御託専科

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Naomi Klein "The Shock Doctorine" - だれか早く翻訳して!!

2008-11-01 09:18:39 | 書評
9月末のシカゴ出張の帰りに空港の本屋で見つけたこの本にぐっとひきつけられ、ようやく読了した。ふう。しっかし空港の本屋でぱらぱらと見てぐっと来るたあ、なんだか劇的だよね。

内容は期待を全く裏切らないものだった。この本はすごい。新自由主義の、フリードマンの、ネオコンの化けの皮が見事にはがされた。 要は連中は火事場泥棒だった(いや、あとを引かない分、火事場泥棒の方がまだましかもしれない)。引用も調査も行き届いている。おそらくシカゴスクールの連中やネオコンの論客をもってしてもこの本にまともに反論はできないだろう。ああいう世界に不幸を振りまく火事場泥棒集団どもをたたきつぶしておくためにも、この本はいろんな国の言葉に訳されて共有されるべきであろう。日本でもだれか早く訳してくれないか。

さて、大部の本だがともあれ乱暴にでも要約してみよう。

70年代の南米を嚆矢として、南アフリカ、東南アジア、ロシア・中国そして遂にはアメリカ本体で行なわれてきた大規模な悪事がある。それは概ね次のようなパターンで進む。

①クーデター、戦争、社会体制の変化や通貨危機などの「ショック」の時、つまり人々が混乱の中にあるタイミングがこうしたことの始点となる。

②時の権力者やIMFなどはフリードマンとその弟子たち(シカゴスクール)のエコノミストの新自由主義経済デザインを実施する。これらのエコノミストは暴力行使自体には手を染めないが、人々が混乱の中で体制を建て直す間のないタイミングで新経済システムの確立を急ぐ。普通だったら自分たちの経済デザインに人々は反対することを知っているからだ。その意味ではフリードマンたちは非民主的プロセスの強い支持者であり明らかに人民の敵である。

③その経済デザインとはそんな難しいものではなく、公共サービスの大幅カットと生活必需品の価格統制の撤廃、外国企業の投資自由化と公営・国有企業のリストラおよび民営化(売り出し)といったものである。

④結果は明らかである。参入条件を均等化しないまま自由市場に突入すれば、それまでの力関係がより拡大されてしまうのは目に見えている。 物価上昇と首切りの嵐で困窮する中産階級以下の人々、海外に切り売りされる国有企業、そして海外企業とつるんだ権力に近い連中の超富裕層化である。中産階級は消滅して国家財産は生体解剖のごとくばらばらにされてしまう。

というようなことのようだ。著者はまた、新自由主義者がショック後のパニック状態を好むのを、CIAの洗脳過程にまでなぞらえて(そして取材までして)両者の並行性を語っている。これも尤もな話である。

本の大半は上のようなパターンが各地で繰り返されていることの詳細なドキュメンタリーである。ほんとに腹が立つ話が多い。しかし、最後には救いがある。最も初期にショックドクトリンの被害を被った南米諸国でケインジアン的・半社会主義的政策がとられ、また諸国間で「反・新自由主義」の連帯が成立していること、イスラエルの空爆後、レバノンの民衆が上のような「レシピ」に猛反発してこれを退けたこと、大津波の後のタイでは「だまされない」民衆がすばらしい協働でコミュニティーを再建したこと、またこれを見学して触発されたニューオリンズの被災者が張り切っていること。希望の持てる話が最後に読めてよかったと思う。

南米の軍事政権やIMF、ネオコンがそれぞれ悪いやつらとはわかっていたつもりだが、その背景をつなぐものが何と新自由主義だったとはね。これでいろいろなことがすっきりつながったような気がする。フリードマンは(学者として)昔からきらいだったけど、これでようやく踏ん切りがついたかな。市場主義者の論説にも。

最近の金融危機や米国でのオバマの優勢なんかとあわせると全く時代は屈折しつつあるかもしれないな。あ、そういえば修正資本主義者のクルーグマンがノーベル賞もらったしね。

3 コメント

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Unknown (Orwell)
2009-04-26 17:21:33
まだ、翻訳されて言いませんね。何か、圧力でもあるのか。
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Unknown (haku27)
2011-08-23 00:43:03
やっと翻訳が出ましたね。
http://p.tl/FtQr
でも上下巻で五千円オーバーて。
原書は千円ちょっとで買えるのに。




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震災後のいまこそ大事な本ですね (Cirsusmanx)
2011-09-25 18:19:41
haku27さん、どうも。
翻訳、買って読みました。たいした内容ですねえ。と、改めて感心。さすがに英語のときはいい加減に読んでたところも多かったようで。
 それにしても、何で厚めとはいえペーパーバック1冊から浩瀚なハードカバーが2冊出来ちゃうんでしょうね。逆のこと(厚い英語の本がコンパクトな日本語版になること)もあるような気もするし、なんか不思議なもんですな。
 それはともあれ、震災後の、ショックドクトリンに対して脆弱ないまこそ、皆で読んで火事場泥棒どもの手口を研究すべきですよね。いいタイミングで翻訳が出来たと思います。
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