現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

辻原登「たそがれ」Yの木所収

2018-04-08 08:19:13 | 参考文献
 中学生の男の子と、年の離れた姉とのふれあいを描いた作品です。
 男の子は優秀な長距離ランナーですが、家庭の経済的状況のために、夢であった駅伝の強豪校への進学をあきらめ、就職して駅伝部のない夜間高校に進むことを決心しています。
 姉は苦界に身を沈めて、一家を経済的に支えています。
 これらは、事故で左腕を失って自暴自棄になった父親による家庭崩壊のためです。
 昔の話ではありません。
 なぜなら、二人が久しぶりに一緒に出掛けた場所はUSJだからです。
 辻原ならではの鉄道や南紀やUSJの詳しい描写や、二人の人柄をさりげなく描くエピソードの積み重ねにより、この苦境が決して彼ら自身のせいではないことを鮮やかに浮かび上がらせています。
 不当な格差社会、貧困の拡大と連鎖、風俗産業しか若い女性のセーフティネットがない政治や行政の貧困といった、現代の日本社会の問題を静かに告発しています。
 
Yの木
クリエーター情報なし
文藝春秋
コメント
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