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Timothy Snyder「Bloodland Europe between Hitlar and Starlin」、大木毅「独ソ戦」

2019-11-09 13:08:14 | 書評
Bloodlandは英文ペーパーバックで544ページもある本。日本語だと上下二巻でそれぞれ三千円。英語のキンドルだと800円だったので昔に買っていて、日本語版の存在を知らなかったので読んだのだが、まあよくぞ英語で最後まで読んだものだ。英語だし内容もきついんで休み休み半年ぐらいかかったがw

内容はただただ陰鬱。ドイツとソ連に囲まれたポーランド、バルト3国及びソ連西部のウクライナ、ベラルーシあたりの悲惨な運命が語られる。この地域は独ソ各勢力に交代交代に占領され、それぞれが虐殺を行った。スターリンとヒットラーの狂気もさることながら、結果非戦闘員を1400万人を殺しそれ以上を労働キャンプに送り込んだそれぞれの国の「装置」があったわけだから、個人的狂気じゃすまないよね、これ。そのあたりはヒットラーやスターリンだけではなく幹部連中の思想や反応の仕方も書いてあり、まあ納得できる話だ。大量餓死を招いたウクライナ農民からの穀物の徴発やユダヤ人の殺戮などが(営業成績を争うような)組織間競争になって振り返る間もない、振り返ってみてもそれぞれのイデオロギーが一定の枠となる様子はなどがよく描かれている。

それにしてもドイツの罪はひどいもんだ。ユダヤ人を、戦闘目的の巻き添えなどではなく殺害を目的として600万も殺し、ソ連兵の捕虜も意図的に飢えさせて300万人殺したっていうんだからね。あとポーランドの非ユダヤ人なども多数。まあ抹殺されてもおかしくない国だな、ドイツは。僕が当時のロシア人ならそう思うだろう。ドイツ国内でのソ連の進軍路の悲惨、被占領のベルリンの無秩序も自業自得と思えばまあそんなものか。ポーランドへの国土一部割譲もまあ、あれくらいは仕方がないかなあ、と認識するね。
ところでドイツ人、ロシア人はこれをどのくらい知っているんだろうか?

上記に続いて「独ソ戦」読了。Bloodlandの補完と思い読んだが思いのほか勉強になった。戦域の詳しい図表が多く非常にわかりやすい。キンドル化を待っていたが紙の本で買ってよかった。図のみやすさはやはり紙が上だね。

41年6月のバルバロッサ作戦がバルト海~黒海にかけての3000キロメートルの広大な前線に渡り300万人以上を投入した作戦だったとは驚くね。恥ずかしながら今まで知らなかった。それで補給も途中からかなわずまた赤軍がフランス軍と違い意に反して頑強だったということで、実は41年8月、作戦開始2か月で、まあそれまで快進撃と勝利を重ねてきたのだが、すでにボロボロになっていたようだ(例えば装甲車両の稼働数は3分の一)。よく言われる日本軍の大風呂敷とか補給軽視以上にこれはひどいね。それからフランスを中国、ソ連をアメリカに置き換えると、弱い軍を相手に快勝して錯覚した軍が無謀にも強い相手に大風呂敷の戦いを挑む、という点でこれまた日本軍とも似ているね。さらに言えばコンティンジェンシープランの欠如も。ちょっと話がそれたが、赤軍もダメージは大きく、10月の時点では、あたかも「殴り合ってフラフラになった巨体ボクサーが2人、かろうじて立っている」状態だったようだ。
日本の開戦がこの何ヶ月後かであった、と言うのは実に悔やまれる話だね。三国同盟解消と連合国への加担だって考えてもいい話だよ。少なくとも開戦はないよね。ドイツのモスクワ進行作戦中止が12月5日ということも考え合わせると、「アホとちゃうかこいつら?」と当時の意思決定者連中には言いたくなるよね。天皇だって立憲君主制下での自制なんて言っている場合じゃなかろうて。そういう視点でまた勉強してみよう。

蹂躙された地域の悲惨さはブラッドランドと矛盾はないが本の重心が戦況推移解説なので相対的には簡単である。「絶滅戦争の惨禍」という副題はちと大げさでは、と思う。まあ類書の中では惨禍の部分に焦点を当てている方かもしれないし、また僕の感じ方がブラッドランドを読んだあとのせいで「惨禍慣れ」しちゃってるかもしれないね。
あと、ドイツ国防軍、国民もヒトラーの「共犯者」であって罪を免れないことは明言しているね。そういうことをしっかり言える時代になっているわけだ。

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