豊後ピートのブログ

元北アルプス槍ヶ岳の小屋番&白馬岳周辺の夏山パトロールを13シーズン。今はただのおっさん

悪天候に対するイメージが漠然としてるから死人が出まくる

2024年07月15日 | 遭難と救助について考える
死亡原因が低体温症であるとはっきり報道されている記事が少ないのですが、亡くなった4人の登山者は恐らくソレなのでしょうね。

富士山静岡県側で死者4人目 開山4日、救助要請相次ぐ異常事態
静岡新聞(Yahooニュース)  7/14(日) 22:04

富士山 静岡県側 登山者3人死亡 専門家“悪天候想定し用意を”
NHK  2024年7月11日 19時57分


ツィッター上では悪天候下で登る登山者の動画が投稿されており、それを見た人が「きっと初心者なのだろう」みたいなコメントをしています。
ただアレを見て初心者だから遭難するのだと決めつけるのは早計ではないのかと感じます。思い出して下さい。2009年のトムラウシ遭難では、経験あるはずの山岳ガイドが引率したツアーで大量の死人が出ているのですよ。

で、悪天候にも関わらず突っ込んでしまう登山者が出てくるのはなぜかと言いますと、動けるからなんです。

風速15mともなれば、真っ正面からぶつかった場合、進むのには相当な抵抗があるはずです。20mとなれば不可能でしょう。問題なのは風が横からだったり、あるいは追い風だと煽られながらでも進めてしまうことです。

トムラウシ遭難の時は風速20~25mの風が吹いていたと言われます。が、恐らく稜線に出てからは追い風方向になったいたことでしょう。登山道から転がり落ちるメンバーが続出したようですが、それでも進んでいます。

ギリギリで行動できるけど、それが長時間続いたらどうなるのか。悪天候へ突っ込む人は、そこをイメージできてないのだと思います。トムラウシの時は行動開始後4~5時間程度で低体温症による影響で歩行が困難になっていますが、風速20mぐらいだと、そのぐらいの時間で動けなくなる可能性があるということです。

私が小屋番時代、風速15m前後の強風に十数時間打たれ続けたパーティを収容したことがあります。ガイドが同行しているパーティです。ドクターの診断では、メンバーの多くが軽度の低体温症になっていました。ガイドがいるのですから、メンバー全員がちゃんとした装備をしていました。それでも強風に叩かれ続けているうちに衣服はびしょびしょになり、強風下では着替えもままならいでしょうから、そのまま行動するしかなかったのでしょう。

動けるけれど、そのまま行動を続けたらどうなるのか?考えてみて下さい。例えば風速15mだけど、なんとか進んでいたとします。でもメンバーのひとりが転倒して足首を痛めてしまって動けなくなったら、どうなるのか?そのまま吹きさらしの中で、救助を待つことになります。ヘリなんて来ないですよ。


著書でも書きましたが、風速15m近くになったら森林限界を超えた地点での行動は慎むべきです。歩くことが可能であっても、トラブルが一発あれば窮地に追い込まれます。山小屋から下山するなど、すぐに安全地帯へ逃げ込めるのでなければ、停滞すべきです。また夏山において風速20m近い状況での行動なんて、バカ過ぎるレベルです。


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