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連載小説『フォワイエ・ポウ』(16回)3章-3(夜業界の女から見た本田は?)

2006-03-31 15:21:25 | 連載長編小説『フォワイエ・ポウ』
    
      長編小説「フォワイエ・ポウ」3章

                   著:ジョージ青木

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(3)-1

フォワイエ・ポウを出た2人の女性は、そんなに急ぐわけでもなく、普通の速度で店に向かっていた。
並木通りからサンチョパンザまで、つまり2人の勤務先まで角々を曲がりながらの夜の街を歩くこと、約10数分の距離である。タクシーに乗るほどでもないが、歩けばけっして近くはない。それなりの距離であるから、徒歩なら程よい運動にもなる。連れでもいれば、ある程度のまとまった会話もできる。適度にワインが入った2人には、少しでもアルコールを発散させるに程よい歩行距離であった。
今まではほとんど口をきかなかった山本美智子が、本田の店を出るなり、急におしゃべりになった。
「何だか不思議な人だなあ~」
「なに一人で言ってんのよ、みちこさん・・・」
「ねえねえ、さかえさん。本田さんって、どういう人?」
「みちこさん、あなた、そんな馬鹿なこと聞くんじゃないよ。たった今、本田さんと会ったばかりじゃないの。『一度会ってみたい、だから連れて行って欲しい』そう言ったのはあなたじゃない。だから今日、一緒に連れて行ってあげたじゃない」
「・・・」
「もう自分で本田さん見たのだから、わかったでしょう。そうよ、30分以上も本田さんの店にいて、もう、わかるでしょう。あれが、本田さんよ!」
「本田さんと、初めてお会いした。でも、問題はそれからなのよ。確かに、お会いしました。ご挨拶も、しました。だから、もっとわからなくなったの。いろいろ想像してたけど、会ってしまったら、何が何だか、さっぱり解らなくなっちゃったの~」
「よくわかってるじゃない、美智子さんは・・・」
「エ~、さかえさん、今、わたし、わからないっていいましたよ。なのに、どうしてよくわかってるっていうんですか?」
「ねえ、美智子さん・・・」
「美智子さんが『よく分からない』って言う事が、これでようやく自分で確かめて、自分で分かった。そうでしょう。だから、『良く分からない、という事が分かった!』のだから、それで良いじゃない・・・」
こうして自分で説明しながら歩いている木村栄は、今、自分の言っている事があらためてよく理解できた。木村の説明を聞いている山本美智子には、その説明を聞けば聞くほど、ますます理解できなかった。
山本美智子は敢えて、木村栄に答えを出した。
「さかえさん、わかりました」
「わからない事がわかったので、今度、わたし1人で、フォワイエ・ポウに行ってきます。そういうことですよね…よくわかりました。さかえさん、ありがとう・・・」
「そう、そうすればいい、そうして何度も店に行ってごらんなさい、でも、おおよそ解かるまで、まだこの先3年はかかるから・・・」

山本美智子の話し相手をしながら、一緒に歩きながら、全く別の世界を考え想いに耽っている自分、そんな木村栄は、本田の店で飲んだワインのほろ酔い気分から、とっくに抜け出していた。
自分の過去を思い浮かべながら、本田の店の成り行きについて想像していた。

今年で23歳になる木村栄。この業界に入って、既に2年と半年になる。
中学時代からいっぱしの不良少女を演じ、さらに高校時代には、女暴走族の親玉までに登りつめた経験がある。16歳で二輪免許の取得、18歳になると同時にトラック免許と自動二輪の免許を取った。車もバイクも大好きだった。この道では、そんじょそこらの男の暴走族にはけっして負けない。そんな腕と度胸をもっていた木村栄は、そのうち取巻き連中も集まり、いっぱしの女任侠道を極めた女傑になっていた。
木村栄の実家の両親は、市内で普通の商売を営んでいる。しかも小売酒屋。気風の良い父親は取引先に恵まれ、商売は順調。結構儲かっていた。1人娘で甘やかされたのがまずかった、と、自分では思っている。たちまち金銭の必要性があるわけではないのだが、なぜか、今は真面目に夜の世界で働いている。超一流ではないが、とりあえずクラブと名の付く店のホステスだから、それなりの所得を得ている。はっきり言って、ルックスは美人の範疇に入る。が、しかし、もともと大柄で、さらに年齢の割には少し太めである。加えて男まさりの気まま娘とくれば、お客の要望にはなかなか妥協もできず、元来、お世辞やおべっかが使えるようなタイプの女ではない。だから、ゆめゆめ店のナンバーワンには成れない。が、しかし、そんな変わり者好みのお客がついているので、クラブ経営者にとっては、彼女のわがままな態度も、ある程度認めざるを得ないという、ぎりぎり合格ラインに乗っている、決してクビにする必要のない従業員であるか…木村栄は、そんな存在であった。
元々本気で夜の商売に向くとも思っていないし、今も、本気で仕事に取り組んではいない。
(高校を卒業してから、もう2年も経つ。遊び歩きながら、時々実家の仕事を手伝っている。毎日毎日同じように過ぎていくばかりで面白くも可笑しくもない。家の手伝い。お酒の配達。これの単純な繰り返しの毎日。これではいけない。もう大人になったのだから、家から外に出て何か別の、自分が選んだ仕事をしなければ、、、。でも、今さら、まともなOLにはなれないだろう。なぜかって?分かりきったこと。学校には、まともに出ていない、通っていない、勉強していないから、どこか会社の試験を受けても見事に落ちるであろう。普通の会社には入れてもらえないだろう。親のコネでどこかの会社に入れば入れてもらえないでもない。その場合、まず、親に恥をかかせることになる。会社に入ったら、その日から自分が恥をかくだけだ。一般常識のない自分の化けの皮は、すぐに剥げる。無学の馬鹿さ加減はすぐバレる。だから普通のOLには、なりたくてもなれない・・・)
という気分で、なんとなくなんとなく、夜の業界に足を踏み入れた木村栄であった。

本田との出会いは、本田が木村の勤めるサンチョパンザに客として出向いたときである。取引先に誘われた本田は、わずか2~3度だけ木村の勤めるクラブに出向いていた。店にいるときの本田は、ほとんど女性ホステスとの会話は無かった。そのかわりに、店の経営者である寺元マスターと会話を楽しんでいた。そんな会話の最中も、なぜか木村栄が本田の席についていた。本田自身、さしたる理由は全くなく、むしろ本田を店に誘った取引先連中の誰かが、いつも木村栄を指名していたに違いない。
たまに本田が来店すると、なぜか木村栄は喜んだ。席に付くと、なぜか元気が出た。そんな本田が、サンチョパンザに全く姿を現さなくなってすでに2年経っていた。本田は自営業をはじめたらしい、という情報が入った。なぜか、気になっていた。

それから突然、ニュースが入ったのは、一週間前の事。
(本田さんが、夜の業界に入るらしい。バーを経営するらしい・・)

   <・・続く・・>

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* 発表済み「小説・フォワイエ・ポウ」、掲載各号一覧・・

「第1章」
1)第1回掲載「第1章」(メタリックレッドのロールスロイス)(2月9日)
2)第2回掲載(2月10日)
3)第3回掲載「1章」(クリームチーズ・クラッカー)(2月15日)
4)第4回掲載(2月17日)
5)第5回掲載:「1章」完(2月22日)

「第2章」
6)第6回掲載「2章」(安易な決断-1)(2月24日)
7)第7回掲載「2章」(安易な決断-2)(3月1日)
8)第8回連載「2章」(安易な決断-3)(3月3日)
9)第9回掲載「2章」(安易な決断-4)(3月8日)
10)第10回掲載「2章」(安易な決断-5)最終章(3月10日)

「第3章」
11) 第11回掲載「3章」(1開店)(3月15日)
12)第12回掲載「3章」開店(1-2)(3月17日)
13)第13回掲載「3章」開店(1-3)(3月24日)
14)第14回掲載「3章」開店(1-4)
15)第15回掲載「3章」開店(1-5)

<掲載写真>バルセロナにて、1998年初夏

日本の教育は発展途上国レベル以下か?(日本領土認識・正しき歴史認識・・)

2006-03-30 13:58:30 | 教養・文化・歴史
 実に驚いた。教育界は専門外のフィールドであるが、今朝の朝刊記事「高等学校教科書検定関連」を見て驚いた。
 何と、今年から我国領土(竹島・尖閣など、その他)の明確化を、と、指摘指導した文部科学省云々、記されているではないか?当該教科・教科書への「記述内容」を指摘した個所が、26ヶ所に及んだとのこと。
 我輩、知らなかった。 何故にここまで、我国の教育界に於いて「国家存在」の感覚を喪失したまま、現在に至った「悪しき現状」を!・・・
そして、その悪しき現状は、教科書問題に凝縮され、そして今、ようやく「悪しき現状」から「正しい姿」に戻り始めたことを、、、。

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 今から約10年前になるか、都合6年間に亘りハンガリーに滞在していた時期の、「とある記憶」を思い出す。ブダペスト滞在中、旧市内のど真ん中、築150年以上の古いマンションに間借りして生活していた頃の事であった。そのマンションの主は、ヴェテラン小学校教師(学年主任クラスか?)。夕食後など、よく日本について質問を受け、答え、またこちらからもハンガリーについてよく質問した。以って、互いの国の文化歴史など、紹介し合っていたころの事を思い出す。 
 ある週末、マンションの「元の主(あるじ)=父親」の住居を訪ねた。父親の誕生日のお祝いに、(ワイン持参にて)我輩も同行した。昼食を共にした元気なご老人、(当事の)齢は85歳。いまだ若者に負けず劣らずのワイン大好き老人で、共に飲んで語り合った。(教師の通訳付きで)
 老人から、多くの資料を見せてもらった。
そして、多くを教わった。
 A)19世紀当時、ハンガリーの最大版図なる時の古地図を見せてもらった。現在のルーマニアの西側3分の1は、今尚ハンガリー語しか喋らない喋れないルーマニア人は、今尚ルーマニアで生活しつつ、ハンガリーへの復帰を願い出ていることなども、、。
 B)いまだ、矍鑠(かくしゃく)たる父上は、今尚大切に、自国ハンガリーが最大版図を得た時代の「ハンガリーの歴史地図」なるものを携え、若き世代、次世代のハンガリー人に(日本人の我輩に対しても)自国ハンガリーの歴史を教えているという「現実」を、、、。
C)自国の歴史は、何も教育界に限らずとも、先輩から後輩、親から子供へと語り継がれていくものだ。と、気付いた。いや、正しき手法を教わったのだ。

我輩、今になって思う。
(1)正しき歴史認識の共有無き事と、
(2)自国領土の認識を持ち得ない、
(3)上記2点の共通認識を持ち得ない「国民の存在」と「国家の存在」、
この地球上に、上述のような自国への鈍き感度しか持ち合わせない国民国家は、果たして幾つあるか?
これ、
地球上の「あらゆる国」に於いて、極めて「稀」な実態である。
しかし、
まさに、上記の認識の希薄なる民族が現存する。これが我国の現状である。こんな国は、発展途上国にも劣る「国の体を成さない国家」であり、そんな国家に住まう我々国民は、単に生れ落ちて住居する、国籍認識不明なる痴呆症的「只の住人」ではないのか?
嘆かわしき「この現実」、、、。
これ、我々国民全員の責任か?
特に、シニアの責任は重い、、、。
いや、すでに現在「シニアの年齢域」に入っている日本人こそ、何も(歴史認識や国家観などなど)誰からも習っていないのではないか!
何故に、戦後60年にも及び、今日まで、この大切な国民共通の認識すべき「問題点」から避けて通ってきたのか?
ひとえに、正しき歴史認識に加え、正しき国家観の認識を促すべく教育を、今の教育界に於いて早急に実現すべき重大な問題である事、本日、あらためて認識した。
しかし、歴史認識や国家観の会得方法は、多岐に存在する。正しき教科書に頼らねばならぬ初期教育段階はともかくも、一旦大人になれば、先輩から後輩へ長老から若者へ、伝えられるべき「存在」であると考える。かくして歴史認識や国家観は、世代間にて語り継がれるものであるとも思う。
 ならば我々シニアの世代はどうか。
 まず、(多くのシニア世代が)学びそこねた国家観や歴史観は、あらためて学ぶ必要がある。しかし、既に会得した大切な知識と技を持ち合わせているのも、我々シニアの世代である。若者に語り継ぐべき技能や技術、伝統芸術文化などなど、多々あるではないか。
 大人よ、シニア世代よ、我々自身、しっかりと若者達と向き合い膝を交えつつ、語り合おうではないか。

「・・・・!」

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以下、
3月30日「産経新聞・政治記事欄」より引用。
(・・本文・・)
高校教科書検定 「日本の竹島、韓国占拠」 領土、正確な記述求める

 文部科学省は二十九日、来春から使用される高校教科書の検定結果を発表した。領土問題や北朝鮮による拉致事件、「ジェンダー」用語などでより正確な記述を求める検定意見が付けられ、出版社側が修正した。一方で、南京事件の犠牲者数について二十万人以上説が最有力とするなど近現代史を中心に不適切な記述が数多く残った。
 竹島(島根県隠岐の島町)と尖閣諸島(沖縄県石垣市)は、前回検定(平成十三年度)より記述が増え、地理歴史、公民では世界史、倫理を除くほとんどの教科書が記述。四十カ所ある記述のうち、半数を超える二十六カ所に日本固有の領土であることを明確にするよう求めるなどの検定意見が付いた。
 尖閣諸島については「北方領土、竹島と違い日本が実効支配しており『領土問題』ではない」との立場から意見を付け、「日本の領土である北方領土と竹島は、それぞれロシアと韓国に占拠され、領土問題となっている。尖閣諸島も日本の領土だが中国などが領有を主張している」などと、北方領土や竹島の扱いと区別する記述に改められた。
 北朝鮮による拉致事件では、解決していないことを強調するよう求める検定意見が目立った。「北朝鮮から帰国した拉致被害者たち」との写真説明に「解決済みであるかのように誤解する恐れのある表現だ」との意見が付き、「しかし、まだ拉致被害者全員の帰国は実現していません」と追加された。
 「ジェンダー」(社会的・文化的な性差)については現代社会や家庭科など三十八種類が記述。「男らしさ・女らしさ」の否定ととられる記述などに検定意見が付いた。「ジェンダーフリー」(性差否定)は、現代社会の二種類にあったが、検定によって消えた。
 一方で、検定をパスした不適切記述も相次いだ。南京事件の犠牲者は二十万人以上説が最有力とする記述が登場するなど誇大な数字が記述されている。慰安婦については「日本軍により慰安婦にされた女性」が「日本軍の慰安婦にされた女性」に修正されるなど、軍による強制連行に検定意見が付いたが、主語のない強制連行記述はフリーパス。慰安婦を取り上げた二十五種類中、「強制的に連行」が二種類、「連行」が二種類ある。<・・以下省略>(当該記事続きは、こちらから入れます・・)

その他、関連記事一覧は「ヤフー・ニュース」を、ご参照下さい。(教科書検定問題について)検索は、こちらから・・)


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(添付画像):3月30日「中国新聞」朝刊+細谷千博(国際大学教授)著「日本外交の軌跡」

連載小説『フォワイエ・ポウ』(15回)「開店」(二番目の客は来るか?)

2006-03-29 07:52:56 | 連載長編小説『フォワイエ・ポウ』
    
      長編小説「フォワイエ・ポウ」3章

                   著:ジョージ青木

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(14回掲載より・・・)

「そろそろお勘定しておいて下さい。マスター、マスター、そろそろお客さんがお見えになるでしょうから、お客さんがお見えになる前に、私達のお会計済ませて下さい」
木村栄の発言を聞いた本田は、瞬間とまどった。
(そうか、自分は客に酒を飲ませて商売しているのだ。お金をもらわなければならないのか?・・・)
今まで自分が客として彼女の店に出入りし、自分がお金を支払っていた立場が、今は逆になっている。木村宛に、計算書を書くのが恥ずかしかった。しかし、思い切って、書いた。
計算書を見た後の木村栄の表情は、止まった。目が点になっていた。
「マスター、これはお支払いできません。この金額では、いけません!」
「エ! なせ?」
本田はたじろいだ。

<以上、前回掲載分・末尾より>

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(2)

 まだ他の客が入っていない店の状態を前提に、木村栄は、”支払えない理由”を説明した。
「これ、計算書は確かに5千円」
「その内訳は、ワインが3千円、おつまみというか、チーズクラッカーが2千円。という事は、チーズクラッカー1人分が、たったの千円。これは安すぎます。これでは3ヶ月もしないうちに、この店は潰れます」
「もう一度計算しなおしてください。というよりも、もっとしっかり高く料金設定してください」
落ち着いた口調で、木村栄は本田に説明する。
「いや、さかえさん、貴女だから、今日はこれでいい」
一旦提示した計算書の書換えをしたくない、本田の気分である。
「いいえ、違います。今日、新規開店日だからって、そうは行きません」
「・・・」
本田から、これ以上の会話を続けられない。
「今日は1万円、置かせていただきます。お釣はいりません。ご祝儀です!」
木村栄は、ついに啖呵(たんか)を切った。
彼女の大きな瞳は一段と大きくなり、やたら視線を崩さず、しっかりと本田の目を見据えながら、話しを続けている。
「わかった、さかえさん・・・」
「ありがとうございます。よろこんで、お受けします!」
こんな時の本田は、おそらく拒否するであろう、けっして素直に受け取らないであろう。と、思っていた木村栄は、ほっとした。
いかにも、木村栄の満足した表情があった。
すでに彼女の表情に出ている様子を、本田は見落とさなかった。
「嬉しい!これで安心しました。たぶん、マスターは断る。と、思っていましたから」
「いや、さかえさんが一旦出したもの、引っ込めないでしょう。さすがに私も、付き返すわけにはいかないからな~」
「そう、そうなの、私が言い出したら、絶対あとには引かないわよ。もし、これ受け取っていただけなかったら、もう2度と本田さんのお店には来ない! とかなんとか、一瞬思ってましたが、これで安心しました。ワインも少し残ってますから、すぐまた来ます。今夜また来るかなー、店が終わってから・・・」
「さかえさん、どうもありがとうございます。でも、飲み過ぎないように。今から出勤でしょう。そろそろ時間が気になるなあ~」
この間、3分と経っていない。そんなわずかな時間内での二人の口論は、本田の神経をすり減らした。本田にとっては全くの未経験、且つ、喜ばしい神経の消耗であった。
時計は7時45分を指していた。
「みちこさん、このグラス空けたら、そろそろ出ましょうか」
自分の思い通りの決着が付いた木村栄は、いつもの落ち着きを取り戻しながら隣の山本美智子に話しかけた。
「はい、そうしましょう、そろそろ店に入りましょう」
ワイングラスに視線を向けたまま、木村に返事をした山本は、いかにも穏やかな表情を装いながら、しっかり二人の会話に耳を傾けていた。

こんなやり取りが終わった頃、入り口のドアーが開いた。
「いらっしゃいませ!」
スムーズにスマートに、さりげなく本田の声が出た。
お客を迎える定番の挨拶と掛け声、そんな声を出すタイミングに慣れてきた。
客が入ってきた。
顔見知りではない男性二人。それなりにダークスーツを着こなし、決して派手でないネクタイをきっちりと締めている、いかにもエリートサラリーマン風の若者である。
「2人ですが、よろしいですか? 席、空いてますか?」
「どうぞ、空いています」
「ボックスでも、カウンターでも、お好きなところに、どうぞ・・」
マスター1人のお店である状況を察知した2人は、敢えてカウンター席を選んだ。男性客2人は、カウンター席に着く。
木村と山本は、席を立ち始める。
「ごちそうさまでした、マスター。またお伺いします」
カウンター席に座った2人の男性を一瞥し、さらに、にっこりと笑みを浮かべながら、
「お先に失礼します。どうぞごゆっくり・・・」
次の客が訪れたのを見届けた木村栄は、安心した。本田が始めた店の状況は、どうか?開店初日の客の入りは、果してどうなるか?彼女は内心、かなり心配していた。ようやく2番手の客が訪れたのを確認し安心した木村栄は、たった今訪れたお客に対し、お客同士の立場を守りつつ、さらにお客同士の礼儀を示そうとし、2人の男性客に対して決してわざとらしくない丁寧さをもって挨拶した。男性客は、笑顔で目礼している。こうして挨拶を交わしながら、女性たちは店を出た。

あらたにカウンター席に付いた2人の男性客に対し、本田の神経は集中した。
本田よりずいぶん年齢の若い2人の男性に対し、あらためて挨拶し来店の歓迎を述べ、おしぼりを渡した。さらに一連の所作の中、カウンターの適切な位置にコースターを置きながら、注文を聞いた。
2人は、ワイルドターキーのダブルをロックで注文した。
彼らに対し本田は、自分から先に、会話を切り出すタイミングを考えていた。
思いもよらず、客の方から挨拶してきた。
「はじめまして、山谷證券の浜田と申します。こちら、後輩の大塚です。宜しくお願いします」
すこしカウンター席から立ち上り、中腰になってそれぞれの名詞を本田に手渡す。正しく訓練と実践の行き届いた営業マンの姿、そんな若者の凛々しい姿を久しぶりに見た本田は、うれしくなった。
「はじめまして、本田です。本日からあらためてフォワイエ・ポウを開かせて頂きます。今後とも宜しくお願いします」
「本田さん、いや、マスターも何か召し上がってください。僕たちはバーボン飲んでますが、宜しかったらバーボンでも、いやスコッチでも、お好きなものを、どうぞ・・・」
バーボンは、本田は苦手であったし、客から勧められて飲むのは好きではない。が、ここはやむをえない。ビールをお願いした。
「マスター、あらためて宜しくお願いします!」
「こちらこそ、浜田さん、大塚さん、宜しくお願いします!」
「カンパイ!」
音頭をとったのは、浜田であった。
お客の男性2名に対し、本田はありきたりの質問をした。
「ところでこのお店、山根マスターのときからのお客様、当事からお見えになってたのですか?」
「エ? 山根マスター? 僕たちは知りません」
「あ~ 失礼しました、では、本日始めてのご来店でしょうか?」
「はい、今日が開店だと聞いてましたから、さっそくお伺いしました」
初めての客である浜田は、マスター相手に自ら積極的に話を弾ませてきた。
浜田は入社4年目で、さらに大塚は、今年の新入社員であるという。2人ともまだ十分に若く、当然ながら独身であった。
入社後、浜田はこの街の勤務となった。先輩の紹介で、同じこのビルに入店している居酒屋を知った。つまり、同じビルの2階に店を構える『焼鳥屋・とりちょう』と、同じ3階にある『居酒屋・ひょっとこ』に、足を運んでいたという。
「先ほどまで、同じ3階の『ひょっとこ』で、ご飯食べていました。今日のこのお店の開店は、もうすでに1週間前に『ひょっとこ』の大将から聞いていました」
「そうですか・・・」
「記憶をたどると、もう10ヶ月も前になります。フォワイエ・ポウ? なんだか、おしゃれな変わったお店の名前ですから、以前から興味あったのです。一度機会があれば、是非店に入ってみたいと思っていたら、いつの間にか肝心のお店が閉まってしまった、だから、開くのを待っていたのです」
「ありがとうございます」
「落ち着きますね。すてきなお店ですね・・・」
「ありがとうございます」
大塚は、口数少なく、うなずくだけであるが少しずつ、店の雰囲気になじんでいた。
本田は、浜田の会話の内容と雰囲気にたいへん興味を持ったが、浜田も同じ様子であった。二人の個性は、全くバッティングしなかった。
浜田は思った。
(ここはいい、良い店、見つけた・・・)
新しくもなく、かといって古くもない、店の佇まいが素晴らしい、落ち着ける。マスター一人がやっているから、さらに好い)
(これぞ、男の店だ!)
浜田は、自ら判然としない漠然とした理由で、むしょうにマスターの懐に入り込みたくなった。もっともっと本田という男、マスターに接近してみたい。いろんな会話を投げかけてみたい。こちらが投げかけたら、必ずそれに答える人だと看た。はたして、どんな答えが出てくるのだろうか?あらゆる興味が、浜田の脳裏にひしめき、ひしめきつつ新たな興味が湧き上がってきた。
(そうだ、会社の若い連中にも、この店を紹介したい)
浜田はつぶやいた。しかし間違っても、管理職クラスの連中には来て欲しくなかった。フォワイエ・ポウを、この空間を、仕事の延長線上にはしたくなかった。若い連中の溜まり場にしたかった。


   <・・続く・・>

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* 発表済み「小説・フォワイエ・ポウ」、掲載各号一覧・・

「第1章」
1)第1回掲載「第1章」(メタリックレッドのロールスロイス)(2月9日)
2)第2回掲載(2月10日)
3)第3回掲載「1章」(クリームチーズ・クラッカー)(2月15日)
4)第4回掲載(2月17日)
5)第5回掲載:「1章」完(2月22日)

「第2章」
6)第6回掲載「2章」(安易な決断-1)(2月24日)
7)第7回掲載「2章」(安易な決断-2)(3月1日)
8)第8回連載「2章」(安易な決断-3)(3月3日)
9)第9回掲載「2章」(安易な決断-4)(3月8日)
10)第10回掲載「2章」(安易な決断-5)最終章(3月10日)

「第3章」
11) 第11回掲載「3章」(1開店)(3月15日)
12)第12回掲載「3章」開店(1-2)(3月17日)
13)第13回掲載「3章」開店(1-3)(3月24日)
14)第14回掲載「3章」開店(1-4)

(添付画像):旧オーベルジュ・ブランシュ・富士 メインロビーにて

拝啓櫻井よしこ様;(感想文、「何があっても大丈夫」に寄せて・・)

2006-03-27 21:55:28 | 趣味の話&本と雑学メモ
 どうも、なんだか、父上か?母上?のどちらか、外国人か。ウム?出生地=ベトナム。卒業大学=ハワイ州立大学。ならば、たぶん父上がベトナム国籍の華僑なのか?いや、母上が華僑のシナ人系ベトナム人であったか。そうえいば、何処となく日本人離れしたお顔立ちに、優雅にゆったりした(少々皮肉か)立ち居振る舞い。日本語の話し方も、少しスローテンポ。江戸弁でもなく大阪弁でもない・・・
何故、日本テレビ夜のニュース番組「今日の出来事」のキャスターに、このような女性を選んだのか?解らない。
でも、
なかなか感じの良い落ち着いた雰囲気のある女性だ。
好感が持てる。
でも、あの遅すぎる喋りは、けっしてうまくない。少し頼りないかなあ~・・・
等と、
「櫻井よしこ」と称するTVニュースキャスターとの最初の出会いは既に10数年前。いや、それ以上も前の話になるか。端正、まるで能面のような知的な美しさ容姿は、数年後、なぜかテレビで見かけなくなった。

それから暫くたって、本屋さんに立ち寄った際、政治社会関連本棚に、どこかで見た顔と名前「櫻井よしこ・著」なる本の表紙が、思わず目に入った。紛れもなく、数年前までTVキャスターをされていた櫻井よしこ女史の著作であった。タイトルは忘れた。が、その本を手にし、一夜にして通読。読破した後、我輩は思った。
「テレビでの女史は、すべからくスローモーション、、、。かったるい喋りをしていた能面顔の女性。社会論評を書かせると、何と、すばらしいではないか。こんなに毅然と理路整然とした意見の書ける人だとは、思いもしなかった。喋るよりは書く方が良い。ちゃらちゃらとテレビに出る人ではなく、しっかりと書く人なのだ・・・」

かくして我輩、一夜にして「櫻井よしこ」女史のフアンになった。

さて、櫻井よしこファンの方は是非とも下記のバーをクリック願いたい!
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そう、、、
最初に手にした本のブック・カヴァーの端に、「櫻井よしこ」の略歴が載っていた。生まれは「ベトナム」にして「ハワイ大学卒」という、女史の基本的プロファイルは、既に知っていた。

そんな経緯で、ジャーナリスト桜井女史の「最初の印象」を持ち、既に女史の著になる多くの「著書と論評」に目を通した。女史の著作からは、自分自身の思考方向の整理を可能にした。理路整然とした論陣で構成された女史の切り口には、賛同可能なるもの、多くあった。

そして一ヶ月前、
この一冊に、出合った。

何があっても大丈夫

新潮社

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な、何と、本著「何があっても大丈夫」を通読して後、何故に出生地は「ヴェトナム・サイゴン」なのか?何故に「ハワイ州立大学」卒業なのか?これら、まず分かった。
そして、
よりいっそう「櫻井よしこ女史」ファンになった。
何故にそこまで、堅固な祖国愛に基く非共産主義志向の鷹派的論評をされるか。何故にそこまで、強い「意志表示」をなさるのか?
堅固な意思表示の根源は、何処から湧き出るのか!何処から発生するか?
女史の出生から大学進学、さらに社会人に育つまでの経緯を知れば、全てが理解できる。

本著は、いわゆる小説家の手になるような美文にして美辞麗句など、何処にも見当たらない。淡々と朴訥に「桜井女史の辿った半生」は書き連ねられ、いかにも単純にストーリーは進行する。感情の起伏少なき文章の流れは、逆に読者の想像力を書き立てる。読者は、文章の行間を読み取らねばならぬ。直接読者の判断に委ねられた修飾語の少ない文章構成は、見事である。

通読後、既に一ヶ月が経つ。が、いまだに本著に書き下された「ストーリー」は、ほとんど完全に思い出せる。しかし、この読書感想文を書くなか、本著のストーリーを思い出しながら「物語の集約」を行なうつもりはない。

以下、私的感度にて「行間を読んだ」ポイントとして3点。視点を箇条書きしておく。

1)母上の愛情と知性と経験を、「一身」に受け仰ぎならが成長された若き日の「櫻井よしこ像」が見え、現在の毅然とした女性論客の姿に納得できる。加えて、不幸にも父上との接点が、あまりにも薄かった事実がある。しかし、女史の現在には、プラスに作用している。いや、少なくとも女史の母上に於いてして、女史の面前にて絶対に「父親の悪口・批判・卑下」等、なさったことは無い。と、言い切ってある。優しく且つ気丈な母上と、家族を顧みずにビジネスに徹せられた父上の「わがまま」なる姿。父上をして、男の一生涯を賭け「ビジネスと戦う」姿を観てこられた櫻井女史。以って櫻井よしこ女史の現在は、ご両親に対する、言葉少なき敬意の表現となるのか。
母上の存在に、父上のとられた行動とは(女史にとっては)何ぞや。櫻井女史における、両親に対する愛情深き前向きの解釈に、圧倒される。

2)若き頃の貧乏のどん底生活。お金に縁のない生活の、連続に継ぐ連続。父親のいない家庭。お金では、けっして手に入らない「それ以上に価値あるもの」が、この世に存在する。と、母上から教わり続けた中高生時代。そんななか、父上のビジネスを手伝うこととなり、計らずもハワイに一人赴いた桜井女史は、当事、日本での大学入学を諦め、家業である父のレストランを手伝う目的にてハワイに向け、渡米する。日々、忙しくレストランを手伝う傍ら、ハワイ大学に進学。東洋史を専攻。東洋の文物に研究レベルの興味を持つ米国本土からの白人女子学生との交友はもちろん、広くアジア各国からの留学生などと直接交友可能であった女史の学生時代の活動は、現在の櫻井女史の発想の「大きさの土台」となっているに違いない。

3)大学卒業後は、直接日本に帰国された由。続いて、日本での就職活動の中、すでにハワイ大学教授の推薦状にて、アメリカから派遣された女性ジャーナリストの秘書として就職。最初の数年間は、日本語の全く出来ない米人女性ジャーナリストの活動を補佐する仕事の連続。すなわち、毎週は週刊誌。そして毎朝は、主だった日本の新聞の主だった記事と興味ある記事を、上司の米人記者に理解可能となるよう、報告するのが仕事。つまり通訳翻訳が彼女の最初の仕事であった。ほとんど和文英訳と取材通訳が女史の仕事であった。と、記してある。
櫻井女史の語学力は、大学を卒業後、そして就職し社会人となった後にも、ますますレベルが高まったはず。その後フリージャーナリストとして独立されるまでに、アジア系の優秀なジャーナリストたちとも仕事を通した交友があったと記されている。

以って、理解できる。
現在の櫻井女史の情報収集力は、アメリカはもとより広く全アジアに跨ってなされるもの。情報の分析力は、女史の「東洋史研究」の基礎と、欧米人ジャーナリストの中で研ぎ磨かれ鍛えられた揺るぎなき「ジャーナリズム正義」に基くもの。

櫻井女史から発信される論評の切り口と目的には、いずれをとっても、人間愛と自国を愛する基本軸が存在する。いずれの場合の論評も、同じ基本軸から外れておらず、断固として揺るぎない。
論旨の背骨となっている「信念」は、女史の辿った「起伏多き半生」の中から育まれたものか。堅固な信念を持ち、且つ日本人の立場にて世界に通用する言論人。高所高見から物事を捉え判断し、日本人の立場に立脚した論評発信可能な人物なり。この一冊から、「そんな人物」を育んできた基盤、基礎となっているものが確実に見えた。

そして「この一冊」、
読んでよかった・・・

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我が郷里の「原爆ドーム」!<記事にしたくない記事・・>

2006-03-25 20:46:41 | つれずれ紀行
?!?!・・・
 我が愛機(カメラ)にて、一生涯、撮影など決してしたくなかった「原爆ドーム」を撮影してしまった・・・
(撮影日時:2006年3月25日午前10時過ぎ・・)

本日、
 所用があって、久しぶりに「広島市内」に出向いた。

そして、たまたま「平和記念公園」の近くに、所用あった。
何故か本日、久方ぶりに、
デジカメ他、我が撮影機材一式を携行していた。

今朝は、ことのほか晴天!

・・見た!

久しぶりに「原爆ドーム」を・・・
な、何と、我が記憶に残っている「原爆ドーム」が、美しくなっているではないか・・・
この調子で改修すれば、5年以内に「原型」の「産業奨励館」に戻ってしまうではないか?
とにかく、どうした事か?
「ご覧あれ・・・」
四六時中改修工事をやっているのだ・・・
しかも、国家予算を使って・・・
大切な国民の税金を使って、こんな廃墟の補修を何故やるか!

声を大にして、叫びたい!
「無意味である!」と、・・・

こんな原爆ドームを撮影した後、少し歩いた。
そして、
平和公園内を横切ろうと思い、公園に至る橋に差し掛かったところ、何だか署名運動をやっている二人の男性から呼び止められた。
「私は、原爆2世です。署名をお願いしたいのですが・・・」
我輩、原爆を売り物にしている「活動家」は、大嫌いである。
その活動家が我輩の進行進路に立ちふさがった。
「・・・」
署名も、募金献金も、当然断った・・・

平和は人類皆が望むもの!

しかし、
その多くは、平和呆けなのである。
まして、原爆被爆者を盾に、平和を「謳い文句」にする。その上、平和運動と称する(営業)活動を行い、飯の種にしている「輩」が正々堂々と立ち居振舞っている事、見たり。

かくして我輩、これを許せない!

* 広島の平和記念公園及び原爆ドーム界隈での「この手の活動」に、賛同する方、賛同しない方、無視する方、応援する方、いずれにご意見をお持ちの方も、下記の「green-Bar」をクリック願いたい!
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PS:近年、「原爆ドーム」が『世界遺産』にリストアップされていると聞いている。このたびの写真を記事にするにあたって、ウイキペディアの世界遺産の定義と登録の事実を調べた。
解った。な、何と、原爆ドームは「負の世界遺産」に登録されているとの事、、、。
な、なるほど・・・
もう、付け加える「言葉が」無い・・・

連載小説「フォワイエ・ポウ」(14回):オープン初日、最初の来客は?・・

2006-03-24 12:25:15 | 連載長編小説『フォワイエ・ポウ』
    
      長編小説「フォワイエ・ポウ」3章

                   著:ジョージ青木

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連載小説「フォワイエ・ポウ」ご愛読の方にお願いです!
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(2)-1

開店まもなく、いや5分と経たないうちに、
トントン・トントン・・・
店のドアーをノックする音が聞こえる。

(誰だ?わざわざドアーをノックする奴がいるか! ここは誰でも入れる大衆バーだ。格好つけてキザにノックなどするなよ。客ならそのまま堂々と店に入ってくればいい・・・)
と、思いながらも、発した声の中身は、
「は~い、お待ち下さい・・・」
ちょっと違っている。これは、少し変な対応言葉である。
(いや、違った、ここは自宅でもなく事務所でもない。掛け声?いや違う、挨拶、いや違う、対応の言葉が違うぜ・・・)
反射的に席を立ち、早歩きで入り口方向に向かいながら、直ぐに言葉を言い換え、使い分けた。
「はい、いらっしゃいませ」
ほぼ同時に、ドアーが開いた。
大きな花束を持った女性が先に入り、続いてもう一人、女性がついて入ってきた。
「・・・」
とっさに言葉が出なかった。
二人の女性のうちの一人の名は木村栄。クラブのホステスである。
とっさに言葉の出ない本田は、二人の女性に対し、ただ単に微笑み、心で歓迎した。
「おはようございます・・・」
先に声をかけたのは木村栄からだった。すでに夜であるが、夜の業界では、出勤した毎夜、互いに初めて声をかける場合、必ず『おはようございます』と、声を掛け合うのがこの業界の習慣なのだ。
「おめでとうございます。これ、私たち『サンチョ』の子から、女性みんなからの、本田さんへのお祝い!」
大きな花束を本田に渡そうとしている。
「そしてもう一つ、これ、マスターから預かってきました」
花束の傍らに、派手な祝儀袋を携え、直ちに本田に渡そうと両手を差し伸べている。しかし、その姿勢でまた喋るから、本田も直ぐには受け取れない。
「あ、本田さん、ご存じないかと思いますので紹介します。山本美智子さん、一ヶ月前に入りましたうちの店の女の子です。宜しくお願いします」
「はじめまして、山本美智子です」
「こちらこそ、はじめまして、本田です。いつもお世話になっています」
彼女は本田に名刺を渡そうとして、ハンドバッグの中から名刺入れを取り出そうとした。
「あ、美智子ちゃん、後でいい後でいい、ちょっとお酒飲もうよ、一杯入れてから、お店に出ればいいのよ、今日はあのタコ、タコマスターはうるさくないよ。タコマスターから言い出したことじゃないの。自分がいいつけたんだから、もう知ってるから。だから私達、先に本田さんのお店に寄ってくる事、分かってるからさ、大丈夫よ。一時間くらい遅刻したってさ・・・」
「・・・」
自分たちのクラブでは、どちらかといえば無口でおとなしい木村栄である。しかし、なぜか今日はよく喋る。
花束を差し出しながらも、おしゃべりが止まらない木村栄の会話の間を縫って、本田はようやく自分の声の出せるタイミングをみつけた。
「・・・あらためて、いらっしゃいませ・・・ さかえさん」
「はじめまして、山本さん!」
笑みを浮かべた表情は一切変えず、本田の視線はすばやく二人の目を直視する。三人の視線が、合う。
「ようこそ、フォワイエ・ポウへ、お待ちしていました。いらっしゃいませ・・・」
ここでようやく両手を木村栄に差し伸べ、本田は花束と祝儀袋を受け取り、さらに右手に持ち替えながら、緩やかな動作で左手を水平にかかげ、カウンター方向に差し伸べた。
いかにも自然な動作であった。
この動作は紛れもなく、本田が旅行業界時代に会得した動作であった。けっして付け焼刃ではない、本田の持っているよい意味での素地が、さっそく出てきた。飾り気無く単純でスマートに、しかもさりげなく、客をカウンターに案内する動作なのである。本田のこの一連の立ち居振る舞いは、すでに木村によって確実にしかもしっかりと微細にわたって観察されていた。
「私たちも、あらためて、もう一度。ご開店、おめでとうございます!」
いつも自分の勤務している店の中では、どちらかといえば無口で、口を開けば男っぽい木村栄は、男性的というよりも、むしろ感受性の豊かな女らしい女性である。と、本田は見ていた。
(特に今夜は、いつもと少し違っている。今夜の木村栄は、あたかも自分自身に直接関係した出来事のように、本田の開店を喜んでくれているようだ!)
女性二人はワインを注文した。しかしグラスワインはサービスできない。ボトル一本注文しないとワインは飲めないと説明した。
「いいわ、白ワイン、一本お願いします。今夜、仕事でなければ、簡単に一本は空けますけど、余ったらまた、のみに来ますから、数日、いや一晩かな・・・ お店の冷蔵庫に、ワインのボトルをキープしておいて下さい。マスターお願いします」
すぐに本田は、思った。
(なんと、さかえ君らしい発言だよ・・・)
多くを語らず、本田は了解した。
冷たく冷やしておいた白ワインのボトルを開けた。おつまみは、客二人に対し、適度な量のクラッカーとソフトチーズを一皿に盛り付けた。
「さかえさん、チーズはお好きでしたね?」
「はい、大好きです。ワインとも合いますわ」
「お嫌いでなくてよかった。では、さっそくチーズをお出ししましょう」
ワインを口にしながら、女性二人の話は、にわかに弾んでいた。自分たちの花束を活け込もうと、張り切っていた。空いている花瓶があるかどうか?木村は尋ねた。トイレの中に一つあった。自分たちが持ってきた花束を、たちまちその花瓶に活けこんでしまい、ぎりぎり客の邪魔にならないカウンターの一角に置いた。
「本田さん、これでいいでしょう? マスターに、活花なんかさせてはいけないって、ちゃんと分かってますから。だから、私達でお花を活けさせて頂きました。ご心配なく・・・」
「さかえさん、どうもありがとう。さすがだ、わかってるんだ。だから私は、最初から貴女のフアンでして・・・」
「あ~ うれしい! 照れちゃいます」
今日の木村栄は、ほんとうに照れている。
「さあ、美智子さん、あらためてワイン飲みましょう!」
「は~い、いただきま~す」
本田は、すすめられた最初のグラスだけ彼女達に付き合ったが、それ以上は断った。最初のグラスも、本田は意識して、ほとんど口をつけていなかった。にもかかわらず、すでにワインボトルの中身は、半分近く空いている。二人とも酒はいける方だし、かなり強い。あらためて本田は認識した。
「そろそろお勘定しておいて下さい。マスター、マスター、そろそろお客さんがお見えになるでしょうから、お客さんがお見えになる前に、私達のお会計済ませて下さい」
木村栄の発言を聞いた本田は、瞬間とまどった。
(そうか、自分は客に酒を飲ませて商売しているのだ。お金をもらわなければならないのか?・・・)
今まで自分が客として彼女の店に出入りし、自分がお金を支払っていた立場が、今は逆になっている。木村宛に、計算書を書くのが恥ずかしかった。しかし、思い切って、書いた。
計算書を見た後の木村栄の表情は、止まった。目が点になっていた。
「マスター、これはお支払いできません。この金額では、いけません!」
「エ! なせ?」
本田はたじろいだ。

   <・・続く・・>

 
 (次回掲載予定日:3月29日水曜日)

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* 発表済み「小説・フォワイエ・ポウ」、掲載各号一覧・・

「第1章」
1)第1回掲載「第1章」(メタリックレッドのロールスロイス)(2月9日)
2)第2回掲載(2月10日)
3)第3回掲載「1章」(クリームチーズ・クラッカー)(2月15日)
4)第4回掲載(2月17日)
5)第5回掲載:「1章」完(2月22日)

「第2章」
6)第6回掲載「2章」(安易な決断-1)(2月24日)
7)第7回掲載「2章」(安易な決断-2)(3月1日)
8)第8回連載「2章」(安易な決断-3)(3月3日)
9)第9回掲載「2章」(安易な決断-4)(3月8日)
10)第10回掲載「2章」(安易な決断-5)最終章(3月10日)

「第3章」
11) 第11回掲載「3章」(1開店)(3月15日)
12)第12回掲載「3章」開店(1-2)(3月17日)
13)第13回掲載「3章」開店(1-3)(3月24日)


(添付写真・解説):
<Photo>:from Wikipedia; The hotel bar for serving verious alchoholic drinks, liquors and/or softdrinks. One of finely established bar, which one is in Swizerland

拝啓「小泉首相殿」・・・

2006-03-23 23:52:16 | 教養・文化・歴史
先に投稿した「英文・小泉メールマガジン」と同日(午前9時過ぎ)に配信された原文を掲載。英文との比較を楽しんでいただきたい。
残り半年足らずではあるが、バブル崩壊後の平成改革政治の先端を切った小泉首相には、今ひとつ、全力を尽くして国の舵取りの基本固めを、、。
且つ、より良いかたちで「ポスト小泉」にバトンタッチをして頂きたいと、願ってやまない。
さて、少しだけの本論、、。
1.「小泉マガジン」の今週号は、特に楽しんで読める「記事内容」であると思う。
2.エセ男爵ブログに於いて、既に一度「小泉マガジン」を掲載している。第一回は、記事内容にイラクのサマワに交代交互に駐屯した「父と娘の自衛隊員手記」の記事掲載があった。我輩にして多いに感動した。手記を拝読した後、はからずも自分自身の感激の涙を誘ったものであった。あえて「感動の手記」を現すために掲載した。これで(英文記事を加えれば)3回目の投稿記事となる。この度を以って、「小泉マガジン」丸写し記事の掲載は、終了する。

さらに、本論!
<添付画像について>:
米国情報部CIA発行ファクトブックによる「日本の地図」。
よくご覧頂きたい。
CIA発行の世界地図の中、日本の地図として発行されている当該日本国領土を明記地図上に於いて、確認できるものがあること今頃になって気が付いた。
まず第一に、
北方4島は、1945年に(日本の了解を経て)当事のソヴィエト連邦が自国の領土として占領したもの。と記されており、
第二に、
日本海海上に「竹島」と思われる地域海域が、日本領土であるとの事、確認可能である。当該地域の英文の名称として、海域の特定固有名詞的な名称は付記してはいない。が、その場所は「島」ではなく『岩礁』という名詞にて「日本領土」と(現行のCIA)が認める「日本の領土(岩礁)」が明らかに確認できる事、付け加えておきたい。


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<以下、小泉メールマガジン引用>

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小泉内閣メールマガジン 第227号 ========================== 2006/03/23

★☆ 松田大臣への質問を募集します! ☆★

★☆ 英語版、携帯版の読者登録を受付中です。 ☆★
(英語版) http://www.kantei.go.jp/foreign/m-magazine/add_e_sele.html
(携帯版) http://www.kantei.go.jp/jp/m-magazine/keitai.html
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□ 目次

[らいおんはーと ~ 小泉総理のメッセージ]
● WBCで世界一

[大臣のほんねとーく]
● WTO農業交渉における貿易ルール確立にむけて
  (農林水産大臣 中川昭一)

[ニッポンの元気]
● 日本の伝統を再構築する
  (桝一市村酒造場取締役 セーラ・マリ・カミングス)

[政府インターネットテレビ番組ガイド]
● 7CH「改革続行中」の新着情報 など

[小泉内閣の動き]
● 「東京発 日本ファッション・ウィーク」開幕イベント など

[キーワード解説]
● IC旅券

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[らいおんはーと ~ 小泉総理のメッセージ]

● WBCで世界一

 小泉純一郎です。

 ワールド・ベースボール・クラシック大会で日本代表が世界一になりました。私も、準決勝、決勝と、手に汗を握り、興奮しながら、テレビで応援していました。

 アジア、アフリカ、南北アメリカ、ヨーロッパ、オセアニアからの16チームで争われた1次リーグの上位2チームずつ、8チームが2次リーグに進み、その上位2チームずつの4チームが最後はトーナメント方式で争う方式。

 日本は強豪韓国に1次リーグでは2対3と敗れ、2位で通過。2次リーグでも1対2と敗れて再び2位。しかし、この敗戦に屈することなく、3度目の対戦となる準決勝ではチームが一丸となって力を合わせ、6対0と破って決勝に進みました。

 野球発祥の地アメリカ代表チームは、2次リーグで日本に4対3と勝ちながら、同じ1勝2敗の日本とわずか0.01の失点率差で決勝トーナメントには残れませんでした。

 決勝の相手キューバも、1次リーグではプエルトリコに、2次リーグではドミニカに敗れながら、準決勝でドミニカを破っての決勝進出でした。

 これまで何度もオリンピックで金メダルを獲得したことのある強敵キューバとの試合も、2度敗れた後の韓国との試合も素晴らしいものでした。日本シリーズの緊張感と高校野球のひたむきさが重なりあったすごい試合でした。
見事世界一に輝いた、王監督が率いる日本代表のみなさんの活躍を誇りに思います。これからも世界中の野球ファンのために頑張っていただきたいと思います。

 最近、景気が上向き始めたこともあって、雇用をめぐる状況も明るい話が出はじめてきました。一時期0.51倍まで低下した有効求人倍率は、最近では1.03倍に回復し、東海地方や関東地方北部では1.5倍を超える地域も出てきました。

 一時期5.5%あった失業率も、最近は4%台半ばまで下がりました。

 大学を出ても就職先がないと言われていた事態も最近改善しはじめ、大卒の若者を採用する企業の採用予定人員は、このところ毎年20%を超える伸びを示しています。

 まだまだ、正規雇用が減少してパートなどの雇用が増えるという傾向から脱していませんが、雇用にも明るさが見えてきたような気がします。

 来週には、4月から始まる平成18年度予算が年度内成立することがほぼ確実になりました。これによって、ようやく見え始めた景気回復の動きをさらに確実なものにしていきたいと思います。

 東京では、一昨日、平年より7日早く、桜の開花宣言がありました。これからいよいよ春本番に向けて、明るい話がつづくように、頑張っていきたいと思います。

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[大臣のほんねとーく]

● WTO農業交渉における貿易ルール確立にむけて
  (農林水産大臣 中川昭一)

 3月10日と11日に英国・ロンドンで開催された「G6閣僚会合」に二階経済産業大臣とともに出席しました。この閣僚会合は、日本、アメリカ、EU、ブラジル、インド、豪州といったWTO交渉の主要プレーヤーが密度の高い議論を行う場であり、交渉全体の流れに実質的な影響を与える大事な会合です。

 WTO農業交渉については、昨年12月の香港閣僚会議において、関税削減などの各国共通ルールを本年4月末までに確立することとされており、現在様々な形で集中的な議論が行われています。

 我が国は、各国の異なる生産条件や社会・経済事情を踏まえ「多様な農業」が「共存」していけることを基本理念とし、輸出国と輸入国の間でバランスの取れた、柔軟な貿易ルールを求めて交渉に臨んでいます。

 具体的に申し上げますと、まず、開かれた貿易体制を確立していくことは重要であり、農産物の市場アクセスについても、その実質的な改善を行っていきたいと考えています。ただし、各国が様々な背景に基づいて設定している農産物の関税率について、一律に上限を設けるという、米国、ブラジル等の農産物輸出国の提案には、賛同できません。

 また、一部の重要な品目については関税削減の程度を緩和することとされていますが、この品目数をごく僅かに限定したり、あるいは不釣り合いに大きな低関税輸入枠の拡大を代償として要求したりしている国もありますので、こうした極端な考え方は取り入れられないようにし、より柔軟なルールを求めていく考えです。

 一方、貿易を歪曲するような国内支持(*)対策については、我が国はこれまでコメの制度改革をはじめとする農政改革を実施し、各国に先駆け大幅な削減を進めてきました。今回の交渉でも、大幅な削減案を提出しています。

 また、輸出国が補助金を出して輸出を支える政策についてですが、食料を輸入する側としては、これが最も貿易を歪める行為であるため問題であり、その廃止を訴えてきたところです。昨年の香港閣僚会議では、これを2013年に廃止することが決まりました。今後は、輸出補助金と同様の効果があるものに対してどう規律をかけていくかを議論することとなります。

 現在、我が国を含むG10諸国、EU等農産物の輸入国と、米国、ブラジル等農産物の輸出国の間で意見の隔たりが依然として存在している状況ですが、先般のG6閣僚会合でも、立場の差を縮めるべく各国が前向きに議論に参加し、方向がみえてきた論点もありました。しかし、4月末の貿易ルールの確立に向けて、交渉は予断を許さないところです。

 我が国は、世界最大の食料純輸入国です。この立場から、引き続き積極的に議論に貢献しつつ、我が国の主張がドーハ・ラウンドの成果に最大限反映されるよう、交渉に全力を尽くしてまいりたいと考えています。

* 国内支持:国内農業を助成するために用いられている補助金及び価格支
  持政策

※ 大臣プロフィール
http://www.kantei.go.jp/jp/koizumidaijin/051031/08nakagawa.html

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[ニッポンの元気]

● 日本の伝統を再構築する
  (桝一市村酒造場取締役 セーラ・マリ・カミングス)

(編集部注)筆者はアメリカ出身、長野県小布施町在住。小布施町の酒造場
     の経営を立て直すとともに町づくりに取り組んでいます。

 わざわざ地球の裏から日本へやって来たのは、本当の日本に出会いたいと思ったからです。ところが、日本が持つ古くからの面影は急成長によって、逃げていくばかり。これは待ったなし!取り戻せるのは今しかないと思って、できることをしよう、と行動し始めました。そうです。"できるだけのこと"は"できる"のです。

 まず、職人の後継者を育てようと考えて始めた桶仕込み酒の復活。葛飾北斎の「富嶽三十六景」に登場する桶屋さんの姿を見た時、この姿を一代だけで消してはいけない、と強く思いました。

 もうひとつは地瓦の復活です。地方の町並みの魅力の一つは「いらか(瓦)の波」。一枚一枚が個性的で表情がありながら、全体としては統一的な美しさがあります。残念ながら新しい瓦は均一化しすぎていて、このような美しさがありません。もう一度全国の村々や町々が地瓦を復活したら、地方の美しさも再現できるのではないか、と思って、小布施町ではまず自分たちから焼こう、と試みています。

 並行して月に1回「小布施ッション(*)」という知的な刺激の場であるサロンを開催しています。さらにアタマだけでなくカラダも使わなくちゃ、ということで毎年7月に「小布施見にマラソン(*)」というハーフマラソンのイベントも続けています。

 「台風娘」と恐れられながら、いろいろなことに取り組んでいるのは、日本の伝統文化が世界でも類をみない水準にあるから。そのことを、私は長野県小布施町という小さな町で発見しました。日本の地方には、信じられないほど素晴らしい生活の歴史があるのです。

 「瓦(変わら)なくっちゃ!」

 小泉純一郎首相に「外国人から見た観光まちづくり懇談会」でお目にかかった時、私は真っ先に、地瓦復活で使っているキャッチフレーズを言いました。覚えやすいフレーズでしょう!?このスピリットを胸に、みなさんと一緒に変わっていきたいです。

* 小布施ッション(Obusession):小布施で毎月ぞろ目の日に催されるイ
  ベント。Obsession(アイディア、意欲、こだわり感)+u(You)

* 小布施見にマラソン:小布施を見て、楽しみながら走る見に(ミニ)マ
  ラソン

※ 小布施の地瓦、小布施ッションの様子など
http://www.kantei.go.jp/jp/m-magazine/backnumber/2006/0323a.html

※ 執筆者の紹介
http://www.kantei.go.jp/jp/m-magazine/backnumber/2006/sarah.html

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[政府インターネットテレビ番組ガイド]

●新着情報(06/03/16~23)

 <1CH>らいおんウィークリー(06/03/13~19)
日本ファッションウィーク参加デザイナー表敬、中央交通安全対策会  議、防衛大学校卒業式 など

 <3CH>総理からのメッセージ
  ・小泉総理ラジオで語る-行革国会- H18.3.18放送
  ・防衛大学校卒業式における小泉総理大臣訓示

 <6CH>大臣のほんね
   中川昭一農林水産大臣(前編)

 <7CH>改革続行中
  ・「進む!省エネへの取り組み」
  ・竹中直人(構造改革の成果と挑戦)「日本ブランド」編
                   「チーム・マイナス6%」編
                   「感どうする経済館」編

 <8CH>ニッポンの元気
   山口県山口市
   「いっしょにまちづくりをしましょう! 協働に向けた取り組み」

●お知らせ
 <6CH>大臣のほんね
   松田大臣(科学技術政策担当、食品安全担当、IT担当)が登場しま
  す。
   松田大臣に聞いてみたいことをお寄せください。
    「テーマ」欄に「松田大臣に質問」とご記入ください。
    100字以内で、3月25日(土)までにお願いします。

   ご記入はこちら http://www.kantei.go.jp/jp/forms/dokusha.html

※ 政府インターネットテレビ
http://nettv.gov-online.go.jp/

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[小泉内閣の動き]

● 防衛大学校卒業式で訓示(06/03/19)
http://www.kantei.go.jp/jp/koizumiphoto/2006/03/19boudai.html
  訓示の中で、国際テロ組織の活動が活発なことなど今日の国際社会の差
 し迫った課題を示すとともに、自衛隊の国際平和活動の意義を強調

● 小泉総理ラジオで語る 行革国会(06/03/18)
http://www.kantei.go.jp/jp/koizumiradio/2006/0318.html

● 日本・マラウイ首脳会談(06/03/17)
http://www.kantei.go.jp/jp/koizumiphoto/2006/03/17malawi.html
  ビング・ワ・ムタリカ大統領と会談し、マラウイ共和国に対する無償資
 金協力のための交換公文署名式に立会い

● 民間国連ヤング大使の表敬(06/03/17)
http://www.kantei.go.jp/jp/koizumiphoto/2006/03/17young.html
  開発途上国の薬物乱用防止活動を支援する寄付金贈呈のため、ウィーン
 の国連薬物犯罪オフィスに派遣される6名の中高生が小泉総理を表敬

● 「東京発 日本ファッション・ウィーク」開幕イベント(06/03/16)
http://www.kantei.go.jp/jp/koizumiphoto/2006/03/16fashion.html  
  第2回「東京発 日本ファッション・ウィーク」開幕イベントとして、
 参加デザイナーによる表敬、ファッション・ショーを観賞

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[キーワード解説]

● IC旅券

 近年、パスポートの偽変造や成りすましによる不正使用が増加しています。テロとの闘いが国際社会で大きな課題となっている中、より偽変造が困難で、安全性の高いパスポートの開発に各国が取り組んでいます。

 すでに、ドイツ、オーストラリアなど9カ国で新しいパスポートが発行されていますが、日本では今月20日、新型パスポートを導入しました。

 新型パスポートの一番の特徴はIC(集積回路)チップを搭載、氏名、国籍、生年月日などのほか、顔写真を電磁的に記録していることです。

 このことにより、顔写真を貼り替えたパスポートを使用してもICチップに記録されている情報と照合することにより偽造を見破ることができるので、パスポートの偽変造が困難となります。

 スキミングなどもされにくい仕組みとなっており、セキュリティ面でも安全対策を講じています。

 新型パスポートは、今月20日以降申請分から発行されますが、今お持ちのパスポートは有効期間満了まで使用することができます。

 また、新型パスポートの発行に合わせて、成田空港などでICチップを読み取る機器を試行運用する予定です。今後、機器の整備や技術が進歩することにより、さらに不正使用防止の効果が高まることが期待されます。

 小泉内閣では、構造改革の柱の一つとして、「世界一安全な国、日本」の復活にむけて取り組んでいます。

※ 外務省ホームページ(Passport A to Z)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/passport/index.html

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[編集後記]

 今週号は、先日、官邸で行われた「外国人から見た観光まちづくり懇談会」委員のセーラ・マリ・カミングスさんからの特別寄稿をお届けしました。小布施町の魅力にいち早く気付き、それを革新的とも言えるほどのアイディアで発信し続けるセーラさんのバイタリティには脱帽します。
 私の地元、富山では、毎年9月に行われる「越中おわら風の盆」を本格的な通年の観光資源として整備して観光客を大幅に増やし、観光カリスマとして活躍していらっしゃる方がいます。日本全国で自分のまちの個性を活かした元気のあるまちがこれからもどんどん増えていくことを期待しています。
 卒業式のシーズンです。これまで慣れ親しんだ世界から新たな世界に飛び出す期待と不安がないまぜになった複雑な気持ちを皆さんも憶えていらっしゃるのではないでしょうか。卒業を迎えられた方の前途が素晴らしいものとなるようお祈りいたします。(じんえん)
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[ご意見、ご感想]

 今週号の感想はこちらから(3月26日まで)
http://www.mmz.kantei.go.jp/inq/inq_top.pl?INQCD=QA060323ka

 先週号の結果はこちらから(3月29日まで)
http://www.kantei.go.jp/jp/m-magazine/backnumber/kekka.html

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[小泉内閣メールマガジン]

<バックナンバー・配信先変更・配信中止>
http://www.kantei.go.jp/jp/m-magazine/

総編集長:内閣総理大臣 小泉純一郎
編集長:内閣官房副長官 長勢甚遠
発行:内閣官房内閣広報室(〒100-8968 東京都千代田区永田町1-6-1)


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約束履行:小泉メールマガジン英語版(紹介)。。

2006-03-23 20:22:38 | 教養・文化・歴史

 昨年秋口であったか、ブログ上で約束した事があった。

それは「小泉マガジン英語版」の紹介である。

本日午前9時過ぎ、いつもどおり小泉内閣マガジン(日本語版)が届いた。
何と同日、今日の午後(午後3時過ぎであったか)、いつも数日遅れるはずなのに、珍しく「英語版」が届いた。
そして思い出した。自分で約束したことを・・・
ちょうど良かった。本日、一緒に日本語版を掲載できる。
小泉内閣支持不支持?
そんな蘊蓄を云うつもりはない。通常、気楽に「英字新聞の社説」でも読んでいる気で目を通している。
またこの度、記事内容が明るく政治色少なく、楽しく読めるのでうれしい。

オオっと・・・
本日、大切な宿題がある。
19時45分から、NHKBS-2にて、アカデミー賞受賞映画作品シリーズを観なければならない。
スティーヴマックイーン、キャンディスバーゲン共演「砲艦サンパブロ」である。
名画であるぞ・・・
たぶん10時過ぎには終わるであろう。
それから「小泉マガジン」日本語版の編集を行い、今夜中に投稿したい。

「・・・!」
「はい、以前も無許可化にて、政府発刊の、当「メールマガジン」を転載投稿しました。内閣官房?メールマガジン編集局長?からの、お叱りを覚悟で・・・」
「・・・?」
「この度も大丈夫でしょう・・・」

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Koizumi Cabinet E-mail Magazine No. 227 (March 23, 2006)
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[Lion Heart -- Message from Prime Minister Junichiro Koizumi]
(Provisional Translation)


World champion at the WBC


Junichiro Koizumi here.

The Japanese national team won the world championship at the 2006 World Baseball Classic (WBC). Like many in Japan, I was on the edge of my seat the entire time as I excitedly watched the WBC semifinals and the final in front of the television.

The WBC took the form of 16 teams from Asia, Africa, North and South Americas, Europe, and Oceania, divided into four groups, competing against each other in a round-robin style tournament, with the top two teams from each group advancing. The second round consisted of two divisions playing in a round-robin elimination, with the top two finishers in each division making the semifinals.

Japan lost 3-2 against the powerhouse Republic of Korea (ROK) national team in the first round, yet still qualified for the second round as it finished in second place. In the next round,
Japan once more placed second, having again lost to the ROK, this time by a score of 2-1. The Japanese national team, however, did not give in to its chain of defeats. In their semifinal matchup, Japan defeated the ROK 6-0, advancing to the final on the strength of its strong teamwork.

The national team of the United States, the birthplace of baseball, failed to advance to the semifinals despite beating Japan 4-3 in the second round. Like Japan, the US finished the second round with a record of one win against two losses, but it placed behind Japan as its runs-allowed ratio was a mere 0.01 points higher than that of Japan.

The Cuban national team, which Japan played in the final, advanced to the championship game by beating the Dominican Republic in their semifinal matchup. Earlier in the tournament, Cuba had lost to Puerto Rico in the first round and to the Dominican Republic in the second.

The games against the superpower Cuban national team, which won gold medals at the Olympic Games a number of times, as well as against the ROK national team, following two earlier losses, were both splendid. They were fantastic competitions, possessing both the qualities of the tension felt in the Japan Series and the devotion seen in the all-Japan high school baseball championship tournament. I am proud of the performance demonstrated by the Japanese national team, led by manager Sadaharu Oh, which has risen to world champion. I have every hope that the players continue with their excellent work for the baseball fans around the world.

Promising assessments regarding the employment situation are starting to be heard, given the upward trend seen in the Japanese economy of late and other factors. The ratio of the number of jobseekers to the number of jobs offered by corporations, which had fallen at one point to 0.51, has recovered to 1.03 in recent days. In the Tokai and the northern Kanto regions, there are areas where this ratio has exceeded 1.5.

The unemployment rate, which at one point hit 5.5 percent, has recently fallen to the mid-4 percent range.

Nowadays, improvement is starting to be seen in the labor market, in which it was once said that even college graduates found it difficult to acquire jobs, as the scheduled number of recruitment spots for youths with college degrees at companies has been recording an increase of over 20 percent a year.

Although Japan has not yet been able to break away from its declining trend in full-time employment and increasing trend in part-time employment, bright signs are starting to be seen in the employment situation as well.

It is almost certain that the FY2006 budget, to begin from April, will be enacted next week, before the end of this fiscal year. Through its enactment, I will further solidify the move of economic recovery, which we are finally seeing.

In Tokyo, the arrival of cherry blossoms was announced two days ago. This is seven days earlier than usual. I will give my all to fill the air with happy news as we move toward the height of spring.


* Profile of the Prime Minister
http://www.kantei.go.jp/foreign/koizumiprofile/index_e.html

* The title of this column "Lion Heart" is a reference to the Prime Minister's lion-like hairstyle and his unbending determination to advance structural reform.

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[Special Contribution]

"Rebuilding Japanese Tradition"

by Sarah Marie Cummings, Director of Masuichi-Ichimura Sake Brewery

I traveled halfway across the world to reach this country because I hankered after the "true" Japan. But when I got here, what a shock! Rapid economic growth had led to the steady erosion of old traditions. There was no time to waste; I began to do what I could to keep those traditions alive. Doing what you can means taking action.

First came a drive to bring back barreled sake in an effort to cultivate successors to the craft of coopering. When I saw the cooper in Katsushika Hokusai's 36 Views of Mt Fuji I knew we couldn't let this beautiful trade vanish overnight.

A vista of rippling tiled roofs can be one of the most appealing features of a country town. The aim of the next initiative is to revive local tile-making. New (mass produced) tiles are far too bland. Too often we have lost that old scenic beauty, where each tile had an individual character while contributing to the overall visual impact. In Obuse we hope to fire our own local tiles in an effort to bring tiles back to every town and village in Japan.

We have a meeting once a month called "Obusession," where people can learn and exchange ideas. And in a move to exercise not just the mind but the body too, in July of each year we hold a half-marathon, the Obuse Sightseeing Marathon.

I've been called the "Typhoon Girl" for my whirlwind approach. What is the source of this fierce enthusiasm? The answer is the unrivalled quality of traditional Japanese culture, revealed to me through life in a small town in Nagano Prefecture. The traditions of rural life hide centuries of the most incredible history.

Kawaranakucha! (No "tile" to waste; we must change now!)

I explained this phrase to Prime Minister Junichiro Koizumi at a recent "Meeting on Community Building for Tourism from Foreigners' Viewpoints." In Japanese, the phrase is simple to grasp and remember. With this slogan in our hearts, let's all change together.


* Rippling Tiled Roofs of Obuse, Activities of Obusession, etc
http://www.kantei.go.jp/foreign/m-magazine/backnumber/2006/0323a.html

* Profile of contributor
http://www.kantei.go.jp/foreign/m-magazine/backnumber/2006/sarah.html

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[What's up around the Prime Minister]

- Prime Minister Delivers an Address at the National Defense
Academy Graduation Ceremony (March 19, 2006)
http://www.kantei.go.jp/foreign/koizumiphoto/2006/03/19boudai_e.html
Prime Minister Koizumi congratulated the graduates, underlining the significance of the Self-Defense Forces in international peace activities.

- Japan-Malawi Summit Meeting (March 17, 2006)
http://www.kantei.go.jp/foreign/koizumiphoto/2006/03/17malawi_e.html
Prime Minister Koizumi held a meeting with Dr. Bingu Wa Mutharika, the President of the Republic of Malawi.

- The United Nations Young Civic Ambassadors Pay Courtesy Call on the Prime Minister (March 17, 2006)
http://www.kantei.go.jp/foreign/koizumiphoto/2006/03/17young_e.html
Prime Minister Koizumi received a courtesy call from the Young Civic Ambassadors who participated in the campaign for assisting developing countries to prevent drug abuse.

- Opening Event of the Japan Fashion Week in Tokyo (March 16, 2006)
http://www.kantei.go.jp/foreign/koizumiphoto/2006/03/16fashion_e.html
Prime Minister Koizumi received a courtesy call from fashion designer Ms. Hiroko Koshino and other members, and viewed an on-site fashion show presented by the participating designers.

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[Koizumi Cabinet E-mail Magazine]

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General Editor : Prime Minister Junichiro Koizumi
Chief Editor : Deputy Chief Cabinet Secretary Jinen Nagase
Publication : Cabinet Public Relations Office
1-6-1 Nagata-cho, Chiyoda-ku, Tokyo 100-8968, Japan

Apology,, :「エセ男爵Blog」、メールの公開とお詫び・・

2006-03-23 10:38:52 | つれずれ紀行
 おはようございます。

朝っぱらから「お詫び」の掲載を致します。
       (もうそろそろお昼時間になりますか?)

昨日、はたまた数週間前、一部のご友人の方々に対し「Eメールアドレス」をご案内申し上げたところ、慌てて「間違ったアドレス」をご報告。
あらためて、正しいアドレスをお知らせ致します。
そしてこの際、
一部の読者の方々のみならず、いつも「エセ男爵ブログ」をお尋ね下さる、全ての皆様にご案内すべき事なれば、失礼があってはならぬ。と、思い立ち、本日当記事「メールアドレスの公開とお詫び」と、相成りました。

そして、肝心なる「正しきアドレス」は、以下の通り、

baron24ese@goo.jp 

・・・と、なります。


どうか、不肖・エセ男爵の不注意と不手際、お許しいただきたく、深くお詫び申します。

ほんとうに申し訳ございません。

尚、
これに懲りず、引き続き当ブログにお越し下さいますよう、あらためまして、全ての読者の皆様にお願い申し上げます。

また、お越しいただいた節は、大変お手数をお掛けいたしますが「人気ブログ・ランキング」なる『特別サイト』にご訪問頂き、「エセ男爵ブログ」の悪評?不評?不人気度?なるもの、(人生の左右に影響なき?)ブログなるものの「浮き沈み」等々、状況の確認方、宜しくお願い申し上げます。

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連載小説「フォワイエ・ポウ」(第13回):待つ苦しみ?初来客のスタンバイ・・

2006-03-22 19:17:46 | 連載長編小説『フォワイエ・ポウ』
    
      長編小説「フォワイエ・ポウ」3章

                   著:ジョージ青木

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連載小説「フォワイエ・ポウ」ご愛読の方にお願いです!
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これがメモの内容であった。
決して上手な文字とはいい難いが、心のこもった丁寧なボールペンの筆跡である。店に入って走り書きしたものではない。このメモはたしかに事前に用意されたもの、時間をかけて何度も書換えた様子は、本田にとっては充分に伺える。
(以上、前回掲載最終文)

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開店(1)-3

 世間は狭い。旧態依然とした閉鎖的な地方都市は、世間に多く存在する。H市にも独特の性格がある。

H市の世間は、確かに狭い。

本田みずから夜の商売を始めることについて、けっして隠し立てするつもりはない。かといって積極的に言いふらしたくもない。
何処で、誰と誰が、繋がっているか?
3年前に退職した会社の仕事でお世話した客は多い。近隣他県にまたがり、しかも15年の間、千人以上か?あるいはもっと多くの旅行客を取り扱い、お世話している。このメモだけで、叔父と称する人物の名前と顔が一致するはずも無く、なにがなんだか、本田にはよくわからなかった。15年間にまたがり、お世話した客の顔と名前を全て暗記する技など、持ち合わせているはずもなかった。多くの顔、多くの名前、お世話した方、いや、逆に本田がお世話になり、励ましてもらったお客様は、多かった。サラリーマン時代の本田への顧客の評価は、満点に近いものがあった。この数年間、しかし本田は意識して過去の自分を棄て去ろうとしていた。

仕入れ先の酒屋の親戚の人物が、本田のお世話した旅行客であっても、不思議ではない。事実、今の本田の動向を知っている人物が存在しているのである。
本田は励まされた。
あらためて、メモを読み直した。岡本君のさりげない心使いに、ますます好感をつのらせた。

スナック「フォワイエ・ポウ」には、元マスターの山根が残した大きな資産がある。いいかえれば、もうひとつの本田への贈物があった。それはまさに本田好み。本田にとっては、かけがえのないすばらしい遺産であった。
一体、それは何か?
マニアックな人なら大いに興味を示すシロモノ。
知る人ぞ知る、山根の遺産はたいへん豪華な音響設備なのである。大型の菓子箱を5~6段積み上げたような古式豊かなアンプ一式が、カウンターから正反対側のコーナーに組み込まれ、音響メカニックの機能美を見せ付けるが如く、今もそうとうな迫力をもって鎮座している。
電源を入れ、本田の好きなモダンジャズのテープを回し、店内に音を入れた。天井に釣上げられている巨大なスピーカーから、柔らかなトランペットの冴えた音が、出る。棘(トゲ)の刺さるような今のCDプレーヤーの音とは桁違いに滑らかに、すんなりと耳から入り、一旦入ればじんわりと、身体全体に沁み込んでくる。
(この店はジャズ喫茶ではない。だから、うるさ過ぎても賑やか過ぎてもいけない、ヴォリュームはこれでいいだろう。これでBGMのセッティングは完璧だ)
さらに店内の照明を調整しなければならない。本田の判断で、明るさは約半分以下に落とした。

手元の時計は、午後7時。

(さあ、開店だ! さあ、今からどうなるか、さっぱり分からないが、やるだけやってみよう・・・)
いよいよ本番の覚悟をした。

入り口左の壁にある一番右のスイッチを入れ、ビルの表の看板に明かりを灯した。わざわざエレベーターで一階まで降り、表入り口に立って看板を見上げた。
黒一色の中に白抜きの字で、フォワイエ・ポウ!
確かに、まちがいなく自分の店の看板に、電気がともっているのを自分の目で確認した。納得した本田は再びエレベーターで3階に上がり、店に戻った。
店に戻ったものの、また本田は迷った。
客が来るまでどうすればいいか、どこに立っていればいいのか?あるいは座っていてもいいのか?何をどうするか?開店の準備は全て整っているから、今さらあわてて準備しなければならないことは何もないのである。しかし本田は、まったく人の存在しない店の中で、自分自身の立ち居振る舞いに困っていた。
(そうだ、マスターの基本は、まずカウンターの中で立っておかなくては、立ったまま待機すべきであろう!)
カウンターの中に入る自分自身を想像するだけで気恥ずかしく、照れくさくなってしまう。あれこれと考えあぐねた結果、カウンター席の一番奥の椅子に座り、さりげなく待機することにした。


   <・・続く・・>
 
 (次回掲載予定日:3月24日金曜日)


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掲載済み「小説・フォワイエ・ポウ」を遡ってお読みになりたい方、以下各掲載日をお開き頂き、ご覧頂けます。

「第1章」
1)第1回掲載「第1章」(メタリックレッドのロールスロイス)(2月9日)
2)第2回掲載(2月10日)
3)第3回掲載「1章」(クリームチーズ・クラッカー)(2月15日)
4)第4回掲載(2月17日)
5)第5回掲載:「1章」完(2月22日)
「第2章」
6)第6回掲載「2章」(安易な決断-1)(2月24日)
7)第7回掲載「2章」(安易な決断-2)(3月1日)
8)第8回連載「2章」(安易な決断-3)(3月3日)
9)第9回掲載「2章」(安易な決断-4)(3月8日)
10)第10回掲載「2章」(安易な決断-5)最終章(3月10日)
「第3章」
11) 第11回掲載「3章」(1開店)(3月15日)
12)第12回掲載「3章」開店(1-2)(3月17日)

<掲載画像>:(数週刊前の投稿画像と同じレストランにて、定位置撮影したものであるが、少しばかり撮影角度を違えて撮影した。スペイン・マドリッド市内にて、撮影。イベリア半島の夏場の猛暑は、いかにも厳しすぎる。そんな猛暑を少しでも凌げるよう、建物の中地階に設備された、いかにもスペイン風ローカルレストラン。煉瓦の組み合わされたレストラン内部と天上のアーチ。いかにもムーア風。中東風・アラビア風とでも言うか? スペインの中世文化を漂わすムードを演出する・・・)