御託専科

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登石判決は「画期的判決」である

2011-09-30 04:18:50 | 時評・論評
9月26日の元小沢氏秘書石川議員以下3名の有罪判決については多くの皆さんがすでに書いておられるのでよいかと思ったが、まあ一言だけ言っておこう。

この判決はある意味画期的だと思う。これまで冤罪事件などが多く言われ、不十分ながらそれなりの解決をしたものも散見された。最近になって菅谷さんや村木さんの罪が晴れ、冤罪を晴らす動きが加速してきているようにも見受けられた。ただ、そこで論じられてきたことは常に警察や検察の強引さであった。ストーリー、自白強要、証拠捏造(或いは隠蔽)の3点セットで罪を作るとんでもないやつら、というのがパターンである。

でも、それだけではないのである。もっと大きな問題は裁判官だったのである。冤罪の事例を見ると、どう見ても無理があったり不十分だったりする検察の3点セットを裁判所が受け入れている。どう見ても怠慢としか思われない。3点セットが素通りするから検察や警察はせっせと3点セットを作り続けてきた。裁判官がぼんやりせずにちゃんと常識的な疑問を呈すれば冤罪の多くは起きなかったろう。菅谷さんもそうかもしれないし(自転車に乗れない幼女を自転車に乗せていたという証言の怪しさなど)、まだ晴れてはいないが高知白バイとか御殿場事件とかは裁判官は愚かを越えて明らかに冤罪作りに協力しているとさえいえる。東電OL事件の控訴審もそうだ。率直に言って素人の集まりである裁判員なら絶対これらの判決は出ていない。裁判という分野においてはどうやら専門家は素人以下らしい、ということだ。

これまで冤罪では警察や検察の問題に焦点が当たり、なかなかこういう裁判官の資質の低さが問題にされなかった。しかし今回はどういうわけか裁判官が自らその愚かさを示すがごときことをしてしまった。もちろんこの判決はとんでもない判決で、取り消せるものなら取り消してもらいたい。しかし、副作用としては、ようやく裁判官の資質の低さ(はっきりいって頭の悪さ、といってよいと思う)に光が当たるということで一定の役割を果たすのではなかろうか。

登石氏、或いはほかの裁判官はどう考えているのだろう?裁判官ネットワークというWebsite および随伴するブログがある。菅谷氏のやり直し裁判、村木氏の無罪判決以来ちょくちょく見ているが、自分たちが冤罪つくりに寄与してきたかもしれない、ということの意識は薄いね。当たり前かもしれないが。だがこういうご時世にそういう話題で論議が盛り上がるわけでもなく健康の話とかしているのを見るとホント腹が立つ。「あんたらもっとしっかり働いてよぉ! 高給取りなんだから。そしてその高給は僕らの税金から出てるんだから!!」といいたくなるね。仲間うちはかばいあう、ってわけかな。まるで白い巨塔だね。
裁判官は判決がすべて、とかいう美学もあるみたいだけどね。でもその判決文がろくでもないから困っているわけだ。例えば判決文に関する2時間の質疑応答に耐えられるかどうかをちゃんと考えて書いてよね。適当に「信用できる」とか「信用できない」だとか、よく言うよ。「何々のなにだから信用できる、とかちゃんと根拠を示せよ。え?これだから?そんなんじゃあ弱すぎるぞ!もうちょっと調べて、人を説得できる話に仕上げて来い!」って僕が上司だったら言っちゃいそうな判決がそこらじゅうにある。集団としては決定的に知的訓練に欠けていると思うなあ。説明責任、ってやつが無い世界はやっぱり馬鹿を量産するんだろうね。

ということで。改めて最後に一言。皆さん、問題は裁判官です。

「ショック・ドクトリン」を読もう!

2011-09-25 18:25:58 | 書評
ナオミ・クラインの「ショック・ドクトリン」、ついに待望の翻訳が出た。要約は2008年11月1日のブログに詳しい。翻訳が出て多くの人に読まれるのはとてもよいことだ。などとえらそうに言っている小生もやはり日本語で読み直してはるかに密度高い理解が出来たと思う。
 なじみの無い方にざっと申し上げると、これは戦争、クーデター、テロ、自然災害などの惨事に便乗して新自由主義的資本主義をはやらせようとしてきたフリードマンとシカゴボーイズ、バークレーマフィア、ジェフリーサックスさらにIMFや世銀を告発するものである。取材は大変に厚く、おそらく正面から反論できる連中はいないであろう。いや、出来るものならやってみてほしいものだ。

 震災にかこつけたがごとき増税論やTPPの話が出ている現在、広く読まれるべき本だと思う。もちろん増税やTPPが一概に悪いということではない。しかし、震災にかこつけて論じられるならば災害に乗じた火事場泥棒的論議と疑わざるをえない(さらに根本的に言えば、復興資金を被災地に渡してそれで終わり、となぜ出来ないのか。復旧でなく復興とか言って、設計主義的思想を外部者が押し付けるのはおそらくよろしくない)。シカゴボーイズほど悪党でなくともその類の連中は大小わんさかいる。最近までの火事場泥棒どもの悪辣な手口はぜひ学んでおきたいものだ。

 そのようなわけで、ショック・ドクトリン、お勧めである。ぜひ皆さんで読んでいただきたい。