鎌田東二氏の「神と仏の出会う国」から、役行者について書かれたところをご紹介します。
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(引用ここから)
このヤタガラス伝承には、人間が鳥に変身して旅をするという〝鳥シャーマニズム”の名残や、鳥を祖先にもつ〝鳥トーテミズム”の名残りがあるのではないかとも考えられる。
ヤタガラスは、那智大社の正月儀礼の「迎水秘事」や7月14日に行われる「火祭り」でも重要な役割を果たしている。
「迎水秘事」は新年の新たな魂「あらたま」を迎え、生命を新に更新する祭りであるが、その神事の中心は、ヤタガラスの仮面(帽子とも言える)を被った神職が、元旦の寅の刻に、地下から湧く神聖な水を汲む神事である。
また「火祭り」では、ご神体である那智の大滝の前で、ヤタガラスの仮面を被った宮司が、「扇神輿」に取り付けられた太陽をかたどる鏡に、新しい魂を入れるための打つ所作をくりかえす「扇褒め」を行う。
いずれの神事においても、ヤタガラスが水にも火にも魂を吹き込み、命をして命たらしめる創造者の役割を果たしているのである。
ところでヤタガラスは、「古語拾遺」には、「加茂県主人(かものあがたのぬし)の遠祖先八咫烏は、いでましを導き奉りて、瑞をうだの径に顕しき」と記されている。
その導きの烏は、加茂(賀茂とも鴨とも記す)の県主の遠祖とされる。
「加茂」は古くは「鴨」の字をあて、神の意味を表わす「かみ・かむ・かも」は同語源と考えられる。
役行者はこのようなヤタガラス的な神話伝承を、仏教や道教の修行によって再編成した人物ではないだろうか?
役行者は、日本列島に古くから住んできた山の民や国つ神の末裔なのだろう。
その古代からのアニミズム的・シャーマニズム的・トーテミズム的な宗教文化を基盤にしながら、新たに導入された道教や仏教、とりわけ密教的仏教をとりこみ、また修行し、蔵王権現や弁才天を感得し、それを山上が岳や弥山に奉安したのであろうか?
こうして日本の伝統的な神観と、仏教的な仏菩薩、および天部の神の表象が融合を遂げて、独自の造形表現となったのが、大峰修験道の本拠地、吉野の蔵王堂の本尊の「蔵王権現」である。
「蔵王権現」は役行者が大峰山の山上が岳で修行していたところに示現し、修験道の本尊として祀られることになったとされる神である。
その神の像は右足を挙げ、今にも空を飛んで天空を駆け巡り、また地上に飛来し下降していきそうなダイナミックな躍動感に満ちている。
この「蔵王権現」の片足を上げた姿は、日本の神の姿と仏像的造形との絶妙な融合を示す好例である。
しかし「蔵王権現」は仏典には記載されておらず、日本独自の神として顕現し、造形されたと考えられる。
「役行者絵巻」には、役行者が吉野の金峰山に籠って修行し、迷える衆生を救う神々に示顕を祈ると、最初に釈迦牟尼仏、次に千手観音菩薩、次に弥勒菩薩が現れたが、役行者は厳しい修行の地においてはもっと強い神の示現と守護が必要だと更に祈りを込めた。
すると、憤怒形の「蔵王権現」が顕現したので、この威力ある勇姿を自ら桜の木に彫って作ったと伝えられている。
これには異伝がある。
天河弁才天社などの社伝では、役行者が祈りをこらすと、最初に弁才天女が現れたが、役行者はもっと強い神がほしいと更に祈ったところ、次に現れたのは地蔵菩薩だった。
地蔵菩薩もまた慈悲救済の菩薩なのでそれを捨て、更にもっと荒々しく厳しい修行にふさわしい仏が欲しいと祈ると、突然すさまじい雷鳴が鳴り響き、三番目に憤怒の形相の仏が、炎の中から現れた。
これこそ厳しい修行の守護神にふさわしいと、本尊に祭った。
この仏ないし神が「蔵王権現」であるという。
姿が7メートルに及ぶこの秘仏は、日本一の大きさと威容を示している。
これは大自然の“ちはやぶる”神のすさまじいエネルギーの発現であり、魔の降伏の威力と衆生救済の慈悲を表わすものである。
このようにして古来の伝統的な神道と新来の仏教と山岳宗教とがミックスした独自の神仏習合思想としての修験道が形成されていった。
7世紀は日本の宗教文化の大転換期だったのである。
(引用ここまで)
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ヤタガラスのこと、扇の神事のこと、加茂氏のこと、当ブログでも長いこと考えてきましたが、鎌田氏の気迫のこもった文章を読むと、圧倒される思いがします。
>この仏ないし神が「蔵王権現」であるという。
「仏ないし神」という言葉は、役行者たちが体得したものを捉える、絶妙な言葉であるように思います。
写真の鎌田氏の本の表紙の像が、ここで述べられている「蔵王権現」の像だと思います。
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役行者の事が良くわかりました 蔵王権現
熊野 大好きです
コメントをどうもありがとうございました。
ちょっと私事が重なったもので、お返事が大変おくれまして、もうしわけございませんでした。
コメントをいただいたことはうれしく、毎日思い出していたのですが、頭がついていけませんで、失礼いたしました。
こんなにお返事がおそくなりますと、ヤマネコさまは、もう化け猫さまに変化(へんげ)してしまわれたのではないかと思うと、よりいっそう、お返事を書くのがたのしみになっていたのでした。
わたしも吉野山に行ったことがあります。
縦横無尽に駆け回る役行者たちに、出会いたいものです。
おそらく今も、彼らは夜ごと日ごと、あたりを駆け回っているにちがいありませんね。。