現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

長谷川潮「安藤美紀夫「でんでんむしの競馬」講談社文庫解説」

2019-08-24 08:53:31 | 参考文献
 児童文学者の安藤美紀夫の代表作(1972年に刊行されて翌年の児童文学関連の賞を総なめにしました)である「でんでんむしの競馬」について解説しています。
 型通りに安藤の紹介や作品の時代背景について述べた後で、以下のような指摘をしています。
・作品の舞台になっている京都の路地裏の閉塞状況は、当時(戦時下)の日本全体の閉塞感を表している。
・三人称で書かれている視点はカメラ・アイのようで、対象を至近距離から克明に描くとともに、短編連作をひとつにまとめ上げている。
・象徴的な表現を多用することによって、「個」を描きながら普遍性を獲得している。
 以上の指摘は、おおむねこの作品の特長を捉えていますが、なぜこの作品がここまで当時高く評価されたかについては、以下のような要因があったように思えます。
 第一は、この本が出版された1972年は、70年安保の敗北、革新勢力の分裂、さらに階級闘争への疑いなどが生じていた時期であり、そうした時代の閉塞感が、この作品が描いた戦時下の閉塞感と二重写しになって、大人も含めた読者たちの共感を生んだものと思われます。
 また、上記のような背景もあって、1960年代のような社会主義リアリズムを前面に出したような作品の評価がやや影をひそめて、この作品のような象徴性の高いファンタジー作品が評価されたのではないでしょうか。

でんでんむしの競馬 (少年少女創作文学)
クリエーター情報なし
偕成社

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