うつ病の背景となる社会の変化とそれに伴ううつ病の変化について概観し、最後に参考文献をリストアップしています。
著者の社会認識の古さや、歴史認識のずれ、そして現代の社会に対する認識の欠如に驚かされます。
著者は1946年生まれなので、2009年の出版当時はまだ62、3歳だったわけで、そんなに老け込む年ではなかったはずなので、勉強不足としか言いようがありません。
まず、現代を高度消費社会と捉えているのが古すぎます。
同じ精神科医の大平健が「豊かさの精神病理」を出版したのは1990年で、筆者がここに書いていようなことは大平が描写した1980年代のバブル時期の感覚です。
また、能力主義の労務管理システムが、あたかも1980年代にはとりいれられたように書かれていますが、実際に日本に導入されたのはバブル崩壊後の1990年代です。
私は外資系のグローバル企業に勤めていたので、一般の日本企業よりはかなり早かったのですが、それでも1990年に入ってから導入が始まり、完全能力型のグローバル化(それでもローカルルールで若干の年功序列が残っていました)が完了したのは2000年代に入ってからでした。
この本は現在問題になっている双極Ⅱ型障害を中心に書かれているはずなのですが、この「あとがき」の文章で書かれているうつ病と社会現象とのかかわりは旧来のメランコリー単極うつ病が中心になっていて、双極Ⅱ型障害の時代背景になっているバブル崩壊やこの本が出る直前のリーマンショックなどについてほとんど考慮されていません。
「あとがき」に限らず、この本を通して読んで感じたのは、タイトルには今注目されている双極Ⅱ型障害を掲げているものの、個々の論文は必ずしもそれに関連しているものばかりではなく、かなり古い「うつ病」観を持った著者(特に年配の人たち)も多いようです。
特に、「はしがき」で掲げられた、双極Ⅱ型障害は社会のひずみによる「公害」だという認識が、著者の間で共有されていなかったのには、「羊頭を掲げて狗肉を売る」ようで、がっかりさせられました。
うつ病論―双極2型障害とその周辺 (メンタルヘルス・ライブラリー) | |
クリエーター情報なし | |
批評社 |