御託専科

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「広島に原爆を落とす日」つかこうへい

2010-07-25 21:53:50 | 書評
私事多忙でしばらくご無沙汰した。とはいえ読書はしているのでこのあと順々と。

つかこうへいの追悼公演が表題作、しかも8月6日から始まるということで興味を持った。でも芝居は筧利夫とかリア・ディソンとか名の売れた人も出るということなんでおそらく無理、とりあえず本でもということで読んだしだい。ところで、週刊新潮によればリアディソンの演技はすごいらしい。

さて小説。これは愛国と愛の物語。犬子恨一郎は海軍少佐。世が世なら朝鮮の王族の王子。母とともに広島の比治山に居を構える。恨一郎には幼いころ将来を誓った髪百合子と言う女性がいる。髪一族は卑しき泣き女の一族であり、裏では諜報・暗殺に携わる一族。
展開はいかにも舞台らしいダイナミックさと言うか荒唐無稽さを含みつつぐいぐいと進んでゆく。ここでさらっと言うと不条理極まりないが、その大きな愛ゆえに恨一郎は百合子の上に、そして広島市民の上に原爆を落とす。些か不謹慎との声も出ようが、確かに国の一つや二つ滅びても悔いのない、偉大なる愛の物語である。また、アメリカ側のええ加減さ(ルーズベルトのいい加減さ、逃げるトルーマン、発狂する爆撃機搭乗員たち)もちゃんと入れられているので、広島がいい加減に扱われたと言う印象は残らない。

細かいことを言うといろいろあるんですよね、でも。
後半、特に終わりに向けては案外とどたばたしてきて、なんだかよくわかんないけどテンポで押しているようなところがある。それから、比治山の「海の見える側」は焼け残っているはずだなあ。これは計算に入っているんだろうか?あと、大和は呉の工廠で作っていたのであり、広島ではない。 

まあそうはいえ、戯曲的には立派。今度舞台で見たいものだ。