御託専科

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高野和明「ジェノサイド」

2012-01-31 11:32:27 | 書評
「ジェノサイド」は面白かった。日本のデモシカ(これは死語?)大学院生と秘密工作に従事する小部隊の軍人が、アフリカの奥地のジャングルに生まれた新人類を救い、軍人の長男を病から救うために活躍する。テンポのよい展開が続き、最後は一応大円団。新人類の行く末を余韻として残していた。
でも、やっぱり何か引っ掛かりが足りないなあと思い「虐殺機関」を読む。うん、やっぱり伊藤計画はすごいと思う。高野和明さんには悪いが、「虐殺機関」をフルコース料理とすれば「ジェノサイド」はお茶漬けだ。と言って、物語の構成の巧拙にそんな格差があるわけじゃあないと思う。「ジェノサイド」だって、たとえばアフリカでは少年兵を殺さなければならないというきつくリアルな設定がきっちりされている。そうではなくて、おそらく主人公を初めとした心理や屈折のリアルで深い描写が「虐殺機関」をすごく重厚にしている。またそれに関わる思弁の饒舌で厚いこと。「カラマーゾフの兄弟」のなかの「大審問官」を思わせる(いや、それよりも重く厚いかも)。高野和明を読んで伊藤計画の天才を改めて認識した。