現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

尾崎英子「小さいおじさん」

2017-09-08 10:29:46 | 参考文献
 中二の時にクラスメートだった三人の女性が、クラス会をきっかけに再開した後の物語です。
 14歳だった中二のちょうど二倍の年齢である28歳の三人の女性の現在の姿が、それぞれの視点で章に分けて描かれています。
 美人で成績も一番いいが男にはずっと無関心だった女性は、建築関連の会社のキャリアウーマンになっていますが、同性愛をカミングアウトした兄とちょうどそれと同期して一人で酒を飲みに行って酔いつぶれるようになった母親への対応に悩んでいます。
 愛嬌があって男の子に人気があった女性は、職場の先輩と不倫をして会社を辞めざるを得なくなり、その相手が不慮の事故で亡くなったこともあって、実家でニートをしています。
 書いていて改めて気づきましたが、二人ともかなり強引な設定ですね。
 最後の中二のころは地味で成績も悪かった女性は、結婚して子どももできパートで働いていますが、友だちができないことが悩みです。
 対照的になるように狙っているのでしょうが、これはまた極端に地味な設定です。
 そして、これらの三人を結びつける存在が、地元の神社にいるという「小さいおじさん」という小人(妖精)です。
 それぞれの女性の描写はかなりうまく、職場や家庭の描き方もエンターテインメントとしてはリアリティがあります。
 また、スピリチュアルな題材は若い女性は大好きなので、対象としている読者にも受け入れやすいと思います。
 しかし、三人の人生の有機的な結びつきが弱いので、それぞれの視点で書かれた各章がバラバラな印象で、ひとつの小説としての完成度はあまり高くありません。
 また、三人の女性像も類型(中二のころは、優等生と人気者と地味でグループにも入れないその他大勢組、現在はキャリアウーマンと元不倫女性とパート主婦)を脱し切れていないので物足りません。
 そして、一番地味だった女性が平凡ながら幸せそうな現在を勝ち得ているように描く作者の姿勢も、読者(大半が中学時代はこの女性のような存在だったでしょう)に媚びているようで好感が持てませんでした。
 児童文学でも、複数の登場人物の視点で書かれた作品はありますが、よほど全体の構成を工夫しないと成功しないことが多いようです。

小さいおじさん
クリエーター情報なし
文藝春秋

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