御託専科

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吉川洋「デフレーション」、櫨浩一「日本経済が何をやってもダメな本当の理由」

2013-02-03 14:46:20 | 書評
またテンプレートを変えられてしまった。まあそれくらいの被害で済むんだからまあいいとすべきかな。よそのサービスでは近々一部のサービスが停止するそうであって、少々避難活動をした。ああいうのは「クラウド」と持ち上げられていても信頼性の問題として存在するのじゃないかなあ。無料のサービスにそんなに期待してはいけまいが、経済原理のはびこるこのごろ、マイノリティーの権利はなかなか守るのは大変ではある。
昨年11月以降は本来は時間があったのだが、あんまり調子よくないし主張したいこともなかったので何も書かなかった。主張したいことがないわけじゃないのだけど、世の中のブログとかツイッターとか見てると、どんなテーマでも誰かが何かを(しかも過剰に声高に)言っているので、あえて書く気もしないのではある。とはいえ、テンプレートを変えられないぐらいには時々更新しようと思う。

さて、本日のテーマはデフレ。表題で挙げた2冊はデフレは不況の結果であって原因ではない、としている。吉川さんの本は最近、櫨さんのは2009年のものである。で、吉川さんは日本経済がどのくらい悪いのかといえば、設備投資サイクルの下向きと不良債権問題が厳しかった1990年代後半が欧米に比して悪く、2000年代は欧米並み、ということである。これは一人当たりGDPで見た話だから反論はしようがない。そういえば昨年秋の白川日銀総裁の講演記録で、精算年齢あたりGDPの国際比較があったが、ここでは日本はドイツとともにトップクラスで、アメリカは日本の半分程度の伸びに留まる。生産年齢あたりだとなかなか優秀、ということだ。
ということで経済のパフォーマンスはここ10年程度は欧米と変わらない。じゃあなんでデフレになるか、ということだが、その答は、日本は賃金が下がりやすい、ということだ。日本の労働者は雇用減よりも賃金低下を受け入れる。職種別ではなく企業別の組合であるため、他者の犠牲とは仲間の犠牲を意味するわけで、ならば皆で受ける、ということになるようだ。またその一方で労働力の非正規雇用への転換も行われた。終身雇用で年功序列賃金、という体系が音を立てて崩れてゆく中、雇用システムが大きく変貌しその中で賃金も低下していったということであるようだ(ちょっとしどろもどろだが、小生の見方では吉川氏の論旨も「結論」の所ではやや発散している)。
あと、吉川氏がデフレの害悪として指摘しているのが、デフレの中で企業がイノベーションの努力をコストダウンのための「プロセスイノベーション」に専心し、新しい需要を喚起する「プロダクトイノベーション」がおろそかになっている、ということである。これはもっともな話である。
櫨氏の本では、プロダクトイノベーションとは言っていないが、サービスを中心にお互いに提供しあう「花見酒経済」への方向転換を述べている。その際におもしろい指摘であるが、日本のサービスの生産性が一見低く見えるのは「日本ではサービス業の多くが、提供しているサービスに見合う対価を得ていない」からだそうだ。これは櫨氏の挙げるホテルやデパートのサービスで十分良くわかる話である。僕も良くこの話をしていて、確実に届き時間まで指定できる宅急便がたった800円でよいと思うか? と人に投げて見たりする。こういう話で頭が回り始める人は3分の1ぐらいかなあ、残念だけど。
ところで両者とも一般にもてはやされる経済学者がいかにアホであるかを、正しくも指摘している点で共通する。やっぱ合理的期待形成だとかマネタリズムとか変なやつら、と学生時代思ったがそれはそれでよかったんだよね。

そんなわけである。あわせて考えれば、①バブルの後遺症と不良債権を抱えた1990年代後半は確かに日本経済は厳しかった。②しかし2000年代は他国並みに成長している。失われたのは20年ではなく10年である ③デフレは需要不足の結果であり原因ではない ④日本だけ賃金が低下したのは企業別労働組合の仕組みと雇用構造の変化の問題とがあったためである ⑤プロダクトイノベーションによる需要創造、あるいはサービスへの適正な対価支払いが経済にとって重要な浮揚要素となる。てなところかな。あと、巷の経済通にはアホがおおい、ってね。

サービスへの正当な対価とかプロダクトイノベーションはこれからじっくりだけど、実は日本は欧米並みに過去10年「良かった」んだ、気分が沈むのは名目賃金が下がるからだ、ということであれば、ちょいと気分さえ変えれば少しはハッピーになれるかな。アベノミクスは間違っているけど、まあ気分の刺激になればそれもよし、ってところでしょう。