御託専科

時評、書評、そしてちょっとだけビジネス

ガルブレイス「The Economics of Innocent Fraud」

2005-05-25 07:28:12 | 書評
ガルブレイスには罪はないが、この本自体がちょっとFraud気味。たまたま日本語訳だけでなく英文書も検索したらペンギンで安く出ていたのでそれを買った。A6ぐらいで50ページあまりの薄っぺらい本だった。和訳買ってたらちょっと腹が立ったかもしれない。

それはともかく、痛快かつ深刻、ただ、期待・予想通りの内容だった。
・実は楽しく楽できれいな仕事をしている人ほど高給をもらっているということ(the specious world of work)
・GDPという計測方法をターゲットにすること自体の不健全さ(The economics of Accommondation)
・金融政策が実は何の効果もないのに崇め奉られているということ。
・株主に仕える経営者というフィクションの下で株主は安心し経営者が蓄財に励んでいること
・偽りの(そして高給の)預言者たち
などなど。僕自身かなり前から思っていたことだが、こういう人にはっきり言ってもらうと自分の感覚・思考が間違いではないことが確認でき、安心しまた勇気が出る。

「日本のお金持ち研究」橘木俊詔 森剛志

2005-05-22 11:43:36 | 書評
大変面白かった。さすがは本格的学者の本、面白い素材が、深く面白く、しかし冗言少なく引き締まったまとめ方がされている。以下は一部。

・国税庁「全国高額納税者名簿」2000、2001年版の両方に記載されている、2001年の年間納税額3千万円以上の人6000人にアンケート送付。500人から回答あり。回収率8%。
・金持ちは意外に普通、意外に饒舌。
・医者(全国)と経営者(大都市)が2大金持ち職業。医師は内科外科以外の「ニッチ系」が儲かる。
・弁護士は意外に儲からない
・遺産相続はほとんど関係ない。
・高いといわれる日本の所得・相続税率は実は普通。

多分、橘木さんはこの結果を踏まえてより包括的・思弁的論文・本を書くと思う。楽しみだ。


「農で起業する!-脱サラ農業のススメー」 杉山経昌

2005-05-22 11:12:01 | 書評
昨日の昼過ぎにアマゾンの宅配が来て、ちらと眺めるとそのまま面白くて最後まで読んでしまった! 外資系サラリーマン、という話だったので、ストックオプションやらなんやらで濡れ手に粟で稼いだ人が道楽として自分の思いを語るってな本だったらすぐゴミ箱に持ってゆこうと思ってたが、なんのなんの、現実的で勇気のある人の真っ当で創造的な生き方の見本を見せ付けられた。
細部をあげればきりがないのでよしておくが、全体として言いうるのは、農業にはまだまだ合理的な考え方を持ち込む余地があるということのようだ。それをひとつひとつ試し実践してゆく著者の勇気と想像力と勤勉さには感心するほかはない。
実をいうと農業に限らない広い範囲で合理性と合目的性を問いなおすべき話は多いのではないか、と改めて思った次第。
エコロジー・有機農法などに対する考え方などもとてもよく理解できた。書家の石川九楊が言ってた、「農業とは自然そのものではなく、自然を意図的に傷つけ、その回復力から収穫を得る産業である」ということばが具体性を持って見えてきた気がした。

「瀬島龍三 参謀の昭和史」 保阪 正康

2005-05-17 15:06:25 | 書評
古い本だ。87年にもともとの本が出て、91年に文庫になった。それから12版を重ねている。それなりに読まれたようだ。瀬島龍三については、最初の職場での上司(N部次長)が「やっぱり参謀なんてやってると肝っ玉が据わるんですかねえ」と、接客の際に語っていた記憶がある。あの当時(80年代半ば)は、「偉大な人」として一般には見られていたようだ。上司の述懐が本心からそう思ったことなのか、会話の流れでちょいと相手に合わせたことなのかは定かではない。

僕の世代は当時20台半ば~後半、瀬島を云々するような知識も興味もなく同世代では大して話題にはならなかったと思う。ただ、たまに賞賛記事とかが話題になると、「へたくそな戦をして負けた軍隊の中枢にいたことは、恥や負い目になることであっても、名誉なことでも箔がつくことでもない」と僕は偉そうに言っていた。今回読んでみてまさにそう思った次第。やはり、恥を知る人ならば、あれだけへたくそな戦争指導をして人を無駄に死なせて、それに知らぬ顔をして世に現れることはしないだろう。それが末端責任であるにせよ、だ。

ところでこの無恥漢はまだ生きてるのかと思いWebをひいてみたら、2003年に「日本の証言」という本が出ていた。昔とかわらぬつまらぬ紹介が出てた。こういう厚顔無恥でイメージ戦略だけには頭がまわる男はしばしばいるわけだが、それを賞賛してしまう連中はいったいどういうつもりなのかね。瀬島の教訓は、こんな男を再び世に出さないようにする仕組みを考えよう、ということかな。ま、わりとそうなってきているとは思うが。


「満足の文化」ガルブレイス

2005-05-15 22:26:02 | 書評
10年以上前の本である。これまでそれほど読んではいないが、心情的にはガルブレイスは非常に相性がいい。日経の経済教室で「失業手当をもらいながら図書館に通うなんて素敵じゃないか」という趣旨の文章に痛く感動した覚えがあるし、「私の履歴書」も面白く読んだ。彼の思う公正な社会へのあり方、政府のあるべき姿、金融界・実業界の夜郎自大的妄想への嫌悪、それらがすべて僕の思いと一致する。
この本は「満足せる多数派」により社会がいかなる形でゆがめられているかということを書いている。下層階級の困窮への無視、金融界で時々起こる途方もないスキャンダル、曲解される経済学説、あるいは「満足せる多数派」におもねる学者ども、思い上がった経営者たち。そうしたことが民主主義のメカニズムの中で整然と生じている。「満足せる多数派」を凌駕する「怒れる多数派」が出現したときのことを若干の可能性として示唆しているが、見込みは薄いとしている。
乱暴に煎じ詰めると、政治的には多数決の、経済的には収益至上主義の欠陥を詳述しているということだろう。やはり「公正」の概念、あるいは制約条件なしに民主主義と資本主義が倫理性をわずかでも保ちうる保証は全くないのだ。それは当たり前のことだが、「市場がすべてを解決する」式の言説には、倫理的問題も含めた解決がされるような言いぶりがこめられているように思う。あるいは市場の解決が正義なのだというイデオロギーか。

なんにせよばかな言説に付き合う僕の日常にとってはこのような正気の言説はとてもありがたい。

「仕事の裏切り」 ジョアン・キウーラ

2005-05-15 15:19:32 | 書評
原題は"The Working Life: The promise and Betrayal of Modern Work" である。
特定の結論へ向けた誘導を行っている本ではないので一言ではまとめにくい。また、なんとなくだがまとまりが悪い、進め方にむらがある、論議のレベルが均質でない、と感じられる。多分、著作途中で論旨が変わったのではないかな。
とはいえ、それなりに読んで報われる本であった。仕事がある意味過大視されてきた歴史を振り返って、人生の中での、あるいは生活の一部としての仕事をどう位置づけるかについて改めて考えさせてくれるカタログのような本である。生活の中の位置づけとして過大になりがちな「仕事」を相対化するのにはいい本なので、生真面目になりすぎたときには時々めくってみたい。
なお、仕事の位置づけを改めて考える、というとちょっと重くなりがちである。というのは、通常「人生の中でのいろいろな優先順位をよーくかんがえて・・・」という話になって、なかなか結論が出ない。ただ、この本を読んでいて思ったのは、別にそんなに深刻に考えなくてよいということだ。靴屋とか車を選ぶように仕事を考えればよいのだろう。「面倒だから変えない」というのも立派な考え方ではある。
仕事から距離を置き、置きつつも逃避・反発ではない冷静な判断をしてゆこう。仕事の位置づけを過大視しないからこそそういうことができる。特に自分の市場価値が顕在化するときの冷静な対応は重要だ。車を選び、ディーラーを選ぶように仕事を選ぼう。


一炊の夢

2005-05-12 21:57:47 | 時評・論評
一炊の夢を見て、そして醒めて故郷に帰りたい、と僕は思っているようだ。
それが、さしたる野心もないまま、「見極めるために」「むやみな憧れと劣等感を持たぬために」東京の大学に来た男の究極の思いだったようだ。うん、もういいかな、ってところでおあいそしてかえろう。さて、「故郷」はどこがいいかな。


美味珍味 めぐり味わいそのあとに 茶漬けを掻き込み おくびして寝る

仕事を「まじめに」考えること

2005-05-10 12:27:53 | 時評・論評
仕事をまじめに考えようという傾向は僕のなかにあるし、かなり多くの人にもある。
それが確かに品質を保証し競争力を保ち向上させ最終的には利益につながる。はずだ。
ただ、このことにつながるまじめさ(というか本気度)以外は趣味なんだろう。趣味であるなら過剰なまじめさ・本気度は面白いところで発揮するのがいいんだろうね。それがいわゆる「仕事」であれ、いわゆる「趣味」であれ。
一方で、本気度を高めるためにはプレッシャーをかける「場」は必要だ。発表会であれ競技会であれ締切であれ。そのあたりのバランスは難しいが。 大雑把に言うと、ゲームとしての楽しさ(本気度も含め)をますものでなければつまらないまじめさかな。

旅の雑感 20052502-04

2005-05-05 13:37:34 | 時評・論評
木更津の温泉宿・スパに行ってきた。いろいろな点でちぐはぐな感があった。客層はヤンキー風の家族が多く、ホワイトカラーのファミリーらしきはあまり見当たらず。こけおどし風の立派な門構え、意図の読めないほど動線のわるい宿のたてつけ、広々としかし安っぽいプール。その一方で意外にしっかりしたたてつけ、うまい料理、しっかりした接客態度(Sさん)、立派な浴室。
それやこれやのなかで2泊3日を過ごした。非常に楽しんだ。よかったのは部屋の落ち着き。たてつけ、レイアウトが意外によく、大きくきれいに磨かれた窓の外から東京湾を眺めていればじっとしていてもとても心地よかった。
意外に感じたのは、ヤンファミで溢れるプールや食堂でさまよいながらも、案外心地よく感じている自分の心境。祭りの縁日のような気分であった。現実へ入ってゆく、という構えが無意識のうちに形成されつつあるのだろうか?トシをとったため他者との「競り合い」を余裕を持って見ることができるようになった、ということだろうか?
また考えよう。

「リストラ起業家物語」 風樹 茂

2005-05-05 13:26:16 | 書評
うーん、なんと言うか。面白い本ではあった。ただ、思ったような本ではなかった。
起業をしていまも奮闘している人々の話である。第一話のオリジナル絵本の人を除き金銭的に成功といえる部類ではない。しかし、どうやらそれでいいのだ。実家の人々が何をするでもない何とかもがきながら元気に生きていることを思い出した。金と物質的な繁栄のために働いているわけではないのだ、みんな。
ちょうど僕の仕事への価値観が変わろうとしているところでの本。いまは十分消化しきれないが、そのうち何かの再発見がありそう。とりあえず「しまって」おこう。虫干しは近いかも。