御託専科

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藤垣裕子編「科学技術社会論の技法」

2007-02-23 12:50:09 | 書評
ファイアベントの本(「知の正体」だったっけ)を読んでるときに、何かの書評に「科学哲学はポパーやクーンやファイアベントの思いもよらぬ発展をした」とあり、それが科学技術社会論なるジャンルであるということで本を借りた。
借りてみて、「あ、買わなくて良かった」とまず思った。そりゃファイアベントたちの思いもよらぬ分野だよね。明らかに社会論であり政策論だもん。鋭い知性とユーモアといたずら心で人をはぐらかしてやまないファイアベントはこんなまじめなことをするわけがない。
という事でほっとらかしていたが、「歴史をつくるもの」を読み終えたので本がなくちらと見てみるとこれがなかなか面白かった。科学哲学の発展形とかポパーとのつながりとか考えると詰まんなくなるが(この分野の人がそういっているとすれば誤ったプロパガンダである)、注目された事件のまとめと思うととてもまとまりが良い。エイズ、BSE、Winny、地球温暖化、水俣病、もんじゅなどなど。ヘタな特集を読むよりよほどしっかりした情報が得られる。分析の技法やフレームワークもとても参考になる。例えば、
①100%確実なことがいえないが大なり小なり蓋然性が高い問題の原因が存在する。
②被害を抑えるには見切りをして対策を始め、同時に原因の研究を続けなければ成らない。
③究極の原因が違ったときの適正な責任分担の枠組みが必要である。
といった原則はとても有用に見える。

でも、これって科学技術に限ったことではないのではなかろうか。何らかの不確実性が存在する中での社会的意思決定には全て同じような問題が存在するだろうし、技法は同じように役立つとは思う。まさに、政治の手法だね。

と思うのだが、なぜ科学技術社会論なる分野を作って限定しているのかなあ、というのが最大の不思議である。「リスク政策論」というか、問題や危機が起きたときの有効な社会的対応を探る学問として広げても良いように思う。そうすれば論じかたもより歯切れのよい提言型になってくるのではないかなあ。