2009年2月に発行された「うつ病論 双極Ⅱ型とその周辺」のはしがきです。
現在のうつ病が「双極Ⅱ型」(軽躁とうつを反復する気分障害)が主流になっていることと、「この障害の発症が単なる自己責任ではなく、組織や共同体と個の生き方の間で発生する、公害である」ことを明記しています。
そして、1992年のバブル崩壊や2008年のリーマンショックなどによる新自由主義経済の崩壊との関係についても触れています。
児童文学者として特に興味を引いたのは、宮沢賢治の「もうはたらくな」という詩の以下のような一節を引いていることです。
「もう働くな、レーキを投げろ」、「働くことの卑怯なときが、工場ばかりにあるのではない」
そうです。
「双極Ⅱ型」を初めとする「うつ病」は、個人やその家庭といった狭い領域に責任があるのではなく、それらと組織(学校や会社など)や共同社会(国や地方自治体)との関係性において発生するのです。
別の記事(内海 健「うつ病新時代 双極Ⅱ型障害という病」)でも書きましたが、今の子どもたちや若い世代を取り巻くいろいろな問題(いじめ、セクハラやパワハラなどのハラスメント、ネグレクト、虐待、ひきこもり、登校拒否、拒食、過食、自傷、自殺、薬物依存、犯罪など)も、この障害と同様に、自己責任(被害者および加害者)が問われることが多いのですが、実際は社会全体の問題として捉えなければなりません。
そして、賢治が80年以上も前に書いたように、児童文学者は本来そういった視点を持っていたはずです。
しかし、最近では、個人の自己責任ばかりに言及して、売れさえすれば体制や社会におもねった作品でも評価されているのを見ると、児童文学の世界も明らかに「逆コース」を歩んでいるようで、おおいな危機感を持っています。
うつ病論―双極2型障害とその周辺 (メンタルヘルス・ライブラリー) | |
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