御託専科

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手塚貞治「戦略フレームワークの思考法」

2009-09-10 09:34:07 | 書評
SWOTだのファイブフォースだのボスコンの「花形ー負け犬」分析だの、戦略フレームワークについてはまあ紙芝居の道具であり、こんなツールで分析する人の気が知れない、と言うのが僕の偏見だ。整理が必要、とはいっても、実務を知っている人がこんな単純な構図に満足できるはずはないし、哲学・思想を少しでもかじった人なら、あるいは自然科学でも社会科学でも理論とか分析を多少ともしっかりやった人なら、こんな知的に物足りないもので、しかもアプリオリに定義されてしまう分析の枠組みで、何事かがわかるはずはないしわかった気になるのは危険だ、ということ位はわかるだろうに。
もっともらしい枠組みの中に適当に思いつくことを入れてしまえばそれで分析らしきものが完成する。目になじみがなければおー、となる。だから紙芝居。でも、案外話を詰めていくと難しい点が出てくるしその場にいる人たちだけでは解決できない問題も多く生じることに気がつく。そうこうするうちに枠組みへの疑問が生じてくるが、走り出した組織は正面切ってそれをとめられず、結局過激で合理的だが有害性の高い提案は現場の抵抗で無害化されて実施される。企画部門の面子は保たれ、現場はブーブー言いながらも無害化されたことをまあ喜ぶ。てなかんじだったなあ、前の会社にマッキンゼーが入ったときは。戦略コンサルなんてちょっと頭のいい紙芝居屋で、それに対して実績報酬でもないのに莫大なFeeを出すのもバカだし、それを本気で実行するのはもっとバカだ。

とまあ、戦略コンサルへの不満を吐き出したが、この本を読んでもその考えは変わるものではない。

しかし得るものはあった。まずフレームワークが並列化、時系列化、二次元化の3っつに整理できると言うこと。これはまじめな意味で理解の向上に役立った。フレームワークをメタレベルで見ることが出来たわけだ。ま、これも諸々のフレームワークと一緒で「だから?」感はあるがね。ただ、この三っつのメタフレームに沿って自分なりのフレームワークを考案することは出来るかも。

もう一点。発想の転換をした。結論を先に言うなら、「紙芝居の道具に過ぎない」と切り捨てるのではなく「紙芝居の道具だ」として理解すればよいということ。
フレームワーク一般を「シンキングツールであるだけでなくコミュニケーションツールでもある」とした上で著者は、並列化フレームワークの要件として以下の5点を挙げている。
①有用性がある
②図示が出来る
③語呂合わせができる
④権威付けができる
⑤認知限界の範囲で収まる
まず驚いたのは、「え?①と、若干⑤以外はシンキングとはほとんど関係がないじゃん」ということ。若い時代なら自分の読む本ではないと考えてここで放り出していたかな。でも解釈しなおしてみると、②、③、④の、「図示できて、語呂が良くて権威付けできる」ということが如何に重要かということは別の視点を与える。この3要件は紙芝居の要件とほぼ同じである。そういうことだ!

そうか、と。そういうことなら、思考・問題分析のツールと言うよりも紙芝居、つまり戦略コンサルのマーケティング・デリバリー用のコミュニケーションツールと割り切ろう。したがって、クライアントの性質や予算や保ちたい関係、つまり営業目的に応じてフレームワークを選ぶべきである。フレームワークからまじめに分析して行動あるいは行動推奨をするなどという愚直なことをしてはいけない。

なるほどね。こういうことは毛嫌いするんじゃなくて、もっと早く気づき悟っておいたほうが良かったね。幼い自分であったことを痛く反省するw