御託専科

時評、書評、そしてちょっとだけビジネス

村上春樹「海辺のカフカ」

2009-09-06 22:36:55 | 書評
もう少し読み込んでからと思っていたのだが段々執着が薄れてゆくので感じを忘れぬうちに書いておく。
最近、隠喩に溢れる「世界の終り・・・」を舐めるように繰り返し読んでいた。しかし「限界生産性」が落ちてきて、そろそろ抜け出したいと思ったこともあって、「世界の終り・・」の続編とされる「カフカ」を買いなおし、読み直した次第。
「世界の終り・・」を読みすぎたせいか、「カフカ」は相対的に筋がすっきりし過ぎている感じがした。また、繰り返しの読み込みに足るほど隅々に気の効いた言い回しや警句があるとも思われず。これほんとに「世界の終り・・」の姉妹編なんだよなあ・・てなことを思いながらささっと読んでしまった。
いや、面白いことは面白いし、「すっきり」とはいったが奇妙にわからぬまま取り残される部分も多くある。だが、今ひとつそれらが探究心を誘わない。たとえばホシノさんが戦う白い蛇の様な生き物、兵隊二人に案内されたあの世らしきところ、カーネルサンダースとその配下の娼婦、戦前の、子供たちが次々気絶した時の直前に現れた光る物体、引率の女教師が見た極めて性的な夢などなど、面白いというか奇妙な仕掛けは数あるんだが、それほど意識に引っかかり続けない。「世界の終り・・」の、影だとか一角獣だとかのような多義性を含んだ象徴的要素とも思われず。案外簡単にストーリーの都合上のもの、あるいは彩りをそえるものとして受け止めてしまった。

「世界の終り・・」とか「神の子供・・」よりは落ちているのではないだろうか? まあタイプがそれまでと違う、といってうやむやにする人が多いけどね。今のところは「世界の終り・・」こだわりで決まりだね。ああ、また抜け出せないことになってしまったw。