御託専科

時評、書評、そしてちょっとだけビジネス

阿川弘之「大人の見識」

2008-01-13 23:42:41 | 書評
配偶者がたまたま買ってきていたので、夕方から読み始めて夜読み終わった。
考えて見ると阿川さんの本というのは初めてだ。

「日本人の国民性を一言で言い表すとしたら、なんでしょうか?」
「世界中の人が多分すぐ思い浮かべるのが「勤勉」、「几帳面」、それと並んで「軽躁」も、もうひとつの特徴だと思います。」

とまあ、これをいまの80台の人がいったらなかなか迫力あり、というところから始まった。それで期待したのだが、結局イギリスを少し交えつつ第二次大戦の指導者論で大体話は終り。

阿川さんが中身がない人とは思わぬが、この本はおそらく遠慮し過ぎて中身が希薄である。現在の世相を戦前から高度成長までの社会観から裁く凡百の論議と一線を画して、「日本人は戦争の時もその前も、ともかく昔っから軽躁だった、だから・・・」といった論をしっかりして欲しかったな、とおもう。氏の最後にいっている「温故」のよき例を示していただく上でも。

島田雅彦「自由死刑」

2008-01-13 17:06:17 | 書評
これを原作としたテレビドラマが始まってたまたま第一回を見たら面白かったので買ってみた。アマゾンでは3-5週となっていたので面倒と思っていたら近所の本屋であまり目立つところではないものの平積みになっていた。どうなってんの?

自殺を決めた男が最後の1週を過ごす話。ヤクザ者や変わり者に加えセクシーな女たちが彼の最後の日々を翻弄する。果てはアイドルと逃避行して偽装誘拐にしたてて悪徳プロダクションから3000万円搾り取って赤十字に寄付させたりする。で、見事海へと車ごとダイブしたものの死に切れず、餓死を目指す宙ぶらりんのところで話は終わる。月並みな言い方だが、笑わせて考えさせる小説である。死ぬのもすきにできるわけではないというのはとても面白い。しかしその一方、日常へ戻らぬ覚悟さえあればわずか100万円であれだけのことができるのか、と小説ごとながら感心。とこかまだ体が動くところで試みたいものである。

島田の文章は僕にとってはリズムがまだなじまず、また彼の癖だと思うが思わせぶりな言い方を避けているのでぶっきらぼうな印象がある。で、さらさらというわけには行かなかった。でもいくつか印象的な物言いがあった。

「というより、自分の欲望の捌け口をこれまで見出せずにいたのだ。いざ酒池肉林を始めようとしても、欲望の素養が足りないせいか、二日酔いと徒労感ばかり呼び寄せている。・・・・思わず、神に感謝したくなるような充足感を一度でいいから味わってみたいのだが、果たせずにいる。」

「(子供をなくした夫婦が夫のことを指して)お金の計算をしていれば気が紛れるんでしょうから。」

「それを考えたとたん、外科医は、あの無表情なコンビニの店員たちは、自然の法則に従う、深い叡知を宿した神官のように思えるのだった。」

「哲学的な何か、あと科学とか」 飲茶

2008-01-05 14:38:02 | 書評
不完全性定理、 言語ゲーム、相対論、カオス論、エントロピー、散逸構造論、量子力学、科学哲学、自由意志論(意識論)など、著者の興味は8割方僕のそれと重なっている。理科的哲学論というべき分野であろう。説明は実にわかりやすく、本質的であるように思われた。
こういう本を書きつつ世捨て人になるのが夢だそうだ。僕は残念ながらなれなかったが、是非頑張って立派な世捨て人になって欲しい。