御託専科

時評、書評、そしてちょっとだけビジネス

「現代アートの舞台裏」 サラ・ソーントン

2009-09-27 21:23:43 | 書評
長々と書いた書評を操作ミスで消してしまった。ショックは大きいが気を取り直して、ただし楽にコンパクトに書く。
オークション、カルフォルニア芸大の批評会、バーゼルのアートフェア、ターナー賞、アートフォーラム誌、村上のスタジオ、ベネチアビエンナーレをそれぞれ1章ずつにまとめアートの世界の仕組や関係者や彼らの考え方などを紹介している。あまりに包括的であるためにわかには消化しきれず。章によっては情報量が多すぎるせいか消化不良となったものもある。また読む価値はあろう。ただし焦点を絞るとより面白さがわかるだろう。

焦点を絞る、という意味ではやはり村上のスタジオの章はよく理解できたし感動もした。村上スタジオの8時50分のラジオ体操と人のこき使いぶりにはちょっと笑った。いい方の話。村上が製作スタッフのキャリア形成を積極的に支援しており、カイカイキキで支援している7名のほかにも、作品の制作スタッフには自分の名前をカンバスの裏にかかせているそうな。これは世界的にもこの世界では珍しいそうな。引抜を恐れるのと、「孤高の作家」のイメージを保ちたいのとでみんなこういうことは嫌がるそうな。
また、村上の章の最後ではOvalBuddhaを富山まで見に行く。そこでキュレーターたちが示した感動や村上が古参職人たちから誉められ感謝されたことの嬉しさを素直に述懐する場面などは印象的であった。アートと職人技の美しい交点が日本の富山に生まれた瞬間を見ているようだった。Oval Buddha はいつか皆けれh場。

なお、番外の「あとがきに代えて」は全体のまとめが凝縮されているので、アートとは何ぞやと思ったときは参照すべき章である。

あと、全体的感想をひとこと。案外アートというのは普通の仕事と大きく変わるものではないような気がした。もし仕事もアートも、個性と誠意と能力・技能の発露が文脈との交点でいかに輝くか、ということであるならば。また、アートの世界に「巣食う」連中、批評家やディーラーやキュレーターなど、また「キャラ」で稼ぐアーティストなど が、案外まともな考え方の連中らしい、とは意外な印象であった。もっとも、これは聞いた相手次第の面はあろうが。