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連載小説「フォワイエ・ポウ」(14回):オープン初日、最初の来客は?・・

2006-03-24 12:25:15 | 連載長編小説『フォワイエ・ポウ』
    
      長編小説「フォワイエ・ポウ」3章

                   著:ジョージ青木

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(2)-1

開店まもなく、いや5分と経たないうちに、
トントン・トントン・・・
店のドアーをノックする音が聞こえる。

(誰だ?わざわざドアーをノックする奴がいるか! ここは誰でも入れる大衆バーだ。格好つけてキザにノックなどするなよ。客ならそのまま堂々と店に入ってくればいい・・・)
と、思いながらも、発した声の中身は、
「は~い、お待ち下さい・・・」
ちょっと違っている。これは、少し変な対応言葉である。
(いや、違った、ここは自宅でもなく事務所でもない。掛け声?いや違う、挨拶、いや違う、対応の言葉が違うぜ・・・)
反射的に席を立ち、早歩きで入り口方向に向かいながら、直ぐに言葉を言い換え、使い分けた。
「はい、いらっしゃいませ」
ほぼ同時に、ドアーが開いた。
大きな花束を持った女性が先に入り、続いてもう一人、女性がついて入ってきた。
「・・・」
とっさに言葉が出なかった。
二人の女性のうちの一人の名は木村栄。クラブのホステスである。
とっさに言葉の出ない本田は、二人の女性に対し、ただ単に微笑み、心で歓迎した。
「おはようございます・・・」
先に声をかけたのは木村栄からだった。すでに夜であるが、夜の業界では、出勤した毎夜、互いに初めて声をかける場合、必ず『おはようございます』と、声を掛け合うのがこの業界の習慣なのだ。
「おめでとうございます。これ、私たち『サンチョ』の子から、女性みんなからの、本田さんへのお祝い!」
大きな花束を本田に渡そうとしている。
「そしてもう一つ、これ、マスターから預かってきました」
花束の傍らに、派手な祝儀袋を携え、直ちに本田に渡そうと両手を差し伸べている。しかし、その姿勢でまた喋るから、本田も直ぐには受け取れない。
「あ、本田さん、ご存じないかと思いますので紹介します。山本美智子さん、一ヶ月前に入りましたうちの店の女の子です。宜しくお願いします」
「はじめまして、山本美智子です」
「こちらこそ、はじめまして、本田です。いつもお世話になっています」
彼女は本田に名刺を渡そうとして、ハンドバッグの中から名刺入れを取り出そうとした。
「あ、美智子ちゃん、後でいい後でいい、ちょっとお酒飲もうよ、一杯入れてから、お店に出ればいいのよ、今日はあのタコ、タコマスターはうるさくないよ。タコマスターから言い出したことじゃないの。自分がいいつけたんだから、もう知ってるから。だから私達、先に本田さんのお店に寄ってくる事、分かってるからさ、大丈夫よ。一時間くらい遅刻したってさ・・・」
「・・・」
自分たちのクラブでは、どちらかといえば無口でおとなしい木村栄である。しかし、なぜか今日はよく喋る。
花束を差し出しながらも、おしゃべりが止まらない木村栄の会話の間を縫って、本田はようやく自分の声の出せるタイミングをみつけた。
「・・・あらためて、いらっしゃいませ・・・ さかえさん」
「はじめまして、山本さん!」
笑みを浮かべた表情は一切変えず、本田の視線はすばやく二人の目を直視する。三人の視線が、合う。
「ようこそ、フォワイエ・ポウへ、お待ちしていました。いらっしゃいませ・・・」
ここでようやく両手を木村栄に差し伸べ、本田は花束と祝儀袋を受け取り、さらに右手に持ち替えながら、緩やかな動作で左手を水平にかかげ、カウンター方向に差し伸べた。
いかにも自然な動作であった。
この動作は紛れもなく、本田が旅行業界時代に会得した動作であった。けっして付け焼刃ではない、本田の持っているよい意味での素地が、さっそく出てきた。飾り気無く単純でスマートに、しかもさりげなく、客をカウンターに案内する動作なのである。本田のこの一連の立ち居振る舞いは、すでに木村によって確実にしかもしっかりと微細にわたって観察されていた。
「私たちも、あらためて、もう一度。ご開店、おめでとうございます!」
いつも自分の勤務している店の中では、どちらかといえば無口で、口を開けば男っぽい木村栄は、男性的というよりも、むしろ感受性の豊かな女らしい女性である。と、本田は見ていた。
(特に今夜は、いつもと少し違っている。今夜の木村栄は、あたかも自分自身に直接関係した出来事のように、本田の開店を喜んでくれているようだ!)
女性二人はワインを注文した。しかしグラスワインはサービスできない。ボトル一本注文しないとワインは飲めないと説明した。
「いいわ、白ワイン、一本お願いします。今夜、仕事でなければ、簡単に一本は空けますけど、余ったらまた、のみに来ますから、数日、いや一晩かな・・・ お店の冷蔵庫に、ワインのボトルをキープしておいて下さい。マスターお願いします」
すぐに本田は、思った。
(なんと、さかえ君らしい発言だよ・・・)
多くを語らず、本田は了解した。
冷たく冷やしておいた白ワインのボトルを開けた。おつまみは、客二人に対し、適度な量のクラッカーとソフトチーズを一皿に盛り付けた。
「さかえさん、チーズはお好きでしたね?」
「はい、大好きです。ワインとも合いますわ」
「お嫌いでなくてよかった。では、さっそくチーズをお出ししましょう」
ワインを口にしながら、女性二人の話は、にわかに弾んでいた。自分たちの花束を活け込もうと、張り切っていた。空いている花瓶があるかどうか?木村は尋ねた。トイレの中に一つあった。自分たちが持ってきた花束を、たちまちその花瓶に活けこんでしまい、ぎりぎり客の邪魔にならないカウンターの一角に置いた。
「本田さん、これでいいでしょう? マスターに、活花なんかさせてはいけないって、ちゃんと分かってますから。だから、私達でお花を活けさせて頂きました。ご心配なく・・・」
「さかえさん、どうもありがとう。さすがだ、わかってるんだ。だから私は、最初から貴女のフアンでして・・・」
「あ~ うれしい! 照れちゃいます」
今日の木村栄は、ほんとうに照れている。
「さあ、美智子さん、あらためてワイン飲みましょう!」
「は~い、いただきま~す」
本田は、すすめられた最初のグラスだけ彼女達に付き合ったが、それ以上は断った。最初のグラスも、本田は意識して、ほとんど口をつけていなかった。にもかかわらず、すでにワインボトルの中身は、半分近く空いている。二人とも酒はいける方だし、かなり強い。あらためて本田は認識した。
「そろそろお勘定しておいて下さい。マスター、マスター、そろそろお客さんがお見えになるでしょうから、お客さんがお見えになる前に、私達のお会計済ませて下さい」
木村栄の発言を聞いた本田は、瞬間とまどった。
(そうか、自分は客に酒を飲ませて商売しているのだ。お金をもらわなければならないのか?・・・)
今まで自分が客として彼女の店に出入りし、自分がお金を支払っていた立場が、今は逆になっている。木村宛に、計算書を書くのが恥ずかしかった。しかし、思い切って、書いた。
計算書を見た後の木村栄の表情は、止まった。目が点になっていた。
「マスター、これはお支払いできません。この金額では、いけません!」
「エ! なせ?」
本田はたじろいだ。

   <・・続く・・>

 
 (次回掲載予定日:3月29日水曜日)

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* 発表済み「小説・フォワイエ・ポウ」、掲載各号一覧・・

「第1章」
1)第1回掲載「第1章」(メタリックレッドのロールスロイス)(2月9日)
2)第2回掲載(2月10日)
3)第3回掲載「1章」(クリームチーズ・クラッカー)(2月15日)
4)第4回掲載(2月17日)
5)第5回掲載:「1章」完(2月22日)

「第2章」
6)第6回掲載「2章」(安易な決断-1)(2月24日)
7)第7回掲載「2章」(安易な決断-2)(3月1日)
8)第8回連載「2章」(安易な決断-3)(3月3日)
9)第9回掲載「2章」(安易な決断-4)(3月8日)
10)第10回掲載「2章」(安易な決断-5)最終章(3月10日)

「第3章」
11) 第11回掲載「3章」(1開店)(3月15日)
12)第12回掲載「3章」開店(1-2)(3月17日)
13)第13回掲載「3章」開店(1-3)(3月24日)


(添付写真・解説):
<Photo>:from Wikipedia; The hotel bar for serving verious alchoholic drinks, liquors and/or softdrinks. One of finely established bar, which one is in Swizerland