御託専科

時評、書評、そしてちょっとだけビジネス

小谷野敦の小説をいくつか読んだ

2015-05-10 17:51:57 | 書評

ここ2-3日は小谷野敦の小説ばかり読んで過ごした。この人の小説には、女性に不器用な男性の、また周囲より頭が良く知識があるがそれゆえうまく交われない人間の、葛藤と意外に平凡な思い、あるいはよこしまな思いそれからドンくさい行動やうまくいった事実などが良く書かれている。ある意味日記をだらだらと集大成しているみたいなんだが、なんだかひどく共感する。全く、本来の私小説というのはこういうものなんだろうな。自分の心や主観や行動の思惑や相手の対応から感じられたことなどがとても正直に書かれている。ストーリーに仕上げるための作為がない、少なくとも目に見える形ではほとんどない。その分共感ができるのだろう。
ここ2-3日読んだのは以下のとおり

グンはバスでウプラサに行く:太宰さんの話
僕のエメタリス:蘭(あららぎ)さんの話。後述の吉川さんも出てくる
童貞放浪記:これは表題どおり
黒髪の匂う女:吉川さんの話、現在の妻の話も少々。エンディングの筆者の思いが正直でまた美しい。
ミゼラブル・ハイスクール1978:表題どおり
鴎たちのヴァンクーヴァー:ふられた彼女を追いかけていったカナダ留学の話。だが、つらい面は主に「悲望」に書かれており、こちらはどちらかというと日本から大挙してやってきた(おそらく立命の)大学生たちとの楽しく明るい交友を主に描いている。
ピトロッホリーの秋:夏目漱石とマーラーの仮想的な遭遇を描いた小説。驚くような結果はないのだが淡々と味わいがある。


2 コメント

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Unknown ()
2015-05-11 15:58:42
はじめまして。
小谷野さんがこちらをツイートされていたので、来ました。

小谷野さんのツイートや評論、私はとても好きなのですがあまり小説は読んだことがありません。「頭がいい」「不器用」「意外に平凡・よこしま」って、小谷野さんご自身のことですね。小説も読んでみようと思いました。

小谷野さんていいですよね。でも、どうして岸本葉子氏を好きなのか・・・女が一番嫌いそうな女性なので、そういうアンバランスさもまたおもしろいです。

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Unknown (circusmanx)
2015-05-17 17:19:11
Kさん、ありがとうございます。そうですか、小谷野さんにツイートいただいておりましたか。それは大変名誉なことです。

小谷野さんはとってもいいですよ。淡々とした中に、意外にはっとする場面、ほろりとする場面が何気なく出てきます。劇的にしようという作為が感じられないため地味ですが結構実感を以ってこっちに響いてきます。ぜひお試しください。

なお、「意外に平凡・よこしま」っていうのは、小谷野さんのことを言ったというよりも、「こういう頭が良く優れた人でも内心に分け入ると意外に平凡だったりよこしまだったりするんだよな」という風なつもりで書きました。小谷野さんに限らずわりとみんなそうなんじゃないかな、と思っています。それを小谷野さんは(他の人と違い)ずいぶん正直に描いておられるなあ、と思ったしだいです。
小谷野さんに見られているからって弁明しているわけではありませんよ(笑)^^

ではではまた。
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