豊後ピートのブログ

元北アルプス槍ヶ岳の小屋番&白馬岳周辺の夏山パトロールを13シーズン。今はただのおっさん

5年登っていても登山道からの逸脱は気づきにくいのかもしれない

2023年12月24日 | 山岳遭難
今年の9月ですが、不帰ノ儉付近を通過中の登山者が助けを求める声を聞いたということで警察に通報したけれど、複雑な地形によって声が反響してしまい、遭難者本人の位置を確認するまで何日もかかってしまったという遭難があったのを覚えている人は多いかと思います。

不帰ノ儉付近で道迷い遭難に陥った登山者が8日ぶりに救出される
豊後ピートのブログ

この件については山岳雑誌の編集をしている方が実際に現地を見に行ったときの様子をブログに書かれています。是非ご一読を…

北アルプス不帰の道迷い事故を現場検証してみる
森山編集所


で、ヤマケイの最新号、2024年1月号にですが、羽根田治氏による取材記事が出ていました。早速購入して読んでみたので、簡単にまとめてみたいと思います。

◆登山歴は5年ほど
遭難者の年齢は49歳。2018年頃から登山を始め、2022年には南アルプスを登り、今年2023年に初めて北アルプスを登ったとのこと。年に十数回程度コンスタントに登っているようです。

◆道迷いに気づいたきっかけ
天狗の大下りの上部から登山道を外れています。彼はそのまま不安定なガレ場の斜面を下降し続けていたのですが、ふと顔を上げた時に不帰キレットや不帰ノ儉が目に入ったことで間違いに気づきました。
読図ができたから間違いに気づいたのかな?と、事故の当初は思ったのですが、ヤマケイの記事によりますと登山計画を立てている時に見た不帰周辺の画像を覚えていたからのようです。

◆なぜ登山道からの逸脱に気づくことができなかったのか?
遭難した方は記事の最後の方で、事故後に改めて思うこととして2点挙げています。そのひとつは、登山道から外れていく時に「おかしい」と感じることができなかったこと。
画像で見た不帰の地形をたまたま目にしたことで間違いに気づいたわけですが、その時点で登山道から外れて3時間ほど経過しています。
先ほど書きましたが、彼は5年ほどコンスタントに登っています。少なくとも、まったくの初心者ではないでしょう。それでも登山道から逸脱しても何も感じず、そのまま不安定な斜面を下り続けているのです。
登山道の識別は山を歩き続けているうちに自然と身につく場合もあるでしょうが、そうでないことも多々あるのだと思います。やはり意識して身につけるべきなのでしょう。

◆なぜ地図を見なかったのか?
遭難した方が挙げたもうひとつの反省点は、なぜもっと早い段階で地図を見なかったのか?ということです。
彼はスマホに登山地図を入れていたと記事に出ていますので、恐らく登山用地図アプリを利用していたのだと思います。しかし、それを見たのは道迷いを認識してからでした。つまり正しいルートから外れて3時間も経過してからということになります。
「もっと早く地図を見ていれば、こんなことにならなかったに違いない」と彼が思うのは無理ないでしょう。
ただ地図を見たのが3時間後でも5分後でも、危険箇所に入り込んでから見ているようでは手遅れです。
地図アプリで自分の現在地をたまに確認しながら歩くというのは、登山道から逸脱していない状態であればいいでしょう。しかし逸脱後に現在地を知った場合には、時にはリスクを負った状態で登山道に復帰することになるのです。
道迷い遭難では不安定な斜面等に追い込まれて転落や滑落事故を起こしてしまう登山者が、とても多いことを思い出してください。

地図アプリ等で現在地を見るだけ、というナビゲーションは危険です。ちゃんとやるべきことをやった上で、確認のために使うのが地図アプリだと思いますよ。

ツイッターやっています
↓キンドルから本を出しました↓

ガチで考える山岳遭難の防止

登山・キャンプ ブログランキングへ