まくとぅーぷ

作ったお菓子のこと、読んだ本のこと、寄り道したカフェのこと。

蕎麦屋の話。

2015-09-09 07:24:30 | 日記
カウンター7席の
こじんまりした店

仕切る大将は
料理人というより
僧侶のような風貌

ストイックに
真摯に
休みなく

そんな姿を見ると
じぶんのふだんを
ちょっと反省するような

蕎麦の美味しいのはもちろん
大将の姿を見たくて
ちょくちょく通ってた

数年後
二号店、三号店を出し
かけずりまわる姿を
町なかで目撃し

そしてとうとう
マンション一階の
広々したフロアに移転

オープン四日目
ど平日の夜10時
ほぼ満席

カウンターはいっぱいなので
離れたテーブル席に

新しくなったメニュー
単品料理が増え
セットの御膳もある
以前からのメニューは
単価あがってる
あたりまえだが

ホールのスタッフは三人
以前の店でみかけた顔も
はじめて見る顔もいる

御膳を頼む
しばし待つ
ぴかぴかの店内を見渡す
一番目立つところに
蕎麦を挽く大きな機械
誇らしげに

やがて運ばれてきたのが
四角い大皿に
美しく盛られた
数種類の料理と
こぶりの椀の蕎麦

作りおかれた料理は
まずくはないけど
はっとするおいしさでもない
蕎麦は相変わらず美味しいが
椀にぎゅうぎゅうで食べにくい

急激にテンションが下がる

のれんをくぐれば
大将が威勢よく迎えてくれて
私のために整えてくれる
所作を眺めながら
わくわく待ってたあの感覚が
おいしさに大きな効果を
もたらしてたことに気づく

向こうのテーブルには
焼酎ボトルとともに
盛り上がるサラリーマンたち

隣のテーブルの女子二人組は
スマホでもうひとり参加させての
三人トーク

そういうことなんだな

会計してると
奥から大将が出てきた
大真面目に、ありがとうございますと
頭をさげる姿は
いつものとおりで

「今まではきゅうくつな思いを
させてしまって申し訳ありませんでした。
これならゆっくりくつろいでいただけると思いますので
またどうぞお寄りください。」

扉を出て外まで見送ってくれた

馴染んだ居心地の良さを
失って寂しがるのは
客の我が儘で

ここにも馴染めばまた
新しい心地良さを
得られるかもしれない

なにより
大将の蕎麦をたくさんのひとが
楽しめるようになったのは
本当に素晴らしいことだし

着実に前進してゆく姿を
この先も見ていたいから

また伺います、といって
夜の雨のなかに出ていった








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