現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

江戸川乱歩「二銭銅貨」

2019-04-13 09:04:33 | 参考文献
 1923年4月に発表された短編推理小説です。
 五万円(今の貨幣価値ならば、5億円?)強盗と暗号を組み合わせた本格推理物です。
 知的な二人の青年の主人公や暗号などにポーやドイルなどの海外の推理小説の影響が感じられますが、暗号と点字の組み合わせや青年たちが生活に困窮しているあたりに、作者の新しいアイデアや当時の東京の世相が読み取れて興味深いです。
 暗号の推理や五万円の横取りの過程はかなりご都合主義なのですが、最後のどんでん返しでアッと言わせます。
 個人的に興味深いのは、この話が二人の青年の知恵比べだという点です。
 かつて教養主義が健在だったころ(1970年ごろまで)は、「頭がいい」「教養がある」「知識が豊富」などは、日本でも人々の共通の憧れでした(学校の先生たちも敬われていました)。
 高度経済成長時代になって、みんながそこそこ豊かに暮らせるようになると文化の大衆化が進み、読書を中心とした知的な事よりも、テレビを中心に手っ取り早く大衆に受ける方が重要視されるようになりました。
 現在では、知的だったり教養があったりする人は敬遠されて(わかりやすい例で言うと、ポスドクたち(特に理系の基礎研究分野や文系)の悲惨な状況)、みんなに受ける人(わかりやすい例で言うと、お笑い芸人)の方が人気があり、経済的にも恵まれています。
 
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辻原登「夏の帽子」父、断章所収

2019-04-13 08:08:31 | 参考文献
 谷崎賞をとった作家(作者自身よりも10歳ぐらい若く設定されている)が、デビュー前に神戸で付き合っていた女性を裏切って、上京後に知り合った女性と結婚します。
 二十年以上たってから妻と一緒に神戸を訪れた男が、過去を感傷的に振り返ります。
 谷崎潤一郎や佐藤春夫の挿話をそれと重ねて作者流にひねってありますが、全体は気取った凡庸な短編です。
 2012年に「文藝」に発表された作品ですが、作者もとうとう老いてしまったのではないかと、少し心配になりました。
 児童文学の世界でもかつては優れた作品を書いていた作家が、あるときからガクッと作品の質が落ちる時があります。
 それでもネームバリューで商品になってしまうのが、この世界の良くない所です。

父、断章
クリエーター情報なし
新潮社
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