格差社会や世代格差に苦しめられているはずの若者たちが、実はかつてないほど幸福であるという著者の主張を、多方面から解析した本です。
タイトルは非常にキャッチーなのですが、そこには巧妙なトリックがあります。
まず「絶望の国」という惹句に関しては、この本では全く定義されていませんし、それに対する著者の批判もありません。
次に「幸福な若者たち」というのは、たんに二十代の若者の生活満足度が高い(70.5%が満足)というだけで、それが幸福であるのかどうかの解析は行われていません。
著者は今の若者が幸福な証拠として、ファストファッションやファストフードやスマホやゲーム機やコンビニがあることをあげていますが、そんなものはたんに時代の変遷を言っているだけで幸福とはなんの関係もありません。
また、前の世代の若者との比較をしていますが、それも非常にステレオタイプ的な捉え方で説得力がありません。
全体に漂うのは、著者の一般的な「若者たち」に対する優越感や差別意識です。
これは、著者の他の本と共通しているのですが、「若者論」を語りながら、実は執筆当時は著者自身も二十代の若者であったにもかかわらず、そこに彼自身の姿がなく他人事なのです。
東京大学の大学院に在籍中で、慶応大学の研究員でもあり、ベンチャー企業の役員でもある著者(どうやらルックスにも自信があるらしく、著書には必ず自分の写真がついています)は、自分が格差社会の勝ち組であることを十分に意識しているのでしょう。
ですから、「若者」に二級市民(安くてクビにし易い中国の農民工のような存在)でも身近な世界に幸福を感じられるはずだと、簡単に切り捨てられるのです(もちろん著者自身は一級市民なわけです)。
それにしても、タイトルといい、巻末の俳優の佐藤健との対談といい、著者は本を売るコツをよくつかんでいるようです(編集者のアイデアかもしれませんが)。
さまざまな本やデータからたくさんの引用がされていて、著者が勉強家なことはよく分かりましたが、それぞれは著者にとって都合のいいつまみ食いにすぎず、それによって組み立てられたはずの著者自身の論は、冒頭の「はじめに」で述べたことからあまり深まっていません。
また、フィールドワークと称して、生な「若者たち」のことばが紹介されていますが、取り上げ方が恣意的で説得力がありません。
総じて内容は現状肯定的で反動的なのですが、それとバランスを取るように保守系の研究者や評論家を揶揄する文章をちりばめていて、どこからも文句が来ないように配慮しているのが、何とも優等生的な小心さを感じさせて苦笑を禁じ得ません。
絶望の国の幸福な若者たち | |
クリエーター情報なし | |
講談社 |