御託専科

時評、書評、そしてちょっとだけビジネス

野田さん、案外やるじゃん

2011-11-17 00:20:48 | 時評・論評
というべきか運がいいというべきか。
TPP参加をせっかく表明したのに9カ国会議には呼ばれない、とか、アメリカが早速野田さんの発言を曲げて流してくるなど、ありゃりゃ、案の定いいようにやられているワイ、と思ったが、その後がそうでもなかったね。カナダメキシコが参加表明してくるし、中国やロシアも多少興味をあらわす(少なくとも否定はしない)発言をしてきた。さらにアメリカの勝手な発言に関しては外務省がちゃんと否定をして抗議した。アメリカに取り消させるには至っていないが、これだけメディアにも報道させ、少なくともアメリカの言い分を中和するところまではいった。アメリカはこういうことをやる国だ、という印象を与えることもできたといえよう。
結果オーライだったかもしれないが、なかなかやるね。アメリカへの抗議なんぞは歴代の自民党政権でもちゃんとはできていなかったのではなかろうか。また、TPPもなだれが始まればこっちの思う壺だ。関係国が増えればそれだけ米国ルールというかアングロサクソンルールを押し付けるやり方には抵抗が増して、それほどドラスチックに米多国籍企業を利するあり方は通らなくなる。そうしてごちゃごちゃさせながらAsean+3だったか6だったかも並行して進めればよいのだ。両方に顔が利く日本はそれなりのポジションを得られるのではなかろうか。
なんて思っていると今度は「温暖化、東アジアで新会議」という見出しが今日の日経夕刊に出た。東アジア首脳会議でCO2の問題を討議するイニシアチブを日本がとろうというのである。ヨーロッパ主導に大きな対抗馬を出現させる野心的な試みだと思う。
なにやらここ3-4日で野田さんへの見方はちょっと変わったね。これが本物なら、外務省をはじめ各役所の人たち、しっかりと支えてくださいよ。もしかしたら久々の大局観と交渉センスを持った宰相の登場かもしれないのだから。
ちょっと期待しすぎかな。でもたまには痛快にして老獪な外交をしてほしいもんだね。力はまだまだある国なんだから。

TPPのこと。米多国籍企業対民衆、の問題なのかな。

2011-11-06 16:16:42 | 書評
TPPへの交渉参加云々が盛んに論議されているが、不思議なことにこれは小沢裁判ととてもよく似ていて、推進派(小沢有罪派)は感情的・雰囲気的物言いをし、反対派(小沢無罪派)は具体的な事実や分析に基づいた論議を(すべてとは言わないが)おおむね展開している。ただ、反対派の方が論議の広がりは大きい。あんまり陰謀説とかに立ちたくは無いのだが、対米従属というキーで両者を見れば推進派と有罪派が何で無理押しをしているのか見えてくる気がする。まあ彼らが堂々と対米従属を表面化させればもっと論議は簡単になるのだろうと思うが、いつまでもまともな論議をしてこないからかみ合わぬ話が続き、変なことになるのである。

 さてと、小生の立場は基本的には反対である。第一にどうもメリットが少なくデメリットが多そう、ということだ。特にISDなんか最悪だね。だがそれ以上に、交渉の内容をそれぞれの国民にも知らせず、ほかの国を誘おうというのにいまのところの出来上がりを公開もしない馬鹿な交渉がありましょうか。そこで入って出られないリスクを負うよりは入らないリスクの方がよほどましに見える。非民主的なやり方を押し付けるのはとてもよろしくない話である。ISDはまた国家主権さえ制限するし。実際、ISDを見ると南米を生体解剖した新自由主義を髣髴とさせる。

 さはさりとて、まあ本来交渉参加ぐらいは認めてもいいのである。もしわが国にかのタレーランのごとき政治家・外交官がいれば、或いはそうでなくとも国益の維持・拡大を官僚・政治家が一丸となって志しているのならば。しかし現実はさにあらず。外圧を利用して自らの立場を浮揚させようとする思惑の連中ばかりである(なんだ野田の消費税10%国際公約は!)。そういう連中に任せてはとてもじゃないが日本にとって有利なものにはならないだろう。しっかりした政治力・交渉力を持っていればいいのだが、仲間内で足の引っ張り合いをして不利な制度を飲み込んでしまうんじゃあなかろうか。そういう懸念は大変大きい。お前らに任せてられるか!ってことですね。ぜひ私にやらせてほしい(笑、でもマジで。一応僕は米人に好かれたいと感じたことは一度もない)。
注)外交交渉で英語ほかの言語に流暢な人に顕著な傾向はその国の人に好かれたい、その国の立場から他の日本人を見下して、自分を「差別化」する傾向である。これはとても売国奴的傾向であり、日本の対外交渉を不利にしている。言語への熟達を「日本を代弁するために」使ってもらいたいものだ。

 ところで、ISDがじつは本丸だとすると、TPPは米多国籍企業主権の確立のため、ということであるのだろう。米多国籍企業の主権が強化されれば制限されるのは日本ほか各国の国家主権であり究極的には各国民衆の権利であり意思である。つまりTPPとは米多国籍企業と各国民衆の対立の中で米多国籍企業の肩をもつ条約である。その構図が明確になってゆけば恐らく民衆レベルの反対は(いまもそうだがそれ以上に)盛り上がり、内閣不信任→総選挙→TPP反対議員の多数当選→TPP批准否決、ということになるだろう。その前に現行議員で批准否決が成立するならそれでよかろう。そうしたルートをとらずに批准が進められるようなことがあれば、これは70年安保以来の大衆行動が見られるのではなかろうか。そのトーンは明らかに反米である。多分とても日本にとってよろしくないことになりかねまい。

出来るだけ穏やかにTPPから退くのが国益というものだろう。しっかり考えなよ、偉い人たちは。