上高地から横尾を通って槍ヶ岳に登るルートは、「槍沢コース」と呼ばれている。沢筋を詰めて行くので、6月いっぱいは残雪がある。
この時期、お客さんからの問い合わせは、もっぱら雪に関することである。そのほとんどは雪山をまともに歩いたことのない登山者からであり、多少なりとも雪山をかじった人は、電話をしてこない。だから珍妙なやり取りが雲表の世界と下界との間で繰り広げられる。
「雪は多いですか」というの . . . 本文を読む
私が働いていた山小屋は、他の山小屋に較べても休み時間が多いようだ。朝食が終われば休憩時間。8時半から客室掃除や皿洗いなどを行って10時にはもうお茶の時間。オフシーズンならばたっぷり1時間はお茶をする。それで11時から12時まで仕事して、すぐに昼飯。で、2時まで休憩。で、3時まで働くともうお茶の声がかかり、やはり1時間ぐらいお茶をする。で4時から夕食の準備になり、オフシーズンならば客食と同時に自分た . . . 本文を読む
1998年の夏、上高地周辺で1ヶ月以上地震が続いた。
最初の頃はたいしたことがなかったものの、次第に地震の揺れがひどくなり、焦りを覚え始めた。やがてマスコミでも取り上げられるようになり、震源が上高地からゆっくりと北上していることを知った。
地震が起こる直前には必ず「ゴーッ」という地鳴りがあり、ベッドで寝ているとよく聞こえた。その音が聞こえると「来るぞ!来るぞ!」と落ち着かない気分になる。だが、 . . . 本文を読む
山小屋で消費する物資の荷揚げは、ほとんどヘリコプターに依存している。北アルプス南部の山小屋の物資消費量はハンパではないので、荷揚げも大量である。
ヘリコプターの荷揚げは、気象条件にかなり左右される。雨が降って視界が悪ければもちろん飛行不能で、天気が良くても風速10m以上ともなれば厳しくなる。「それぐらいの風の強さで飛べないの?」と思うかもしれないが、ヘリコプターは大量の荷物をモッコ(ネットみた . . . 本文を読む
北アルプスの稜線、しかも森林限界を越えた領域では水の流れる川はない。小屋の水は天水、つまり雨水か、下からのポンプアップでまかなっている。
槍岳山荘の場合、春先は大量に雪があるので、これを利用できる。入山直後だと小屋はほとんど雪に覆われている状態なので、この雪を鍋で溶かして水にする。やがて雪が溶け始めると、乾いた屋根に雪を放り投げ、そこから溶けてくる水をパイプで集めて利用する。雪がさらに少なくなる . . . 本文を読む