御託専科

時評、書評、そしてちょっとだけビジネス

小西真奈 「私の馬」 (絵画)

2009-09-19 06:58:45 | 書評
昨日、勤め先のあるビルの併設美術館で美術展があったのでチケットをもらって行った。本命の企画展は今ひとつ(後述)だったのだが、所蔵品展示がとてもよく、とりわけ小西真奈の3点にぐっと捕まえられてしまった。その中でも「私の馬」という、一見さして変哲のない絵はずいぶんひきつけられた。画面左寄り(高さは真ん中)あたりに、右を向いた馬がいる。画面右にはそれと向かい合う「私」が紫のワンピースを着ている。顔は遠くから見ると違和感はないが、近くでよく見るとかなり曖昧というかぼんやりと描かれている。全体に遠くからは写真風だが近くでは簡素な書き方がされて入ることがわかる。「私の」両手は胸と顔の中間あたりの前方に上げられている。空は7分の雲に3分の青空。雲は左手は弱い雨雲風、青空と混じったところは秋の雲、「私」の背景にはちょっと力が弱い積乱雲。 画面の下3分の1近くを草地が占める。手前に向かって傾斜が強くなり下っている。良く見ると明暗がわりとはっきりあり、草地の上の真ん中あたりに明るさが集中しているような。そのあたりは傾斜が小さいところだから当然といえば当然だが些か妙な感じあり。雲を見ると光は左手から来ていることになっているのだが、その左手には弱い雨雲がある。右端の下4分の1ぐらいのところに小さく草地の遠景が見えるが、これがやけに明るい色調。これも不思議。そういう光の具合の不思議さへの注目から始まって、何の変哲もない画面全体に不思議さ、味わい深さを感じてしまい引き込まれた。残念ながらというか当然というか、まだ充分にその面白さを言語化出来ない。
ああ、もってかえりたいなあ、と絵を見て思ったのは初めてのこと。いいなあ、という以上の別の感覚があるような。よくわからないけど多分、描いた人の出した謎が充分に解けていないからだろう。あるいはもっと謎を味わいたいからだろう。なあるほど、こうやって人は作者と共振し、そして絵を買うんだなあ、と納得した。
←ふと思ったがダリの絵を見た時に受けた印象に似ているかな。とくに背景の奥行きから受ける感じ。あと、「千と千尋の神隠し」のテーマを歌った木村弓の、きれいな、しかしうつろな感じのする歌声はマッチしそうだ。(19日17:41追記)

なお、本命の鴻池朋子。ま、絵はうまいしそれなりの怪奇イメージは悪くはないがそれまでのこと。「インタートラベラー」という造語にも少々鼻白む。奇怪イメージも人体の一部と他の動物や山などが合体したりしただけのものと言えばそれだけのもの。彼女の夢魔のイメージなのかな。それはそれで意匠としては面白いが、そういう普通でないものを描く、描かなければならない、描かざるを得ない切実さとか病とか怒りが自分には見えなかったね。思いつきで面白い、って具合で描いてるだけで、ディズニーキャラクターを描くのなどとたいした差はない。アート版お化け屋敷、ってところじゃないかなあ、せいぜい。
あとで気がついたんだが、鴻池ってニッセイと付き合いがある財閥だったし、僕の入っているのはニッセイ系のビルだから、「鴻池の絵の好きなお嬢さんにニッセイが貸してあげたんだろう、あまり批判を経た出来上がりでもなさそうだし」と思ったが、ご本人案外普通の履歴だったのでびっくり。血縁はあるんだろうけどね。ギャラリーの最後で子供に感想を書かせるコーナーをみてえらくいやらしいなあ、とこれも鼻白んだが、玩具デザイン出ということならまあよしか。

1960年秋田県秋田市生まれ。
1985年に東京芸術大学美術学部絵画科日本画専攻卒業後、玩具と雑貨の企画デザインの仕事に長年携わり1997年より作品制作を開始。