は今オーストラリア。弟が中国で親の面倒を見てます。貧乏くじというのかな？ぼくはもう　日本に帰化してしまったので　弟には申し訳ないけど。
日本に来た最初は　やっぱり困ったよ。初めてバスに乗った時はホンマ　びっくりした。まだ言葉が十分ではなかったから　降りる所を　予め幾つ目の停留所と調べておいた。だから　停まる回数を一生懸命数えてた。そしたら　そのうち誰もおらんようになってしまって　おかしいな　思ってたら　「終点ですよ」と言われてびっくりした。停まった数　足らないから　まだまだと思ってたのにね。バスは電車みたいに　駅ごとに必ず停まるのではないということを知らなかった。まして　ボタンを押すということも。運転手は　ぼくのこと　アホ面に見えたやろね。それから日本語　必死で勉強しました。

続・コーヒーカップの耳 59

続　コーヒーカップの耳

59「名前」

小学校の時　同級生に同じ名前のやつがおって困りました。「与宥」と書いて「かずみ」て読むんでっけどな。おかしいでっしゃろ　こんな難しい名前で　字も読みもおんなじて。おまけに誕生日まで。そんな奇跡おまっか？調べたら　そいつもおんなじ神社でつけてもろてましたんや。
学校で困っただけやったらまだええけど　軍隊でえらい目に遭いましたがな。上官が点呼するときに　俺のとこで止まってしまいますねん。読めんのですわ。「ややこしい名前つけるな」ゆうて殴られて。元の帳面にはフリガナついとる筈やけど　よう覚えよらんのです。そやから恥かかされた思て　腹いせに殴りよりますねん。一ぺんだけやなしに　何べんも。俺がつけた名前でもないのに　軍隊ゆうとこは　ホンマに理不尽なとこでっせ。それにしても　もう一人の与宥はどないしとるやろなあ。学校出てから会うてないけど　どうせロクな者にはなっとらんやろなあ。

本日より

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