御託専科

時評、書評、そしてちょっとだけビジネス

今回の芥川賞

2012-02-25 15:57:01 | 書評
今回の芥川賞は結構いけると思うね。
田中慎弥の「共食い」は、薄汚い川の周囲にすむ貧しい一帯でのお話。セックスに暴力を伴う事を快とする父親を持つ17歳の高校生を主人公とする。彼の母親は彼を生んだあとだんなの暴力に愛想尽かして別れ、川の近くで魚をさばいて生計を立てている。戦災で千切れてしまった右手の手首から先は義手である。彼女が出て行った後には少々頭の弱い(ように見える)グラマーな女が入り込んでいる。主人公には恋人というか性交の相手というか、そういった女性がいる。1学年上の女である。あと、登場するのは川向こうのアパートにいる娼婦。このくらいかな。
物語は主人公が父親から受け継いだ、自らの嗜虐性に気づき始め、それを扱いかねて一時的に自らの性交の相手の首を絞めてしまう。それからあと没交渉となっていた2人は近所の子供連中のおせっかいでまた会うことになる。ここから行き違いがあって、主人公の彼女は主人公の父親に犯されてしまう。それを知った主人公は父親を殺すことを決意。しかしその決意は、2人の様子を見てすべてを悟った主人公の実の母親によって実行される。父親が死に継母が家出してしまった(これは事件の結果ではない)主人公は養護施設に入り、そこから実の母親を獄に訪ねる。何かいるものはないかとの主人公の問いに母親はなあんもない、と答える。
とまああらすじを書いてしまうとこんなところ。なんだか中上健次の世界みたいだね。男前は出てこないけど。でもひとつ違うのは女が滅法強い。継母は暴力夫に愛想をつかしてさっさと家出するし、主人公の彼女は犯されても大して弱らない。主人公が父親を殺すといったら「止めない」というし、その実行者が母親になったときも「誰でもいいから殺してくれりゃあいい」と言う。母親は母親で淡々と殺しに行く。主人公が同行しようとすると「お前は殴られたことがないから無理」とあっさり宣言する。こうした、人々のさっぱりした決意の前に主人公は屈折した思いを抱こうにも抱けず物事はどんどん進んでゆく。
石原慎太郎も言っていたが、長編にするともっともっと豊かになるだろう。その中で女たちの心情描写を彫りこんでみてもらいたいと思う。

さてと。円上塔。これはちょっと要約できないね。もっと理解レベルが進めばできるのかもしれないが。例えば銀の糸はなんかのメタファーなのかそうでないのか。それらメタファーは絡み合っているのか投げ出されたままなのか。過去改変のような話をどこまで真に受ければいいのか。などなど、いささか距離感がとりにくい、つかみづらい本ではある。ま、そのわからなさの分、注意深く読み直したり比べたりするからはまっては来るけどね。ま、わけのわからんデビュー作(Self-Reference Engine) 読んでたんで「まだ」読みやすくはあったが。まあともあれ、次作の伊藤計画「屍者の国」の完結編は期待できそう。

てなことで。

1 コメント

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ねぇ (nene777ne@yahoo.co.jp)
2012-05-06 03:13:30
はじめまして!ヾ(〃 ̄ ̄ ̄ ̄▽ ̄ ̄ ̄ ̄〃)ノ ハロハロー♪ 初めてコメント残していきます、おもしろい内容だったのでコメント残していきますねー私もブログ書いてるのでよければ相互リンクしませんか?私のブログでもあなたのブログの紹介したいです、私のブログもよかったら見に来てくださいね!コメント残していってくれれば連絡もとれるので待ってますねーそいじゃ.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○アドレス残していくのでメールしてね!そいじゃ.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○
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