現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

ドリーム ホーム 99%を操る男たち

2017-02-09 17:51:06 | 映画
 リーマン・ショックのころの、サブプライム・ローンの破たんで家を失う人々と、家の明け渡しに群がる不動産屋(追い出し屋)の姿を描いています。
 裁判所の判断により家を失った主人公は、ひょんなことから自分を追い出した不動産屋の男に雇われ、今度は追い出す側に回って大金を稼ぎます。
 家を追い出される人々、冷徹な裁判所、追い出し屋の巧妙な手口などを、ドキュメンタリータッチで描いていて面白かったのですが、主人公が良心の呵責に耐えかねてすべてを投げ出してしまうラストは、あまりにも安易でがっかりです。
 リーマン・ショックでは、日本でも非正規労働者の雇い止めや就職活動の新氷河期など様々な負の影響があったのですが、それらに直接的あるいは間接的に関わらざるを得なかった子どもたちや若者たちの姿を描いた児童文学作品は、寡聞にして存じません。

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ウルズラ・ヴェルフェル「白人専用」灰色の畑と緑の畑所収

2017-02-09 11:58:44 | 作品論
 田舎の村から都会へ出てきた小さな男の子(まだ字が読めない)が、あちこちにある「白人専用」の入り口やレストランや建物などで人種差別を受ける姿を描いた作品です。
 この短編集にしては珍しく、皮肉なラストが用意されていて、少し溜飲が下がります。
 舞台は南アフリカとなっていますから、この作品が書かれたときにはまだアパルトヘイトが行われていました。
 もっとも、50年前のアメリカ南部でも同様でしたし、戦前の中国などでの白人居留地でも同じことが行われていました。
 これらの差別する側の人間は、白人たちだけでしょうか?
 いいえ、違います。
 戦前の中国や戦後の南アフリカで、日本人は「名誉白人」扱いで差別する側に回っていました。
 このことは、日本人としてはっきり記憶しておくべきことでしょう。
 また、これらはすべて過去の事でしょうか?
 いえ、世界中で、少数民族に対する人種差別は、いぜんとして行われています。
 人種の違いによる虐殺さえ行われています
 そして、日本でも、アイヌなどの少数民族や在日の中国人や朝鮮人に対する差別意識は、今でも根強く残っています。
 
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児童文学におけるスポーツ物の書き方

2017-02-09 11:56:37 | 考察
 児童文学のスポーツ物において、その専門知識をどのくらい盛り込むかは難しい問題です。
 まったく基本知識なしに書くのもひどいですが、かといって調べた知識をすべて盛り込もうとすると、頭でっかちになって肝心のストーリーの方が後回しになってしまう危険性があります。
 エンターメントなのか純文学的作品なのかによっても、書き方は違ってきます。
 後者の例としては、皿海達哉は「リレー選手木村利一」(その記事を参照してください)において、徹底的な心理描写でリレー選手の姿を小説的に描いています。
 逆に、エンターテインメントで書くならば、主人公を初めとした登場人物のキャラクターをたたせなければなりません。
 また、スポーツの種目によって、選手の運動能力や練習方法、試合にのぞむ気もちなどが大きく異なります。
 例えば、スポーツの基本であるランニングにしても、短距離走と長距離走では、トレーニング法においても、選手のメンタリティにおいても、大きな違いがあります。
 たしかに小学生のころは短距離でも、長距離でもOKの万能選手がいるのは事実ですが、中学生になるとそれぞれの専門性に着目して書かなければなりません。
 また、主人公をスター選手にするか、逆に極端な例では補欠選手にするかによって、作品の雰囲気は相当変わってくるでしょう。
 エンターテインメントの場合、スター選手を主人公にした方が、ドラマチックな物語が書きやすいかもしれません。
 補欠を主人公にした場合には、競技を続けていく葛藤など、より内面的なドラマを書きやすいので、純文学的な作品にむいているでしょう。
 最近は、少年スポーツに対する社会の目が厳しくなっているので、過剰な練習、怪我や故障への対応、指導者によるハラスメントなどの問題にも、十分に注意を払う必要があります。

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